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家族の話「47年経ってもキミが好き」#7 江戸時代に会いたかった 小林信也

いつものバス停で
自宅近くのいつものバス停で、肩をすくめてバスを待っている時だった。
「私たち、江戸時代に会いたかったね」
K子がまた唐突に言った。
今日も良く晴れた冬の日。故郷・長岡からは連日大雪のニュースが届くのに、東京は毎日晴天で申し訳ないようだ。
「えっ、江戸時代?」
僕が訊く。K子が言い出した意図は想像もつかない。K子は続けた。
「私が岡っ引きとして」
「岡っ引き?」
「おう、お前、またやりやがったなって」
言いながら指を僕の脇腹に付きつけ、十手さながらに押し付けた。
「こうやって、十手でさ」
「なに、それ、僕が何で捕まるの」
「逮捕じゃない、生き方を諭すの」
「生き方を?」

「学歴があってよかったね」
「ノブヤ、本当に大学出といて、よかったね」
それが最近のK子の口癖だ。多い時は1日に3回くらい言う。
「だって学歴がなかったら、ただ変なこと言うじいさんだと思われても仕方ないよ。ノブヤ、底抜けだからさ。うん、本当よかった、学歴があって」
「……」
僕はいろんな意味で返す言葉がない。当然、何言ってんだと思ってるから、ケンカする気にもならない。けど、K子に言われて、自分でも納得するところもあるからだ。日頃会話していて、K子にとって当たり前のことを僕は案外知らない。そういうことがたくさんある。
「学歴でほら、世間の人は信じちゃうでしょ、本当は頭がいいんだって」
反論しても無駄だ。けれど、次の言葉には仰天した。
「だってノブヤ、部室で受験したんでしょ?」
「部室って、野球部の?」
「そう」
「まさか! 受験はちゃんと大学の教室でしました」
「えー、そうなの、初めて知った」
初めて知ったって、むしろこっちが驚いた。
「部室というか、野球部の寮で受けたのは、秋にセレクションを受けた時。練習の後、学力を確認する模擬テストがあった。それは寮で」
いつかその話をしたことがあった。K子はすっかり、それが正式な受験だったと思い込んでいたらしい。ってことは、ノブヤの学歴はそもそもかなり怪しい、本当に頭の程度は? と、いちばん疑問符をつけているのはK子なんじゃないか。
まあ、47年も一緒にいるんだから、もうどっちでもいいけどね。

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