風まかせ文芸部 | 鬼
ばぁちゃんは、ときどき鬼になった。
「あんたーっ!
ウラさんちの柿の木登って、実ィ、ぜんぶ落としたやろっー!」
棍棒の代わりに、ふとん叩きを携えた鬼に、追いかけられ、捕えられて尻をはたかれた。
鬼、なので手加減はない。
「ヤスヒコはどこ行った?
あいつといっしょにやったんやろ!」
鬼、なので仲間がいることも分かるらしい。
ぎろりとひと睨みで、青くなったヤスヒコが見つかり、動けなくなり、捕らえられてやはり尻をはたかれた。
「とっとと謝って、柿の実、始末してこい!」
👹
「あんたーっ!
墓石倒しまくった、って、なに罰当たりなことやっとるんっー!」
ふとん叩きは変わらないが、鬼の顔は、赤を通り越して紫になっていた。
変わらずヤスヒコと共に引っ立てられて、墓石の持ち主の玄関床に土下座を強いられた。
ばぁちゃんが好きな時代劇の、お白洲で裁かれる罪人のようだった。
ばぁちゃんの足が、俺とヤスヒコの足に追いつかなくなる頃、俺たちは悪さをやめた。
「なぁ、あんとき、ばぁちゃん、ふとん叩きだけやなくて、ホースで水もぶっかけて来たよな」
久しぶりに会うヤスヒコが小声で呟く。
「夏、でもなかったよなぁ、今じゃ虐待だ」
「よほど…ヤバいことしたんや、とは分かった」
「なんであんなことしたんやろな?
レジェンド的悪さ、で語り継がれとるわ」
鬼、を卒業してずいぶん経つばぁちゃんは、白っぽい色をした鹿のような顔をして、眠ったまま機械に繋がれている。
「…ばぁちゃん、言うとったよな」
だしぬけに、ヤスヒコが潤んだ声音を出した。
「"鹿の顔"?」
「うん」
ばぁちゃんは、人が死ぬときは鹿の顔になる、と言っていた。
今の、まさにばぁちゃんの顔だ。
「俺……ばぁちゃんの臨終には…」
「うん。ばぁちゃんも分かっとるよ、応援しとったし。あんまり治安も良さそうやないし、大変やろうけど、気を付けて」
「おまえんとこのばぁちゃん、いっつも鬼みたいに怒っとったな」
ヤスヒコが薄く笑う。
「な。本気でガキのケツ、叩くかよ?下手すりゃマジで怪我する」
「そんだけ、俺らがアホなことしとったんやろ。
それに、ばぁちゃんのケツ叩き、痛いのは一発目だけで、あとは加減してくれとったよ」
「え??」
・
・
・
なぁ、ばぁちゃん、
ヤスヒコには加減してたなんて、知らなかったよ。今さらだけど、ちょっと腹立つよ?
けど…鬼、も疲れたよな、きっと。
ばぁちゃんの顔に目を向けると、一瞬昔のような鬼の顔になって、照れたような表情でばらけた。
iさんの企画に参加させて頂きます。
実話ヒントの創作です。よしなに…
