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【第476回】 Marketing Cloud Next : Journey Decisioning エージェント

Marketing Cloud Next  の Winter '26 新機能リリースでは、Agentforce の機能を活用して、顧客ごとに最適なジャーニーを動的に選択することができる Journey Decisioning エージェント が登場しました。

従来の Journey Builder では、あらかじめ定義した条件分岐をもとに、顧客を分けていく設計になります。例えば、以下のような形です。

  • ① 購入回数が 3 回以上なら A のジャーニー

  • ② それ以外なら B のジャーニー

しかし実際には、顧客ごとの状況は、以下のように複雑です。

  • 最近は購入していないがメールはよく開封している

  • 過去の購入額は高いが、最近の反応は薄い

  • 値引き施策には反応しやすいが、ブランド訴求には反応しにくい

  • 同じ休眠顧客でも、次に実施すべき施策は人によって異なる

このような状況では、単純な分岐だけでは表現しきれない場面があります。

そこで Journey Decisioning エージェントを使うことで、リアルタイムの行動プロファイルやコンテキストに基づいて、どのジャーニーが最適かを Agentforce に判断させることができます。

今回は、この Journey Decisioning エージェント について解説します。


Journey Decisioning エージェントの機能

Journey Decisioning エージェントでできることは、主に次の 2 つです。

1. 最適なジャーニーを選択する

顧客の属性、行動、エンゲージメント傾向、Data 360 上のコンテキストなどをもとに、複数候補の中から最適なジャーニーを選択します。

2. その顧客向けのコンテンツを生成する

選ばれたジャーニーに対して、件名、プリヘッダー、本文コピーなどのカスタムコンテンツを作成できます。(※ Campaign Creation レベルです。)

Tips:3 つ目の Get Context は データグラフから顧客のコンテキストを取得するためのアクションです。


ユースケース

今回は、EC サイトの休眠顧客施策で考えてみます。

例えば、90 日以上購入していない顧客に対して再購入を促したいとします。ただし、休眠顧客だからといって、全員に同じ施策を実施するのは最適とは限りません。

例えば、次のような違いがあります。

  • 過去にクーポン施策への反応が高かった人

  • 最近メールは開封しているが購入していない人

  • 購入額が高いロイヤル顧客

  • 反応がかなり薄く、まず関係性を温め直したい人

この場合、次のようなジャーニー候補を用意できます。

① クーポン再購入ジャーニー

  • 割引施策への反応が高い顧客に対して、限定クーポンを送る

② 新着商品レコメンドジャーニー

  • 最近の閲覧傾向や開封傾向をもとに、興味のありそうな商品を紹介する

③ ロイヤル顧客向け先行案内ジャーニー

  • 値引きではなく、限定性や先行案内によって再訪を促す

④ 再エンゲージメントジャーニー

  • すぐには販促せず、まずブランドへの関心を取り戻す

Journey Decisioning エージェントは、こうした候補の中から、
この顧客にはどのジャーニーが最適か を判断します。

これが、通常の IF 条件の延長ではなく、“次の最適な施策” を選ばせる という考え方になります。


全体の構成イメージ

Journey Decisioning エージェントを利用する際の全体像は、次のようになります。

手順 1. Data 360 で顧客情報を利用できる状態にする

まず、顧客の属性や行動履歴、興味関心などを Data 360 側で参照できるようにします。これには データグラフを活用 します。
※ Journey Decisioning では、このコンテキストが重要になります。

手順 2. Journey Decisioning エージェントを有効化する

Marketing Cloud Next 側で Agentforce 関連機能を有効化し、Journey Decisioning エージェントを有効化 します。

Tips:まず Agentforce Employee Agent(AEA)を有効化 してください。これにより、マーケティング関連のエージェントテンプレートを使用できるようになります。

