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【第485回】 Marketing Cloud Next : Flow Decisioning エージェント

まず、冒頭からお伝えしますと「Flow Decisioning エージェント」という正式な機能は存在しません。今回の記事で解説するのは、以前に記事で紹介した「Journey Decisioning エージェント」の Marketing Cloud Next 向きの仕組みになります。

今回の内容では、過去の記事を振り返りつつ設定方法を解説していきます。
改めて整理すると、Winter '26 の新機能として、Agentforce を活用し、顧客ごとに最適なジャーニーを AI が選択する「Journey Decisioning エージェント」が登場しました。

従来のセグメントトリガーフローや Marketing Cloud Engagement の Journey Builder では、あらかじめ定義した条件分岐をもとに、顧客を分けていく設計になります。

例えば、以下のような形です。

  • ① 購入回数が 3 回以上なら A のジャーニー

  • ② それ以外なら B のジャーニー

しかし実際には、顧客ごとの状況は、以下のように複雑です。

  • 最近は購入していないがメールはよく開封している

  • 過去の購入額は高いが、最近の反応は薄い

  • 値引き施策には反応しやすいが、ブランド訴求には反応しにくい

  • 同じ休眠顧客でも、次に実施すべき施策は人によって異なる

このような状況では、単純な分岐だけでは表現しきれない場面があります。

そこで Journey Decisioning エージェントを使うことで、リアルタイムの行動プロファイルやコンテキストに基づいて、どのジャーニーが最適かを Agentforce に判断させることができます。

そして今回解説するフロー版でも考え方は同様です。
Journey Decisioning エージェントが最適なフローを選択し、エンゲージメントシグナルをトリガーとしてフローを起動する仕組み になっています。

それでは本編では、この「フロー版 Journey Decisioning エージェント」について詳しく解説していきます。


Journey Decisioning エージェントの機能

Journey Decisioning エージェントでできることは、主に次の 2 つです。

1. 最適なフロー/ジャーニーを選択する

顧客の属性、行動、エンゲージメント傾向、Data 360 上のコンテキストなどをもとに、複数候補の中から最適なフロー/ジャーニーを選択します。これが最も基本的な機能です。

2. その顧客向けのコンテンツを生成する

それに付随して、選ばれたジャーニーに対して、件名、プリヘッダー、本文コピーなどのカスタムコンテンツを作成できます。

3 つ目の Personalization: Get Context は データグラフから顧客のコンテキストを取得するためのアクションです。

今回のフロー版では、Marketing Cloud Engagement 版とは異なり、「最適なフローを選択すること」に主眼が置かれている点にご注意ください。


ユースケース

今回は、EC サイトの休眠顧客施策で考えてみます。

例えば、90 日以上購入していない顧客に対して再購入を促したいとします。ただし、休眠顧客だからといって、全員に同じ施策を実施するのは最適とは限りません。

例えば、次のような違いがあります。

  • 過去にクーポン施策への反応が高かった人

  • 最近メールは開封しているが購入していない人

  • 購入額が高いロイヤル顧客

  • 反応がかなり薄く、まず関係性を温め直したい人

この場合、次のようなジャーニー候補を用意できます。

① クーポン再購入ジャーニー

  • 割引施策への反応が高い顧客に対して、限定クーポンを送る

② 新着商品レコメンドジャーニー

  • 最近の閲覧傾向や開封傾向をもとに、興味のありそうな商品を紹介する

③ ロイヤル顧客向け先行案内ジャーニー

  • 値引きではなく、限定性や先行案内によって再訪を促す

④ 再エンゲージメントジャーニー

  • すぐには販促せず、まずブランドへの関心を取り戻す

Journey Decisioning エージェントは、こうした候補の中から、
この顧客にはどのフローが最適か を判断します。

これが、通常の IF 条件の延長ではなく、“次の最適な施策” を選ばせる という考え方になります。


全体の構成イメージ

Journey Decisioning エージェントを利用する際の全体像は、次のようになります。

手順 1. Data 360 で顧客情報を利用できる状態にする

まず、顧客の属性や行動履歴、興味関心などを Data 360 側で参照できるようにします。これには データグラフを活用 します。

※ Journey Decisioning では、このコンテキストがとても重要になります。

手順 2. Journey Decisioning エージェントを有効化する

Marketing Cloud Next 側で Agentforce 関連機能を有効化し、Journey Decisioning エージェントを有効化 します。

Tips:まず Agentforce Employee Agent(AEA)を有効化 してください。これにより、マーケティング関連のエージェントテンプレートを使用できるようになります。

