ただ友達がほしかっただけの少年
わたしにとってHUNTER×HUNTERはゴンとキルアの物語だ。
と宣言したものの、わたしはどこまでもキルアというキャラクターが好きだ。
いや、もちろんゴンとキルアの関係性に深く価値を感じているのだが、それでも、冷静で冷たさを抱えていながらも、繊細でどこまでも感受性が深い、いつも不安を抱えているこの少年から目が離せない。
自分自身は本質的にゴンと似た要素を持っていると感じながら、それでも深く感情移入してしまうのはいつでもキルアの方なのだ。
ということで、キルアの視点を軸にふたりの物語を追っていこうと思う。

【引用】HUNTER×HUNTER 10巻 125p
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キルアの物語は、自分の人生を自分で選びたいと願った少年が、自らの生き方を見つけていく様を描いたものだ。
行き先を持たないまま、人にレールをしかれる人生を拒んだ少年が、はじめに自分の意思で「こうしたい」と望んだものが「友達」だったのではないだろうか。
キルアはなぜ「ゴンと」友達になりたかったのか
キルアは物語の中で“天才”として描かれている。
友達がほしかったキルアにとって、同い年の少年であるゴンの存在は魅力的なものだっただろう。だが、暗殺一家という普通とはかけ離れた背景と、その跡取りを期待されるだけの器を持ったキルアが、ただひとりの少年として付き合える友達を得るためには、“同い年”というだけでは足りなかったのではないかと思う。
ハンター試験に共に挑む中でキルアがゴンに目を留めていく様子は、キルアの細かな表情やふたりのやりとりとして描写されている箇所が多くある。

【引用】HUNTER×HUNTER 2巻 35p

【引用】HUNTER×HUNTER 2巻 173p

【引用】HUNTER×HUNTER 2巻 185p

【引用】HUNTER×HUNTER 3巻 14p

恐れだけではなくうれしさがあることを見抜いている
【引用】HUNTER×HUNTER 3巻 119p

【引用】HUNTER×HUNTER 4巻 122p
キルアはゴンの発言や振る舞い、選択の数々から「こいつすげーな」と思えるものを見つけていったのだろう。
(まぁ、基本的には自分の方が実力は上という自信があるのだが。)
では、ゴンはキルアのことをどう見ていたのだろうか。
ふたりのやりとりの中でも特に印象的なのがこの場面だ。

【引用】HUNTER×HUNTER 2巻 95p
両親について「殺人鬼」と答えたキルアに対して、ゴンは「両方とも?」と特に気にする様子もなく会話を続けている。ゴンの反応をおもしろがるキルアに対して「?」となっていることからもわかるように、暗殺一家というキルアの背景を知っても、ゴンのキルアへの見方や態度は少しも変わらない。
キルアをただまっすぐに見るゴンと、ゴンに対して素直に「こいつすげー」と思えるキルアとの間には、不純物が何もない。


【引用】HUNTER×HUNTER 1巻 138p・143p
暗殺一家に生まれた天才であるキルアにとって、ただ同い年の少年同士として素直に関わり合えるゴンは「こいつおもしれー!」「一緒にいるとたのしい!」と、心を動かされる存在だったのではないだろうか。
少年の不安
さて、冒頭で「いつも不安を抱えているこの少年」とキルアを形容したことに「え、キルアってそんなキャラクターだっけ?」と疑問を持った方もいるのではないだろうか。
特に、ゴンとの関係において不安定さを感じる人はいても、キルア自身がいつも不安を抱えているキャラクターだと捉える人は、そう多くないように思う。
それでもわたしは、キルアは物語の長きに渡って大きな不安を抱え続けていたキャラクターだと思っている。
では、キルアの不安とはいったいどこから来るものなのだろうか。
ハンター試験の最後、兄イルミと対峙した場面。
「お前に欲しいものなんかない」と言うイルミに、どんな課題にも汗ひとつかかず飄々としていたキルアが、いく筋もの汗を垂らしながらそれでも発した一言。

【引用】HUNTER×HUNTER 5巻 13p
「ゴンと…友達になりたい」
これだけ恐れている兄を前に、それでも口にした切実な本音だ。
しかし、その言葉すらあっけなく兄によって握り潰されていく。

【引用】HUNTER×HUNTER 5巻 14p
「お前に友達なんて出来っこない」と。
イルミはそれだけでは止まらない。キルアが恐怖に縛りつけられていることを理解しながら、そのキルアに「そうだ、ゴンを殺そう。お前がオレと戦わなければゴンが死ぬよ」と畳み掛ける。
「自分の人生を自分で選びたい」と願ったキルアが、自らの意思で望んだものを握り潰し「お前にお前の人生を決める権限はない」とでもいうかのように、キルア自身のあり方までも決めつけていく。
さらには、キルアがいちばんほしかったものを使って、イルミが決めたキルアのあり方をキルア自身に証明させる、という残酷な方法で本人に認めさせようとしているのだ。
たった11歳の少年が、自分には到底抗えないと思わされている相手を前に降伏してしまうことを、責めることはできないだろう。
だが、“戦わなければゴンが死ぬ”という局面でそれでも戦わずに降伏してしまったこの出来事は、自らの手で行ったイルミの言葉の証明として、キルアの心に大きな傷となって強烈な自己不信を残すことになる。

【引用】HUNTER×HUNTER 5巻 24p
「自分は友達を見殺しにする人間だ」
「自分には友達を作る資格はない」
こんな自分のことをゴンが「友達」と言ってゾルディック家まで迎えに来てくれたことは、キルアにとってとてつもなくうれしい出来事だったに違いない。
でもそれは、キルアの強烈な自己不信を払拭する力は持たない。
信じられないのは、自分自身なのだから。
キルアはこの強烈な自己不信を抱えたまま、ゴンとの旅を続けていくことになる。
この前提を持ったままキルアの軌跡を辿っていくと、その内側の葛藤が鮮明に見えてくるのだ。
根底に残る強烈な自己不信
強烈な自己不信を抱えることになったキルアだが、そんな様子を態度に出すことはなく物語は進んでいく。キルアの中にある自己不信がはじめにわかりやすい形で表出するのが、ヨークシンシティ編のノブナガとの場面だ。
攻撃されかけたゴンを助けようとしたキルアに「動くと切る♠︎」とトランプを突きつけたヒソカ。
そこで動けなかった自分自身に対し、イルミの言葉と共に強烈な自己不信が顔を出す。

【引用】HUNTER×HUNTER 10巻 179p
必死に「ちがう!」と自身の中で抗おうとするキルアだが、イルミの言葉を払拭することはできない。

【引用】HUNTER×HUNTER 10巻 192p
「踏み込めば致命傷は確実、だからこそ意味がある」
余裕をなくしたキルアの思考は、この場をふたりで無事に切り抜けることではなくイルミの言葉の否定という一点に集中し、命をかける極端な行動に彼を向かわせるのだ。
普段態度に出すことはなくても、キルアの根底に強烈な自己不信が潜んでいることがよくわかる場面だ。
次の記事では、キルアがゴンと旅を続ける中で、ゴンから受け取っていたものについて触れていこうと思う。
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次の記事ができたら載せます
【引用】HUNTER×HUNTER 4巻 180p
