【短編小説】⑪走り抜くこと〜誰よりも先に駆け抜ける〜
第11話 熱のあとの静寂
駅伝大会の翌朝、
梨央は全身の激しい筋肉痛とともに目覚めた。
一歩踏み出すたびに悲鳴を上げる足に、
昨日の熱狂が夢ではなかったと実感する。

冬休みの登校日、
陸上部の部室を訪ねると、
顧問の早瀬が一人で記録用紙を整理していた。
「先生、ストップウォッチを返しに来ました」
早瀬は時計を受け取ると、
いつになく真剣な眼差しで梨央を見た。
早瀬「お前には、タイム取りの裏方で終わる人間ではない。月見草という地味で美しい花もあるが、お前は周りをもっと明るくする向日葵になれ! お似合いだ」

突然の正式な入部勧誘に、
梨央は一呼吸おいた。
これまでは留年回避の「作業」だった。
しかし、今は違う。
「先生、私……走りたいです。正式に、選手として受け入れてください」
梨央の承諾に、早瀬は満足げに頷いた。
さらに驚いたことに、梨央の走りに
心を打たれた近所の住人たちから、
地元の「駅伝サークル」へも誘いがかかった。
サークルには、
梨央やライバルの夕香だけでなく、
意外な面々も顔を揃えた。
新聞部の若手男女二人、そして部長の千景だ。
「最近体重が減らなくて」と
渋々ダイエット目的で始めた千景たちだったが、
大会で共に走った小中学生や社会人、
中高年の方々と交流するうちに、
走る楽しさに目覚めていった。

サークルで町の色々なコースを走る中、
梨央は驚いた。生まれてからずっと住んでいる町なのに、
走ってみて初めて気づく美しい風景や
知らない路地が沢山あったのだ。
「走って気がつかないことが、こんなにあったなんて」
親睦を深めるため、
他の町のチームを誘って
小さな駅伝大会を企画することになった。
メンバーからは
「ここの竹林を抜ける美しいコースを走りたい」
と要望が上がる。
しかし、そこには大きな壁があった。
公道であるはずの場所を
勝手に「私道」として竹林を伐採し、
自分勝手な家を建てて不法占拠している住人がいるのだ。
これを知った新聞部部長の千景は、
持ち前の正義感に火がついた。

SNSで事の現状をあからさまに公開すると、
瞬く間に拡散され、
マスコミが取材に訪れる騒ぎとなった。
しかし、これが火に油を注ぐ。
不法占拠の家主は激昂し、
これまで以上に和解を拒否する姿勢を鮮明にしたのだ。
町の美しい風景を取り戻し、
皆で走るために。
梨央たちの「走り」は、
思わぬ社会の歪みと対峙することになった。
【連載中】短編小説『天空の鏡』
【完結】短編小説『ブラッドオレンジに染まる・・』
【完結】短編小説『沈む七色の海〜町に希望が灯る』