手順 3. ユースケースを登録する

ここで、エージェントが選択対象とするジャーニーを「概要」と「期待される結果」と共に登録します。最大 5 つまで設定できます。

重要:ここで選択対象となるジャーニーは、以前「Send to Journey アクション」の記事 で解説した流れで、API イベントエントリーソース を設定済みのジャーニーに限られます。

手順 4. フローからエージェントを呼び出す

Flow Builder でエージェントアクションを実行し、対象顧客ごとに最適なジャーニーを選択させます。

手順 5. Journey Builder で結果を利用する

振り分けの結果や生成コンテンツはデータエクステンションに保存されるため、それを Marketing Cloud Engagement 側のジャーニーで利用します。


データグラフの活用

Journey Decisioning では、顧客についての情報がなければ、適切な判断ができません。そのため、Data 360 側で評価対象となる情報を持つ データグラフ を準備する必要があります。

今回の例であれば、以下のような情報が考えられます。

  • 最終購入日

  • 累計購入額

  • 好みのカテゴリ

  • 開封傾向

  • クリック傾向

  • 会員ランク

  • 地域

  • 過去施策への反応

こうした情報をもとに、Agentforce が顧客ごとの文脈を理解して、最適なジャーニーを選択します。

設定方法

Journey Decisioning エージェントでは、Personalization: Get Context アクション を使用して、コンテキストを取得します。

Marketing Cloud: Journey Decisioning トピック には、以下の指示がふくまれています。この中の以下の 2 つを入れ替えます。

  • {DataGraph API Name}

  • {Agent Version ID}

  • DataGraph API 参照名を検索するには、Data 360 を開き、[データグラフ] タブに移動して、適切なデータグラフを見つけます。[データグラフ API 参照名] 項目で正確な名前を使用します。

  • URL でエージェントバージョン ID を見つけます。これは、URL で versionID= の直後にある ID です。

https://xxxxx.lightning.force.com/AiCopilot/copilotStudio.app#/copilot/builder?copilotId=0XxHp000000e2F3KAI&versionId=0X9Hp000000ebw6KAA


ユースケースの作成

Journey Decisioning エージェントでは、
各ジャーニーの概要と期待される結果 が非常に重要です。

なぜなら、エージェントはその説明を見て、

  • このジャーニーは何のためのものか

  • どのような顧客に向いているのか

  • どんな成果を期待するのか

を理解するためです。

例えば、次のような説明は良くありません。

良くない例

  • 概要
    休眠顧客向けメール

  • 期待される結果
    再購入してほしい

これでは、他のジャーニーとの違いがほとんど伝わりません。

一方で、例えば次のように書くと分かりやすくなります。

① クーポン再購入ジャーニー

  • 概要
    90 日以上購入がない休眠顧客のうち、過去にクーポンやセール施策への反応が高かった顧客に対して、限定クーポン付きメールを配信するジャーニーです。単なる値引き案内ではなく、「今なら使える特典がある」という分かりやすい再購入のきっかけを提示することで、再訪問や再購入を後押しします。

  • 期待される結果
    価格訴求に反応しやすい休眠顧客の再購入率を高め、離脱しつつある顧客との接点を早期に回復することが期待されます。

② 新着商品レコメンドジャーニー

  • 概要
    最近メールの開封や商品閲覧はあるものの、購入には至っていない顧客に対して、興味カテゴリや閲覧傾向に近い新着商品を訴求するジャーニーです。値引き中心の訴求ではなく、その顧客が今関心を持っている商品やカテゴリに合わせて提案することで、自然な購買行動につなげることを目的とします。

  • 期待される結果
    商品関心の高い顧客を購入へ転換し、閲覧止まりになっている顧客を次のアクションへ進めることが期待されます。

③ ロイヤル顧客向け先行案内ジャーニー

  • 概要
    累計購入額が高く、ブランドロイヤルティの高い顧客に対して、一般向けの値引き施策ではなく、限定性や特別感のある先行案内を送るジャーニーです。例えば、新作の先行公開、会員限定オファー、特別イベントの案内などを通じて、優良顧客としての体験価値を高めることを重視します。

