狐行燈の客人
📝狐行燈とは、狐由来の人間"のほ"とクサガメの小僧"亀乃進"が暮らす庵のことである。
「え? パワハラされたのかいっ?」
「いや、僕じゃないんだ、部下の女性。
んー、言い方というか、口調というか…パワハラって言っちゃうと気の毒かもしれないかなぁ?」
目の奥に生来の穏やかさを秘める海亀由来は、やわらかく低めの声音で、話の内容によらず、世間話のようなのんびりとした平穏さをかもしている。
BAR note のマスターが惚れるのも分かる気もするわな…と納得しながら、意味ありげな視線をマスターに投げる。
「お得意先の担当者さんから、吐き捨てるように、見下した態度で叱責されたようよ?」
意味ありげな視線に、にやりとうなずき、次の瞬間には真面目な顔つきに戻って、マスターが引き取る。
食えないマスターだよ、まったく。
そもそも、なんで海亀由来をここまで連れて来るんだ? 自分のBARで心ゆくまで喋り倒せばいいだろがっ💢
「彼女はうちのルールに従ってただけのようなんだけど、たまたま機嫌が悪かったのか、何かが気に入らなかったのか…
彼女以上に、それを聞いた男性部下が怒っちゃってね…こんなのおかしいじゃないか、彼女に非があるわけじゃないのに、先方にきちんと話をしてくれ、ってね。
僕が見ていた場の話でもないもんだから、どう伝えたものかも悩ましくてね」
「お得意さんじゃ、ダイレクトに文句言うのも憚られるわよねぇ〜、悩ましいわよぅ」
男か女か分からない調子で、合いの手を入れるマスター。
「仕事はね、きちんとする担当者さんなんだよ。
確かに妙に機嫌が悪そうな時もあってね、身を守るためにも注意は必要なんだけど」
「へぇ、自分の機嫌も取れずに、仕事してんのも"きちんと"って言うのかい?
ガキ相手に悩まにゃならん海亀さんも大変だねぇ」
「ちょっと、のほちゃん!
のほちゃんも、言・い・方!」
「どんな偉い人だか知らないけどね、
反論できん相手に自分の機嫌の悪さをぶつけて、黙るの見て悦にいってんだろ?
人間ったぁ、そんなもんだろうがね、業だよ、業。」
「そう言っちゃえば、解決にならないからさ、のほ…ちゃん、って呼ばせて貰ってもいいのかな?」
変わらず穏やかとしか言いようのない眼差しをたゆたえて、海亀由来は続ける。
「なんとでも呼んどくれよ」
「ひとまず状況を説明しようと得意先に行ったらね、
先方の上から、先に謝罪を受けたよ」
「そりゃー、なによりじゃないか」
「だけど、不思議なんだよね。
その場にいたのは、僕の部下の彼女と先方担当者の男性だけだったはずなんだよ。
先方担当者が、上に報告なんてするはずないし、どうして知ったのかなぁ〜って…」
「へぇぇー、そりゃまた謎だねぇ」
「一瞬、防犯カメラか?? とも思ったけど、付いてないとこだし。
先方は先方で、優越的地位の濫用にも繋がる部分があったかもしれない、フローも見直し精査する、風通し良い環境を整える所存だから待って欲しい、約束する、と。
そう言われちゃ、こっちは納得するしかないしねぇ」
「うまいこと、丸め込まれたってことかい」
「もぉ、のほちゃん、混ぜっ返さないの!
のほちゃんとこに連れて来たのはね、ほら、狐由来って忍者みたいなのと繋がってない?
姿隠して見てた由来人とかが、先方にいたんじゃないか、って。謎が解けるんじゃないかと思って…」
とろけた目線がバレてないかのように、神妙ぶるマスターの表情に笑いをこらえる。
"優越的LOVEの濫用"…ってのがあったら、無意識にしとるでー海亀さんよぉー! とエアで海亀こづいて、エアで座布団10枚、自分で運んで乗っかる。
「忍者ぁ〜?? あたしゃ聞いたことないよ、そんなんは 笑
狐由来の人間も他にもいるんだろが、人をおちょくってけらけらしてるくらいで、姿消したり、人のために何かしたりなんぞ、しやしない、できもしないよ」
「あら、そうなのぉ?」
男の顔して上目遣い…普通にしてる方が凛々しいんじゃないのかね?
この狸親父…いや仙人由来親父マスター、海亀とのきっかけ深めたくて、ここまで連れて来たな。
海亀の問題は解決してるじゃないか。
いったいどうやって、狐と忍者を繋げるつもりだったんだか…むだな努力に酒くらいは振る舞ってやるとするか。
「やっぱり、おてんとう様が見てる、ってのは本当なのかな」
‼️
海亀さんよっ、あんたもあんたで、ずいぶんとファンタジーじゃーねぇか。
まぁ、そうすりゃ、世の中の謎はすべて解けるんじゃないのか?
「あぁ、そうなのかもしれないねぇ、悪いこたぁ、できないってもんだ」
なにやら道化の気分にもなって来た。
「…亀乃進、お二人の話は終わったようだ。
すまんが酒出しておくれよ、お二人は今夜はお泊まりだよ。あんたも一緒に呑もうじゃないか」
前のお話…かな🤭