手順 3. ユースケースを登録する

ここで、エージェントが選択対象とするフローの「概要」と「期待される結果」を共に登録します。最大 5 つまで設定できます。

手順 4. フローからエージェントを呼び出す

Flow Builder で Journey_Decisioning_Agent アクションを実行し、対象顧客ごとに最適なフローを選択させます。

手順 5. フローで結果を利用する

振り分けの結果は Data 360 の DLO / DMO に保存されるため、それをみて、エンゲージメントシグナルが動き、イベントトリガーフローを発火します。


データグラフの活用

まず、Journey Decisioning では、顧客についての情報がなければ、適切な判断ができません。そのため、Data 360 側で評価対象となる情報を持つ データグラフ を準備する必要があります。

今回の例であれば、以下のような情報が考えられます。

  • 最終購入日

  • 累計購入額

  • 好みのカテゴリ

  • 開封傾向

  • クリック傾向

  • 会員ランク

  • 地域

  • 過去施策への反応

こうした情報をもとに、Agentforce が顧客ごとの文脈を理解して、最適なジャーニーを選択します。

設定方法

Journey Decisioning エージェントでは、Personalization: Get Context アクション を使用して、コンテキストを取得します。
Marketing Cloud: Journey Decisioning トピック には、以下の指示がふくまれています。この中の以下の 2 つを入れ替えます。

  • {DataGraph API Name}

  • {Agent Version ID}

  • DataGraph API 参照名を検索するには、Data 360 を開き、[データグラフ] タブに移動して、適切なデータグラフを見つけます。[データグラフ API 参照名] 項目で正確な名前を使用します。

  • URL でエージェントバージョン ID を見つけます。これは、URL で versionID= の直後にある ID です。

https://xxxxx.lightning.force.com/AiCopilot/copilotStudio.app#/copilot/builder?copilotId=0XxHp000000e2F3KAI&versionId=0X9Hp000000ebw6KAA


ユースケースの作成

Journey Decisioning エージェントでは、
各フローの概要と期待される結果 が非常に重要です。

なぜなら、エージェントはその説明を見て、

  • このフローは何のためのものか

  • どのような顧客に向いているのか

  • どんな成果を期待するのか

を理解するためです。

例えば、次のような説明は良くありません。

良くない例

  • 概要
    休眠顧客向けメール

  • 期待される結果
    再購入してほしい

これでは、他のフローとの違いがほとんど伝わりません。

一方で、例えば次のように書くと分かりやすくなります。

① クーポン再購入ジャーニー

  • 概要
    90 日以上購入がない休眠顧客のうち、過去にクーポンやセール施策への反応が高かった顧客に対して、限定クーポン付きメールを配信するフローです。単なる値引き案内ではなく、「今なら使える特典がある」という分かりやすい再購入のきっかけを提示することで、再訪問や再購入を後押しします。

  • 期待される結果
    価格訴求に反応しやすい休眠顧客の再購入率を高め、離脱しつつある顧客との接点を早期に回復することが期待されます。

② 新着商品レコメンドジャーニー

  • 概要
    最近メールの開封や商品閲覧はあるものの、購入には至っていない顧客に対して、興味カテゴリや閲覧傾向に近い新着商品を訴求するフローです。値引き中心の訴求ではなく、その顧客が今関心を持っている商品やカテゴリに合わせて提案することで、自然な購買行動につなげることを目的とします。

  • 期待される結果
    商品関心の高い顧客を購入へ転換し、閲覧止まりになっている顧客を次のアクションへ進めることが期待されます。

③ ロイヤル顧客向け先行案内ジャーニー

  • 概要
    累計購入額が高く、ブランドロイヤルティの高い顧客に対して、一般向けの値引き施策ではなく、限定性や特別感のある先行案内を送るフローです。例えば、新作の先行公開、会員限定オファー、特別イベントの案内などを通じて、優良顧客としての体験価値を高めることを重視します。

  • 期待される結果
    ブランド価値を維持しながら継続購入を促進し、優良顧客との長期的な関係性をさらに強化することが期待されます。

④ 再エンゲージメントジャーニー

  • 概要
    メールの開封、クリック、購入のいずれも低下している顧客に対して、いきなり強い販促を行うのではなく、まずはブランドや商品の魅力を再認識してもらうためのコミュニケーションを行うフローです。人気商品や特集コンテンツ、利用シーンの提案、読み物コンテンツなどを通じて、段階的に関心を取り戻してもらうことを目的とします。

  • 期待される結果
    反応の薄い顧客との接点を回復し、開封率やクリック率などのエンゲージメント指標を改善しながら、次の販促施策に反応しやすい状態へ引き上げることが期待されます。

このように、各フローの役割の違いが明確に伝わるように書くこと が大切です。

設定方法

1. 設定 > Agentforce & Gen AI に移動して、Journey Decisioning のセクションまでスクロールして、データキットをインストールします。

  • Journey Decisioning Agent Decision Bundle(DSO, DLO, DMO)

