【ちょっと昔の世界一周】 #59 《RPGではないけれど...》
若干の肌寒さを感じて目が覚める。
砂漠の上に敷いたゴザから飛び出していた腕の砂を落とし、上体を起こす。
砂漠ツアーの二日目。
日の出前の砂漠の涼しさが身に染みる。
昨夜は砂漠とは思えない豪華な夕食を食べたり、滅多にできないであろう自然との一体感を感じることができた。
*****
私たちは揃って沈んでいく太陽を見た後、車まで戻るとだいぶ食事の準備が進んでいた。途中でした買い物のおかげか、食材は色々あるようだ。
ツアー代自体はそれほど高くなかったので、食事は期待していなかったのだが、しっかりとした料理が作られていく。
考えてみれば、昼食もなかなか豪華だった。
観光しながら進んでいたが、休憩に立ち寄った建物は食堂というよりは家のような雰囲気。
それでも私たち六人とガイドの他にも、出迎えてくれたそこの家の主人といった人たちがゆったりと座れる広い空間が用意されていた。
そこでもご飯や肉、野菜が一皿に山盛りに盛っている食堂をみんなで食べた。
と、ここで感じた。
さっきからガイドたちは味見をよくしている。
今はラマダン中、要はそういうことだろう。
旅人や旅人に関わる人たちはラマダン中でも飲食の制限は緩くなる。
仮に私がムスリムだったとしたら、率先して同じ行動をするであろう。別に彼らが悪いわけでもないし、問題のない行為だ。むしろ、そのおかげで親近感が湧いてくる。
日が沈み、辺りを暗闇が包み込む。
車のライトで調理場を照らし、それとは別の小型のライトを近くに置く。
準備が整ったようで、私たちはそこに座り込み昼に続き豪華な夕食をとった。
食べ終わると私たちに一人分ほどのゴザが渡され、寝る時はこれを敷け!と教えてくれる。
日が暮れてすぐの砂の上はそれなりの温かさがあるのだが、時間が経つにつれて冷えていくとのこと。なので、朝方は冷え込むようだ。
タク君たちに準備した方がいい物を聞いていたので、久しぶりにウインドブレーカーを持ってきていたこともあり、それをかければ防寒対策は問題はなさそう。
もう一飲み(食べ)しているガイド達を横目に、各々の寝床を探して眠りにつく。

周囲の灯りはほぼない。
なので、横になると目の前に広がるのは一面の星空。
こんなにも星を見たことが今までの人生であっただろうか...
私の身体の中にある熱は砂漠に吸い込まれ、遥か遠くにあるはずなのに、まるで私を押しつぶすかのような圧倒的な広がりを見せる星空との間で、私は眠りについた。
*****
先ほどまでの涼しさを切り裂くように、地平線から太陽が顔を出す。
みんなも目が覚めているようで、日の出をゆったりと見ている。