  • 期待される結果
    ブランド価値を維持しながら継続購入を促進し、優良顧客との長期的な関係性をさらに強化することが期待されます。

④ 再エンゲージメントジャーニー

  • 概要
    メールの開封、クリック、購入のいずれも低下している顧客に対して、いきなり強い販促を行うのではなく、まずはブランドや商品の魅力を再認識してもらうためのコミュニケーションを行うジャーニーです。人気商品や特集コンテンツ、利用シーンの提案、読み物コンテンツなどを通じて、段階的に関心を取り戻してもらうことを目的とします。

  • 期待される結果
    反応の薄い顧客との接点を回復し、開封率やクリック率などのエンゲージメント指標を改善しながら、次の販促施策に反応しやすい状態へ引き上げることが期待されます。

このように、各ジャーニーの役割の違いが明確に伝わるように書くこと が大切です。

設定方法

1. 設定 > Agentforce & Gen AI に移動して、Journey Decisioning のセクションまでスクロールして、データキットをインストールします。

  • Journey Decisioning Agent Decision Bundle(DSO, DLO, DMO)

2. ユースケース名と概要を入力します。

  • ユースケース名
    休眠顧客向け再購入促進ジャーニーの最適化

  • 説明
    一定期間購入のない休眠顧客に対して、一律の施策を実施するのではなく、顧客ごとの反応傾向や関心度に応じて最適なジャーニーを選択するユースケースです。過去にクーポン施策への反応が高かった顧客には価格訴求を、商品関心が高い顧客にはレコメンドを、ロイヤル顧客には限定性の高い案内を、反応が低下している顧客には再エンゲージメント施策を行うことで、再購入率やエンゲージメントの改善を目指します。

3. 使用するマーケティング環境として Marketing Cloud Engagement を選択して、ビジネスユニットを選択します。

4. 概要と予測結果と共に、エージェントが選択できるジャーニーを 3 ~ 5 個追加して保存します。

5. 設定が完了すると、2 種類のフローが自動生成されます。

① Journey Decisioning フロー

このフローは、購読者を適切なジャーニーに割り当てます。ユースケースごとに作成されます。

② Content Creation フロー

このフローは、各購読者向けにパーソナライズされたコンテンツを生成します。ユースケースごとに作成されます。

そして、Marketing Cloud Engagement 側には AF JourneyDecisioning フォルダが自動生成されます。こちらには以下の 2 つのデータエクステンションが格納されます。

③ Journey Decisioning データエクステンション

このデータエクステンションには、Agentforce が各ジャーニーに含めた購読者に関する情報が含まれます。

④ Content Creation データエクステンション

このデータエクステンションには、各購読者が Journey Builder で使用できる件名、プリヘッダー、メッセージ本文が含まれます。

上記の 4 つが生成されたことを確認します。


フローの設定

Flow Builder の設定では、セグメントトリガーフローやイベントトリガーフローを立ち上げ、新規の要素を配置し、Journey Decisioning エージェントのアクションを呼び出します。

Journey Decisioning エージェントが有効化していないと表示されません。

入力値テキストのサンプル

Journey Decisioning エージェントのアクションを Flow で利用する際は、入力値として発話文のようなテキストを設定します。
以下は、公式ヘルプページでサンプルが紹介されています。

1. Journey Selection の入力値サンプル

  • アクション
    Journey Selection

  • サンプル入力値
    usecase {usecaseId} を使用して、unifiedIndividualId {unifiedIndividualId} を持つ登録者に最適なジャーニーを選択します。individualId {individualId} は、パーソナライズされたコンテキストを取得する場合にのみ使用します。

