「古蓮町大運動会」第六話 激突!オニギリレー
「みーちゃん、あの川林のアンカー何者?」
競技を終えた真生姉がみーちゃんに訊いていた。
去年から住んでいる中学生の真生姉が知らないということは、最近引っ越してきた人か、この町の人の親戚かどっちかだということだ。
朝のみんなの会話を思い出した。
「そういえば、川林に『なんとかモリ』っていう秘密兵器がいるって、みんな話してたよ」
誰も秘密兵器とは言っていなかったけれど、少し話を盛ってみた。
……『モリ』だけに。
ププッ!
……あ!
あの話、ここにいる誰も知らないんだっけ。
うわー、ギャグ損したぁ。
「え?あの人は三千里カケルくんって人だよ。靴屋さんで特注のランニングシューズを作ってもらう代わりに、この運動会に出ることにしたんだって」
みーちゃんの話によると、今度現実世界で開かれる国体の代表選手になっているそうだ。
「ヤバッ!ガチじゃん!」
「それほんと?すごい助っ人を連れてきたね」
セッチーと真生姉は顔を見合せてうなずいた。
「リューチンの言ってた『なんとかモリ』って私、迫沼美森のことじゃない?もう!秘密兵器なんて、照れちゃう〜♪」
キャッキャと照れまくるみーちゃんに、僕、真生姉、やまにぃ、セッチーはみんなで大きく首を横に振った。
「うん、大丈夫。絶対違うから」
ガーン!と言いながら動きが止まったみーちゃんをスルーして、僕たちは次の競技に目を向けた。

今度は、大人たちの戦い『オニギリレー』。
1人が走り、その間にもう1人がおにぎりを作る。走ってきた人が作ってもらったおにぎりを食べ、食べ終わったら二人三脚で走って、次の走者にバトンタッチ。
走り始めるまではおにぎりを作ってはいけない。また、ご飯を余さずおにぎりを作り終えるまでは、食べてもいけない。
「なるほど。だからオニギリレーね」
真生姉は真剣な表情だ。
「ねぇ!みんなフォローしてよー」
スルーされまくっていたみーちゃんの絶叫と僕たちの爆笑の中、レースは始まった!
"第一走者、本町、谷東登子。速い!あっという間におにぎりの場所まで行ったァァァ!"
本町地区
谷東 登子:とこねえ
運動能力 ◯
正確性 ◎
気合 ◎
→普段は走らないことと、児童養護施設の先生という立場がどう影響するか?
「とこねぇ、速っ!」
驚きのあまり思わず僕は声が出た。
「谷東家ヤバッ!」
セッチーの声に、真生姉とやまにぃが胸を張った。
※
登子の心
よし!このおにぎりを一瞬で、飲み込んで……
ダメ!
よく噛んで食べなきゃ!
いつもみんなにそう指導しているのに。
私が噛まずに食べたら……噛まずに食べたら……
※
"おっと〜?谷東登子、動きが遅くなった!おにぎりをゆっくり噛み締めている!"
「何やってんだよ!とこねえ!」
やまにぃが絶叫!
ハッ!
とこねえ、我に返ったようにスピードが上がる。
二人三脚に入って、本町、川林が競り合い!
稲見は少し遅れ気味だ。
お父さんがスタートラインに立っていた。
「あ!第二走者、僕のお父さんとお母さんだ!」
"本町、川林がほぼ同着で第二走者へ!少し遅れて……稲見もスタート!"
そこに、風が巻き起こった。
「リューチンのお父さんやべえ!」
やまにぃの叫びがこだました。
稲見地区
小畑 武
運動能力 ◎
正確性 △
気合 ◯
→学生時代、サッカーで鍛えた脚力は今も健在。
"稲見、小畑武、一気に前二人を抜き去った!しかもそこに待ち構えるのは、生産組合の星、小畑恵だぁぁぁ!"
稲見地区
小畑 恵
運動能力 ◯
正確性 ◎×2
気合 ◯
→生産組合で鍛えた穀物を大事にする心と体の妙技は見る人を魅了する。
「リューチンのお母さん……すごい!」
セッチーが見惚れていた。
お父さんのスピードに負けない美しい手さばき。
一瞬で米粒1つ残すことなく、きれいな三角おにぎりを完成させていた。
"稲見、爆速ぅぅぅ!小畑恵の超高速おにぎり!小畑武の食べっぷりもかなり速い!あっという間に二人三脚だぁぁ!"
