【ちょっと昔の世界一周】 #34 《夜は明ける》
暗闇の中、船の動きとともに波しぶきが身体中に飛びついてくる。
ヨーロッパ、最初の訪問国であるイタリアを後にした私は、ギリシャへと向かう船の上にいた。
私たちを乗せ、地中海を進む船はなかなかの大きさ。
なので多少の強風や波が高くても順調に進んでいく。
しかし、船が進むことで発生する波しぶきは、夜が更けるにつれ強くなってきた風に煽られ、甲板を激しく打ち付ける。
チケットの購入時に
『部屋をとると値段も高いし、せっかくなら海風を感じるためにデッキにいよう』
そう考えたことを後悔しつつ、今回の旅では唯一になるであろう船旅は、私にとって想像以上の航海になっていた。
*****
とても有意義な時間を過ごせたローマから離れ、私はギリシャに向かうために地中海に面した港町【バーリ】へとやってきた。
やってきたと言っても、ここへ来た目的はギリシャ行きの船に乗るため。
なので船に乗る以外の目的は無い。
ローマからは電車を使い、到着後はいつものようにインフォメーションで宿を探す。
気がつくとこの流れをスムーズにできるようになっている自分に感心しながら話をする。
「できるだけ安い宿、できるだけフェリー乗り場に近い宿、お願いします!」
知っている限りの英語、イタリア語、ジェスチャーで伝えると笑顔で何軒か教えてもらえる。
地図に印をつけてもらい歩き出す。
海は見えないが何となく磯の香りが漂ってくる。
海に近い街まで来たんだ…と一人もの思いにふけりながら宿を探す。
教えてもらった宿はどれも値段は変わらず、イタリアに来て一番安い。
お金の悩みが少しは解決したことで、ミラノのことを思い出し、あれもいい思い出かな…と考えられるようになった。
最初に尋ねた宿が部屋も問題なく、宿の主人もいい人そうだったのでそのままチェックインし、荷物を下ろしフェリー乗り場へと向かう。
少し歩くと、見渡す限りの海・地中海が見えてきた。

リミニでも見たがあそこは間にビーチがあり、さらに入場料までかかったのでそこまで近づかなかったのだが、ここは道の横が海。
日差しはキツいが、とてもいい気分でフェリー乗り場までの道を進む。

何事もなく翌日のチケットを購入し、乗船時間等を確認しあとは自由時間。
とはいえ特に用事もない。
せっかくなので海を見ろ!と言わんばかりに海沿いに設置してあるベンチに腰を下ろし、地中海を眺め時間を過ごす。

改めて今までの旅を振り返る。
アジアでは、良くも悪くも毎日なにかしらのドタバタがあった。
そこからのイタリア。
最初は違いに戸惑ったが、次第に慣れてきた。
慣れたというよりも、その違いを感じることが楽しいと思えるようになってきた。
自分には合わないのでは…と感じたイタリア。
しかし、ここに来たことで時間の使い方が上手くなった気がする。
イタリアに来て良かった
私はイタリアでの旅をいい形で終えることができた。
*****
イタリア・バーリ発、ギリシャ・パトラ着の船旅。
今まで体験したことのない船での旅。
なので、何も分からないのだが乗船はできた。
チケット購入時の説明によると乗船券はデッキ(甲板)の利用で、部屋はないが一番安いとのこと。
もちろん私は部屋を取る気はない。
安いに越した事はない!
しかし、それが悪夢の始まりであった。
*****
乗船後、しばらくして船は動き出す。
デッキを見ると多くの人たちが乗っているようだ。
船が進む事で生じる波を見たり、水平線を眺めながらおしゃべりをしている。
優雅な船旅
その通りの光景が広がっていた。