その間にガイドの人たちは朝食の準備にとりかかる。朝食といっても、昼や夜とは違いパンにジャムのようなもので簡単なもの。
そして、食事を済ませた私たちを乗せた車はカイロへと向かっていく。
一泊二日だったが、あっという間に時間が過ぎていった。夜、そして日の出前から素敵な体験ができ、とても充実したツアーを過ごすことができた。
宿に着き、私は改めてペンションさくらへとチェックインをする。これで、エジプトでの滞在先は一安心だ。
ツアーメンバーもそれぞれ荷物を置いて、再びリビングに集まってくる。
シホさん達は明日、エジプトを離れるのでこのあとはゆったりと観光をするとのこと、
そして、男性メンバーはというとピラミッドには行きたいが、ユウタさん以外は明日も時間があるからどうしようといった感じ。
ピラミッドは日差しがあるので昼間は暑い。
そう聞いていたのだが、今から行けばちょうど昼頃に着くだろう。
私も、それなら明日にしようかな。といいことにして今日はゆっくり過ごすことに決める。
明日には帰国するユウタさんは急いで準備をしてピラミッドへと出発する。タク君とナオヤ君は一休みしていると言っているので、私は一人で街歩きに出ることにした。
カイロには観光にも地元の人にとっても有名な市場があると聞いていたので、オーナーに場所を聞いてみる。
聞けば、ハンハリーリという名前で歩いて行って一時間かからないくらいのとのこと。特に予定はないので、他の場所も見ながら行ってみることにする。
いつものように準備を整え、万が一道に迷った時用にオーナーに市場の名前を書いてもらった紙をもって街へと出かけて行った。
*****
タハリール広場から、比較的大きな道を通っていく行き方を教えてもらい歩き始めたが、歩いていくと寄り道をしたくなる。
気になった場所に寄りながら歩いていくと案の定、場所があやふやになってきた。
とはいえ、多分目標の大通りは遠目に見えているので何かあればすぐに戻れそう。ラオスでの迷子とは違い、今はそれなりに経験も積んでいることもあり、何となくの方向に進み出す。
そんな感じで歩き続けていると予想通り、道端で涼んでいる人たちから声をかけられる。
日本人か?いつエジプトに来た?ピラミッドは行ったのか?という定番の質問に答えていると
「Where are you going ??」
と聞いてくる。
ハンハリーリ!と答えると、指をさして教えてくれる。タクシーの運転手の件もあり親切だなぁ〜と思ったのだが、その方向は私を悩ませた。
私が進もうとしていたのは左斜め前方の方向。
だが、彼が指さしているのは右斜め前方。
全然違う...
本当に?と聞くが、そうだ!と自信満々で頷いている。
ひとまず、彼の顔を立てる意味で礼を伝えその方向に進んでいく。
彼の姿が見えなくなった辺りで、立ち止まり場所を考える。
多分、この辺から左斜めに進んでいけば戻れるだろう。だが、もう一度確認しておこうかと思い、同じように涼んでいた男性に声をかけ、改めてハンハリーリの場所を聞くと、、、
右横の道を指差した!
完全に逆である...
ハンハリーリだよ!市場だよ!と聞くも、そうだよ!と今回も自信満々の表情。
これは自分が間違っているのか...
そう思い、彼らを信じてみることにした。
しばらく歩き、細い道に出る。
これだけは間違いなく言える。
オーナーが教えてくれた道では絶対にないであろう。
こうなると、あとは私の勘とコミュニケーション能力頼り。
片っ端から声をかけ道を聞く。
この道を真っ直ぐだ!
左に曲がって二本目を右だ!
左斜めの道を行け!
そして、最終的にハンハリーリ市場へと辿り着く。
意外とイケるものである!(笑)
想像するに、オーナーは分かりやすい道を教えてくれたが、他の人たちは自分が行く道を教えてくれたようだ。
目的地は同じ。
だが、旅行者向けの道ではなく、地元の人たちはいつもの道を教えてくれる。
私が最初に聞いた場所からすれば、最終的には左斜めの方角にあった。
だが、その道は若干の遠回りになっていた。
右方向に進み、真っ直ぐ進んでから左方向に戻る。
迂回したようだが、最終的にはカイロの街を掴みながら市場まで着くことができた。
最後の方は誰かに聞いたわけではないのだが、何となく人の流れ、街の雰囲気を感じていたら市場への道だった。
タカダさんと初めて屋台に行ったあの日の会話を思い出す。
どうやって店を探すか聞いた時の答え
勘
何となくの雰囲気・空気感で分かるようになると言っていた。
どうやら今の私の勘は、そのレベルまで辿りついてきたらしい。
RPGゲームのように敵を倒すわけではない。
それでも確実に私の中の経験値は増えている。
それが一定のレベルになると、何かしらの能力が身につくようだ。
・その人が良い人か悪い人かを見抜く
・積極的に声をかけられるようになる
・街の中でその店がある場所の雰囲気に気づく
こんな感じの能力は持っているだろう。
無事に市場へと着いた私は、中を見て回ったりしながら時間を過ごす。
そうしていると、段々と日が暮れてきている。
道路を見ると、初日の夕方に見たようにテーブルと椅子が並び始める。夕食の時間が近づいてきたのだろう。
私もそろそろ食事にしようと思い、食堂を探す。
そこで思い出したのが、エジプト名物の〝コシャリ〟
ご飯の上にマカロニなどがのっていて、トマトソースで混ぜ合わせる、炭水化物の固まりともいえる食べ物。
ここでも私の能力が働いたようだ。
あっという間に見つけた店のコシャリはなかなかの味。

自分のレベルアップを体感しながら、美味しい夕食を食べるのであった。