2. ユースケース名と概要を入力します。

  • ユースケース名
    休眠顧客向け再購入促進フローの最適化

  • 説明
    一定期間購入のない休眠顧客に対して、一律の施策を実施するのではなく、顧客ごとの反応傾向や関心度に応じて最適なジャーニーを選択するユースケースです。過去にクーポン施策への反応が高かった顧客には価格訴求を、商品関心が高い顧客にはレコメンドを、ロイヤル顧客には限定性の高い案内を、反応が低下している顧客には再エンゲージメント施策を行うことで、再購入率やエンゲージメントの改善を目指します。

3. 使用するマーケティング環境として Marketing Cloud(Next)を選択します。

4. 概要と予測結果と共に、エージェントが選択できるフローを 3 ~ 5 個追加して保存します。

5. 設定が完了すると、2 種類のフローが自動生成されます。このフローの中身は基本いじる必要はありません。

6. さらに、上で設定したエージェントが選択できるフローに呼応したエンゲージメントシグナルが作成されます。「 [AF] JourneyDecisioning ・・・」始まりで作られていますので、分かりやすいと思います。


フローの設定

1. まずは AI が選択するイベントトリガーフローを新規を立ち上げます。開始要素は、各エンゲージメントシグナルを選択してシナリオを作成します。

2. このイベントトリガーフローで利用するメールでは、データソースにイベントデータプロバイダーで開始要素と同じエンゲージメントシグナルを設定しておいた方が良いです。

3 続いて、セグメントトリガーフローを立ち上げ、新規のアクション要素を配置し、Journey_Decisioning_Agent アクションを設定します。

Journey Decisioning エージェントが有効化していないと表示されません。

入力値として以下のようなテキストを設定します。

  • サンプル入力値
    Use case: 1WoHp0000008OIFKA2(← ※ これはユースケース ID です)
    Select the best journey for the subscriber with unifiedIndividualId {!$Record.ssot__Id__c}.
    Use individualId only to retrieve personalized context.

4. これで設定は完了です。セグメントトリガーフローを実行します。

5. すると、エージェントがユースケースを読み、各個人を最も最適なフローへ送信します。成功です。

Marketing Cloud Engagement 版では、Journey Decisioning エージェントによって決定された際の情報は、データエクステンションに格納されていました。一方、Marketing Cloud Next 版では、結果は以下に格納されます。

  • 「Journey Decisioning Agent-JourneyDecisio」DLO

  • 「Journey Decisioning Agent Decision」DMO

最終的には、この DMO のデータをもとにエンゲージメントシグナルが発火されている、と理解してよいでしょう。

ここで、ピンと来ている方であれば、セグメントトリガーフローの後半に決定要素を配置し、そこで分岐させる構成を考えるかもしれません。
しかし、決定要素による分岐を正しく機能させるには、データグラフがリアルタイムで最新化されている必要 があります。決定要素ではデータグラフの値を利用するためですね。

そのため本構成では、この制約を回避する形で、エンゲージメントシグナルを活用し、即時に次のイベントを発火させることで、イベントトリガーフローへ処理を引き渡していると考えられます。

なお、十分な待機時間(例えば 24 時間程度)を設ければ、同一フロー内で完結させることも理論上は可能です。
ただし現状では、「Journey Decisioning Agent Decision」DMO がデータグラフで接続できない(Recency Field を設定できない)という問題があり、この点については、私自身も対応に苦戦している状況です。


考慮事項

Journey Decisioning エージェントは非常に面白い機能ですが、最初から複雑にしすぎると、かえって分かりにくくなります。

そのため、まずは次のような始め方がよいと思います。

  • 候補ジャーニーは 3 ~ 4 個程度に絞る

  • 各ジャーニーの目的を明確に分ける

  • 判断に使う顧客情報も絞る

  • まずはジャーニー選択だけ試す

  • 慣れてきたらコンテンツ生成まで広げる

特に最初は、
なぜこの顧客がこのジャーニーに選ばれたのか
を説明しやすい設計にしておくと、理解しやすいと思います。


いかがでしたでしょうか。

Journey Decisioning エージェントは、顧客ごとに最適なフロー/ジャーニーを Agentforce に選択させるための仕組みです。

単純な条件分岐では表現しきれない 行動傾向、属性、エンゲージメント、ロイヤルティ、そして Data 360 上のコンテキスト を踏まえながら、どのフロー/ジャーニーに進ませるべきかを判断できる点が、この機能の大きな特徴です。

一方で、STO などの AI 機能と同様に、AI による判断をどこまで信頼するかという視点は欠かせません。つまり、AI が選択した分岐をどこまで業務に委ねるかという点についても、同じ粒度で慎重に考える必要があります。

前述した考慮事項の通り、まずは 「なぜこの顧客がこのフロー/ジャーニーに選ばれたのか」 を説明しやすい設計にしておくことが重要です。そのうえで、実際の選択結果が想定通りになっているかを十分に確認しながら、段階的に活用していくのがよいでしょう。

※ なお、Journey Decisioning エージェントの利用には Flex Credits が消費されるため、大量送信で利用する場合はコスト面にも注意が必要です

今回は以上です。


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