そんな中、私はというと、、、
部屋がないので荷物と共に空いている空間に腰を下ろし、景色を眺めていた。
そこで気付いたのだが、部屋がないという事は荷物を置いておけないという事である。
こういう時が一人旅の苦労するところである。
荷物を何処かに置き、貴重品だけを持ち歩くこともできなくはない。
しかし、それでなくなっても何も言えない。
全てが自己責任
なので、今までは部屋で留守番をしていた荷物たちと一緒にいることにした。
次第に日が暮れてあたりが暗くなってくる。
当然のことながら、海は暗い。
船の電気以外は何もない。
段々とデッキから人がいなくなり、見てみると私と似たような格好をして、バックパックと共に過ごしている人しか残っていない。
彼らも部屋を取らなかった同士であろう。
各々、居場所を作り過ごしている。
私も場所を探したのだが、デッキのスペースで良さそうな場所はあまり空いていない。
船の端に近づけば近づくほど、波しぶきが身体中に飛んでくる。
なので中心部がいいのだが、残っているメンバーは基本荷物が大きい。
一人で二、三人分のスペースを使う為、あっという間に場所が埋まる。
出遅れた私は考えて、船の側面に向かった。
側面の通路はそれなりに広い。
中心寄りにいればそこまで水はかからない。
離れた隙に場所がなくなっては困るので、トイレを済ませ横になれるスペースがある場所でサブバックを枕にし横になった。
船内はエアコンが効いているせいか、涼しいを通り越して寒い。
さらに幅も狭いので横になると邪魔になるため、座り込むぐらいがいいところ。
それに比べ波しぶきさえなければ外は快適な場所だ。
『いい場所を見つけた…』
そんなことを考えながら眠りについた。
・・・・・
のだが、そんな私の考えはあっさりと打ち砕かれた。
日が沈み、さらに風が出てきたことにより時間が過ぎるにしたがって気温が下がってきた。
部屋の中は分からないが、船内の廊下よりは寒くないので移動はせず、バックパックをあさり旅が始まってから初めてとなる【ウィンドブレーカー】を取り出す。
その名の通り、風からくる寒さから身を守ってくれる。
これで一安心…
とはならなかった。
風が強くなったことで波が高くなってくる。
その結果、先ほどまでは濡れなかった場所が濡れている。
さらに風も強くなり気温も下がる。
寒く、狭い船内の廊下で過ごすか、ここにとどまるのか。
そんな時、こういう時に役に立つであろうアイテムがあることを思い出した。
再びバックパックをあさる。
先ほどよりも奥底にしまってある袋を取り出す。
手にした袋の中に入っているのは
エマージェンシーシート
出発前に非常時に便利ということで買っていた物。
ブランケットのように包まれば保温してくれて暖かいということは知っていた。
エマージェンシー(非常時)かどうか疑問だったが、寒さに困っているということを考えると非常時だ。
袋から取り出し広げる。
・・・・・
でかいアルミホイル…
初めて使ったのでどんな物か知らなかったが、これが正直な感想。
それに包まった私はさながらホイル焼きの中身である。
そして、
あまり暖かくない!
さらに音はうるさいし、水に濡れて変にくっついてとても使いづらい…
これで大丈夫!という気持ちを一瞬も持つことはなく、しまおうとしたが思ったように畳めない…
最終的にグシャグシャのまま無理やり袋に突っ込み、そのままそっとゴミ箱へ持っていく。
(後で調べたが、私の持っていた物は安さ重視で購入したので、ちゃんとした物を購入すれば違ったのかもしれない)
ここまでくると、もうどうにでもなれ!という気持ちが湧き上がってきた。
濡れるのが嫌になればさらに寒い船内に行くし、寒くなれば濡れてもいいから外に行く。
諦めととるか、悟りととるかは自分次第。
そうして、ウィンドブレーカーのフードをしっかりと被り、バックパックを抱えて眠りについた。
*****
数時間後、風は弱まり波も落ち着いていた。
ギリシャのパトラ行きのはずだが、どこか別の街へ寄る航路だったようで一度陸地に立ち寄った。
目的地でもなく、眠れたような眠れなかったような状態だが、少しずつ空が明るくなってくる中で見えた陸地は、確実に進んでいることを感じ取れて安心感があった。
その後、すぐに船は動き出し段々と陸地から離れて行く。
あと数時間でパトラに着く予定。
もう少しだ…
そんなことを考えていると、空が一気に明るくなった。

ちょうど山に隠れていた朝日が登ってきたようだ。
ふと、ラオスで雨宿りしている時に出会った人の言葉を思い出した。
「止まない雨はない」
その言葉と似ているが、明けない夜はない。
どんなに苦労してもいつかは終わる時が来る。
昨夜の出来事を忘れさせてくれるような朝日を眺めながら、残り数時間の船旅を楽しもうと決めた。

