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スポーツライター塾の話をします(3) Jリーグで取材環境が変わった 小林信也

〈スポーツライター〉って、どんな仕事をする人?
僕は日本で一番長く「スポーツライター」を名乗っている人間だと思う。
最初にスポーツライターの名刺を作ったのは大学卒業の前後だから昭和54年(1979年)ころ。仕事を始めたのはその2年前、昭和52年(1977年)だ。
その頃から僕の中にあるスポーツライターの方向性はそれほど変わっていない。簡単に言えば、フリーランスでスポーツ・ノンフィクションを書く人。それがスポーツライター。
当時は、スポーツノンフィクションがようやく広く認知され始めた時期だった。沢木耕太郎さんの《敗れざる者たち》など一連の作品と、少し後にナンバー創刊号に載って話題となった山際淳司さんの《江夏の21球》が注目され、スポーツ選手の心理や勝負の裏側って面白いと脚光を浴び、出版界ではある種ブームのようになっていた。それ以前は、有名な小説家たちが〈実話物語〉といった感じでスポーツのルポを書くことが多かったようだ。
沢木さん、山際さんをきっかけに、僕より少し上の世代のルポライターと称する人たちが、スポーツノンフィクションも手がけ始めた。山際さんもそうだが、ほぼ全員が普段はスポーツに限らず、政治的、社会的、芸能的なテーマも取材している人たちだった。
そんな中で、子どもの頃からスポーツをすること、見ることに熱中し、主にスポーツの分野に心を寄せて育ってきた、そして政治や社会問題より、スポーツを書くことに最も親しみを感じるタイプの書き手は僕のほかに、あまりいなかった。
こう書けばだいたい想像できると思うが、スポーツライターとは、スポーツノンフィクションを書く人というイメージだった。
人間的なストーリー、スポーツの光と影、スポーツを通して人生や社会を描き出すのがスポーツライター。僕はそう感じていたし、70年代の終わりから80年代にかけては出版社の編集者も同じイメージを共有していたと思う。なぜなら「スポーツライター」を名乗る僕への仕事の打診は大半が「ルポ」や「ノンフィクション」だった。

Jリーグの誕生で取材環境が大きく変わった
それが変わったのは、1993年にJリーグが誕生した頃からだと思う。
Jリーグ誕生によって、スポーツの発信が急激に増えた。
単純に言えば、急に〈サッカーライター〉とか〈サッカージャーナリスト〉が増えた。猛烈なJリーグ人気で需要が拡大し、フリーランスが増えた。それに影響されたように〈野球ライター〉とか、競技別の専門ライターが次々に誕生した。
それまで競技を専門に書くのはスポーツ新聞や専門雑誌の記者・編集者の人で、フリーランスのスポーツライターは種目を限定せず、魅力的な選手がいればどんな競技でも当然のように取材テーマにした。
もちろん、永谷脩さんのような野球専門の書き手もいらしたが、永谷さんは元々マンガの編集者で水島新司さんとの親交が深く、その縁で有名プロ野球選手たちと次々に深い信頼関係を結ぶという特別な才能・環境を持っておられた。

選手と仲良くなれば取材ができるという時代は半ば終わった
Jリーグ誕生によって、スポーツライターが競技ごとに専門化されたのと併せて、エージェントの台頭も取材に大きな変化をもたらした。それまでスポーツライターは、プロ野球であれ、実業団であれ、アマチュア選手であれ、取材したい選手の所属チーム(球団や企業、クラブ、学校)に連絡を取ればよかった。ところが取材申請の窓口がエージェントに変わると、取材可否の判断が大きく変わった。本人の気持ちより、エージェントのビジネス的な判断に支配されるようになった。ビジネス的な思惑や感覚を持つスポーツライターにとっては、エージェントと信頼関係を結ぶことで、仕事の幅が広がる時代になった。一方、それまでの職人的というのか、あくまで選手やチームとの共感とか相性、信頼関係を基に取材を重ねて執筆したいスポーツライターにとっては、話の通じないビジネスマンが間に入るような環境になった。大雑把に言えば、スポンサーメリットとか、選手のビジネスバリューが上がる取材や企画は歓迎され、それと別次元の人間ドラマをリアルに取材する、みたいな側面は重視されないどころか警戒される傾向が強くなった。

そんな時代にスポーツライターとして生きるには
スポーツビジネスの流れにうまく順応できる人が仕事を受けやすい。そんなものに順応なんかしたくない、というか、それと別次元の人間関係を築いて作品を生みたい僕のようなタイプは時代遅れとも言える。だから、いまさら〈古き佳き昭和の取材手法〉を塾生たちに教えようとは思っていない。
この時代にあっても、ビジネスの価値観ばかりに支配されるのでなく、作家として魅力を感じたテーマを作品に仕上げる方法論を塾生たちがつかんで行けるよう背中を押したいと考えている。
僕は幸い今も現役で仕事をさせてもらっている。つまり何とか時代に順応してきたわけで、そのあたりの経験も塾生のみなさんに伝えられるだろう。
時代が変わっても変わらない、スポーツの本質、魅力あるスポーツ選手の核心。そういった、ビジネスメリットより遥かに心躍る選手の魅力、スポーツに生きる昂奮に出会えるよう、未来のスポーツライターの背中を押してあげられたらいいなと考えている。

小林信也の本
既刊《天才アスリート 覚醒の瞬間》(さくら舎)
新刊《武術に学ぶスポーツ進化論》~宇城憲治師直伝「調和」の身体論~
(どう出版)

小林信也「スポーツライター塾」開講
「作家の学校」も受付中

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