息がピッタリのお父さんとお母さん。
まだみんながおにぎりを食べている間に、稲見は早くも第三走者にバトンを渡した!
あれ……第三走者の列。
みーちゃんのお母さんがいる!
そして、おにぎりを作るのが、みーちゃんのお父さん??
川林地区
迫沼 美由紀
運動能力 ◯
正確性 ◯
気合 △
→特に何かに秀でている様子もないが、ドラマを巻き起こせるか?
"スピードの稲見、油断をしたか?おにぎりブースで少し手間取っている!"
「みーちゃん、お父さんがおにぎりを作るの?」
僕はちょっと不思議に思った。
「うん。お父さんね、おにぎり作りを志願したんだ。すごいんだよぉ。あと、お母さんも」
そう言って、みーちゃんはフフッと笑った。
……どうすごいんだろう?
これは……見逃せない!
みーちゃんのお母さんがスタートした!
でも……
足が遅くはないけど、速くもない。
あまりすごさは感じないけれど……。
"稲見がもたついている間に、川林、迫沼美由紀がおにぎりブースへ到着!……ああっ!こ……これはぁぁぁ?"
みんなの目が、みーちゃんのお父さんに集まった!
川林地区
羽山 裕司
運動能力 △
正確性 ◎
気合 ◯
→インドア派である彼のある特性に、みんなの注目が集まる。
「ほら、すごいでしょ?」
みーちゃんは得意げだ。
「た……確かにすげぇ」とやまにぃ。
「うん……間違いなくすごい」と真生姉。
「あのおにぎり、食べた〜い」とセッチー。
「うん、すごいはすごいけど……今ここで……なの?」
僕の言葉にみんなうなずいた。
"こ……これはぁぁ!川林、羽山裕司が作ったおにぎりは、なんと!クマさんおにぎりだぁぁ!!キャワイイィィィ!"
川林テントから爆笑が巻き起こった。
「いいぞぉ!さすが、川林エンジョイ魂!!」
チアおじさんたちの踊りが勢いを増した……が、一瞬で場内が静寂に包まれた。
「えっ……」
僕は息を飲んだ。
できたばかりのクマさんおにぎりが、どこにもない。
……何があったの?
"あ、あれ?川林、二人三脚スタート!稲見に並んだぁぁ?"
「お母さんはね、恐ろしいほどの早食いなの」
ニヤリと笑うみーちゃん。
「す……すげぇ……。みーちゃんのお父さんとお母さん……エグっ!」
やまにぃが驚き、真生姉とセッチーは絶句した。
……でも、二人三脚はすごく普通だった。
"稲見、川林、並んでアンカーへ!本町は少し遅れている!"
稲見地区第四走者。
待ち構えていたのは、澄子おばさんだった。
「おばさん、がんばれ!」
僕が言った瞬間、バトンは渡った。
稲見地区
浅越 澄子:すみちゃん
運動能力 ◎+α
正確性 ◯
気合 ◎
→去年の運動会MVP。今年にかける思いは誰よりも強い?
シュッ……
静かにおばさんは視界から消えた。
「あ……あれ?」
「すみちゃんが……消えた?」
場内が騒然とした。
"さすがの速さ!稲見、浅越澄子!目で追えないほどの速さだぁ!"
「は……はえぇ!」
やまにぃがぶっ飛んだ。
こんなに速いなんて!
でも、これじゃあおじさんのおにぎり作り、間に合わないよ。
稲見地区
浅越 八郎:やっちゃん
運動能力 ◯
正確性 ◎
気合 ◎+α
→瞬間を収める写真屋。その一瞬の動きが芸術となる。
"稲見、浅越八郎!その豪快さに見合わない繊細な手つきでおにぎりを作り終えていた!八郎、恵、兄妹揃って神速の手早さだぁ!"
さすがお母さんのお兄さんだ……。
すごすぎて言葉が出ない。
二人は大差をつけ、ゴールテープを切った。
"稲見地区、圧巻の快勝!今年もやはり優勝候補ぉぉー!浅越夫妻が牽引するぅ!"
稲見テントから爆発する雄叫び。
「い・な・み!い・な・み!」
手を挙げて応えるおじさんとおばさんの姿が、太陽に照らされて輝いていた。
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