朝からせつなさみだれうち
私は北海道の農村地帯に住んでいるので、毎日農業新聞を読める環境にあります。農業情勢はさておき、一番楽しみにしているのは連載小説です。
この稿を書いている現在こそ、公安調査庁が舞台の『潜像』なんてゴリゴリのスパイ小説が連載されていますが、これまでの連載傾向から察するに、おそらくは小説内に食や農に関する要素を含むよう注文がついているはずです。農業新聞ですから。
そんなわけで、いつまで経ってもハードボイルド展開が終わらない『潜像』は、一体いつ読者層にコミットして食や農に寄せるのかと思っていましたが、ひょっとして著者名だけで農業要素のノルマクリアなんでしょうか。書いてるのが、新庄「耕」さんなんです。
さておき、歴代の農業新聞の小説チョイスはなかなかイケてるんですよ。『森田繁子と腹八分』(河崎秋子)、『一橋桐子の相談日記』(原田ひ香)なんかですね。
森田繁子は農業探偵的なコンサルタント業の話なんで、まさに農業新聞小説の求めるところのど真ん中でしょう。短期間で二度も連載されたため、読者は一年ぶり二度目の森田繁子を経験済みです。
私は恥ずかしながら第一部を読んでいるときには気づきませんでした。作者の河崎先生はヒグマの小説で直木賞を受賞された方だったのですね。言われてみればさすがの筆力、面白いはずでした。
ところで、ここまであえて触れてきませんでしたが、農業新聞小説を語る上では、ハートフル小説の名手、森沢明夫先生の『ロールキャベツ』を避けて通ることはできないでしょう。
物語の中心にいるのは、まだ何者でもない5人の大学生。
趣味も夢も目的もない時分のもどかしさ、そしてみずみずしい若者の恋愛事情を紡ぐ作者の言葉選び。これに全国25万人の購読農民たちが身もだえしていたと思うと、今からでも胸アツを禁じえませんな。
すれっからしの中年の私でも、片思いの相手を蜂に例えて「胸をチクリとされる」なんて読まされたら、朝からせつなさみだれうちでしたよ。
ムッハー。
農村暮らし繋がりです。