2. Journey Content Creation の入力値サンプル

  • アクション
    Journey Content Creation

  • サンプル入力値
    usecase {usecaseId} を使用して、unifiedIndividualId {unifiedIndividualId} を持つ登録者に対し、selectedJourneyId {selectedJourneyId} で選択されたジャーニー用のメールコンテンツを作成します。メールコンテンツは、そのユーザーが [ここに具体的な好みを入力] という嗜好を持つことを考慮する必要があります。individualId {individualId} は、パーソナライズされたコンテキストを取得する場合にのみ使用します。


プレースホルダーの置き換えについて

Journey Content Creation のサンプル内にある [ここに具体的な好みを入力] の部分は、そのままではなく、登録者の特徴が分かる内容に置き換える必要があります。

例えば、次のような内容です。

  • ランニングが好き

  • ハイキングが好き

  • アウトドアに関心がある

  • 北西部エリアに住んでいる

  • スポーツウェアに興味がある

この部分には、その登録者らしさが伝わる具体的な情報 を入れることがポイントです。そうすることで、よりその人に合ったコンテンツを生成しやすくなります。

実務上のポイント

Journey Selection では、どのジャーニーを選ぶか に必要な情報を渡します。一方、Journey Content Creation では、選ばれたジャーニーに対して、どのようなコンテンツを作るか まで指定します。

そのため、Journey Content Creation の方では、登録者の好みや関心など、より具体的な情報を加えることで、パーソナライズの精度を高めやすくなります。


Journey Builder の設定

Journey Decisioning エージェントが選んだ振り分け結果や生成したコンテンツは、前述の Journey Decisioning データエクステンションや、Content Creation データエクステンションに保存されます。

Journey Decisioning データエクステンションの例
Content Creation データエクステンションの例

そのため、Marketing Cloud Engagement 側では、そのデータをもとにジャーニーやメールへ反映していきます。

例えば、

  • 選択された Journey ID をもとに対象者を振り分ける

  • 件名やプリヘッダーをデータエクステンションから読み込む

  • 本文の一部を AMPScript で差し込む

といった利用が考えられます。

つまり、この機能は Journey Builder を置き換えるものというより、
Journey Builder に渡すための判断結果を Agentforce が作る仕組み
と考えると理解しやすいです。


考慮事項

Journey Decisioning エージェントは非常に面白い機能ですが、最初から複雑にしすぎると、かえって分かりにくくなります。

そのため、まずは次のような始め方がよいと思います。

  • 候補ジャーニーは 3 ~ 4 個程度に絞る

  • 各ジャーニーの目的を明確に分ける

  • 判断に使う顧客情報も絞る

  • まずはジャーニー選択だけ試す

  • 慣れてきたらコンテンツ生成まで広げる

特に最初は、
なぜこの顧客がこのジャーニーに選ばれたのか
を説明しやすい設計にしておくと、理解しやすいと思います。


いかがでしたでしょうか。

Journey Decisioning エージェントは、顧客ごとに最適なジャーニーを Agentforce に選択させるための仕組みです。

単純な条件分岐では表現しきれない 行動傾向、属性、エンゲージメント、ロイヤルティ、そして Data 360 上のコンテキスト を踏まえながら、どのジャーニーに進ませるべきかを判断できる点が、この機能の大きな特徴です。

一方で、STO などの AI 機能と同様に、AI による判断をどこまで信頼するかという視点は欠かせません。つまり、AI が選択した分岐をどこまで業務に委ねるかという点についても、同じ粒度で慎重に考える必要があります。

前述した考慮事項の通り、まずは 「なぜこの顧客がこのジャーニーに選ばれたのか」 を説明しやすい設計にしておくことが重要です。そのうえで、実際の選択結果が想定通りになっているかを十分に確認しながら、段階的に活用していくのがよいでしょう。

※ なお、Journey Decisioning エージェントの利用には Flex Credits が消費されるため、大量送信で利用する場合はコスト面にも注意が必要です

今回は以上です。


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