癒しを求めて川湯温泉
私が好んでリピートしているキャンプ場は、温泉天国とも言える場所にある。すぐ近くに西日本最大の大露天風呂がある温泉があり、徒歩30分のところにも歴史ある温泉がある。


今回は、その二つではなく、徒歩20分の距離の温泉に行ってみることにした。ここの温泉は、キャンプではなく旅館によく泊まっている場所で、お気に入りの定宿があり、日帰り入浴もしているので、ぬくもって帰ることにした。
なぜよく泊まっているかというと、他の温泉街の宿よりも格安な宿があること、熊野古道を歩くときにちょうどいい場所にあるからである。年に数回熊野古道を歩きに来ている私はほぼ必ずここに泊まっているから土地勘もある、馴染みの場所である。
キャンプ場から歩いてトンネルを抜けて川湯温泉にやってきたので、なんとなく川沿いを散歩することにした。


川湯温泉は、その名の通り、川を掘ったら温泉が湧くという場所で、子供の頃に父親と妹、弟と来たことがある。
無邪気に子供たちで河原を掘っては、熱い熱い!と言いながらはしゃいで、父が川の水を混ぜて温度を下げ、石を積んで囲いを作り即席の温泉を作ったりしていた。私たち姉弟は、スイミングを習っていたので泳ぎが得意で、夏休みになると、奈良や和歌山の川に連れて来てもらって泳ぐのが大好きだった。
川湯温泉の川でももちろん泳いだが、ここだけは、お湯が湧く場所があって熱いところと冷たい川とのギャップがとにかく楽しくて、特にはしゃいでいた思い出の場所だ。


(河原を掘ってあるところはお湯である。夏じゃなくても裸でつかっている人がいる)
冬の期間限定で「仙人風呂」という無料の大露天風呂が区画整備されて利用できるようになっている。千人くらいは入れる広さという意味もかけているらしいがそこまで広くはない。学校のプール3つ分くらいかな。少し立ち寄ってみることにした。



小さい子供がいる家族連れが1組と、おじさん、おじいさんが主な入浴客。水着を持ってきていないし恥ずかしいので足だけつけてみることにした。

ぬるり。
めっちゃ川底が藻。
お湯加減はちょうど良いが足加減が最悪だった。
子供ははしゃいで泳いでいたが、羞恥心と衛生観念、生理的に無理なことが増えてしまっている大人の私はあまりはしゃげなかった。足を川底から浮かして温めることにしたから腹筋が鍛えられた。大人の私は、ゆっくり風呂につかりたくなり、定宿にしている旅館の日帰り入浴900円という強気な温泉へと向かうことにした。ロケーションは最高。

(上の写真は秋の日の川湯温泉。川のすぐ側で時々猿や鹿が来る)
やはりここの温泉は落ち着く。
内湯は裸で入るが、そこから階段を降りて河原に出る露天風呂は男女混浴のため、「湯浴み」という浴衣のようなものを着てそのまま温泉に入るスタイルなのだが、それでもまだ日が出ている時間帯は少し恥ずかしい。
そういえば、以前宿泊してここの温泉に入っていた時に悲しい事件があった。
コロナ禍以前、欧米人に人気の熊野古道だったので、川湯温泉の旅館の宿泊客も欧米人が多かった。私は一人で内湯につかってのんびりしていたら、金髪の女性グループがお風呂に入ってきた。温泉の入り方を教えてあげようかなと思っていたが、世界遺産の熊野古道をわざわざ海外からやって来て歩こうという外国人だけあって、湯舟にタオルを浸けない、かけ湯をしてから入るなど完璧に日本の温泉入浴のマナーをわきまえていた。「Great!」と言って私も笑い合っていた。
温泉の中に貼ってある注意書きも外国人向けの英語のものが目立っていたため、きっちり読んでオッケー!ってな感じで確認を怠らずにいた。
外の河原にある露天風呂へ出る通路があり、そこに出ると男女混浴だから、湯浴みという「Spa wear」を着るように、という英語の注意書きもしっかり読んで湯浴みを着て出ていったところを私は微笑ましく内湯の中から見送った。
すると、そこに日本人の若い女性が一人、タオル一枚で下半身だけ隠した素っ裸で欧米人に続いて後ろをついて外へ出て行ってしまった。
ハッとして追いかけて呼び止めようとしたが時すでに遅し。
「きゃー!!」と言って素っ裸の日本人女性が内湯に慌てて戻ってきた。
英語での注意書きの下には小さく日本語でも「湯浴みを着て外に出てね」と書いてあったのだが、見落としたようだった。初めてだと確かに分かりにくいかもしれない。
彼女はきっと、この外国人たちは、日本の温泉は服を着ないということを知らずに浴衣を着て露天風呂に出かけて行ったと思い込んでいたようだ。温泉は裸が正しいのだよと思いながら行ったのかも知れないが、ここでは服を着て外に出るルールだったため、なんとも悲劇だった。
外にはたくさんのおじさんや若い男性がいて、一緒に来ていたその女性の彼氏もいたらしく、数秒とは言え、一斉に注目を浴びた。湯浴みをちゃんと着た金髪のお姉ちゃんたちが何人も女湯から外に出てきたと思ったら、おっぱい丸出しの日本人女性が一人登場したという光景。地獄だ。
その女性の消えてしまいたくなるような気持ち。彼氏の気持ち。湯浴みを一枚着て河原まで歩くのですら恥ずかしい私には、想像を絶する。
結局、その女性は露天風呂へ行くのをやめて、さっさと内湯だけつかってすぐにあがった。そりゃ行けないよね。(その翌日、旅館でその女性が彼氏と仲良く歩いているのを見かけたから立ち直っているとは思う。良かった。)
それ以来、私はこの宿の温泉に来たら、みんなを見張っている。2度とこの悲劇を繰り返さないように、タオル一枚で外へ出ようとする人がいたらいつでも止めてあげられるように、注意深く見張っている。
今回も見張っていたが誰も入って来そうにないので私も露天風呂に入ろうと思い、ちゃんと湯浴みを着て河原に出ることにした。

(これは旅館の部屋から見た河原の露天風呂2つ)
イラストにしてみた↓

河原には、男湯側と女湯側に1つずつ露天風呂があるが、性別は厳密に分けられておらず、普段は、暗黙の了解で何となく男湯側(露天風呂2)に男性が多くて、女湯側(露天風呂1)には女性が多い。家族で入る人もいるから混浴になっていて男女一緒にごちゃ混ぜに入っていることもよくある。カップルなんかも2人で一緒に入っていたりする。男性はタオルを股間に巻き、女性は湯浴みを着るのがルール。平日だと空いていて独り占めすることもあるし、土日に来たら賑やかになっていることもある。
この日は平日の夕方で、2つの露天風呂におじさんとお兄さんが一人ずつ入っていたため、私は女湯に近い方の、お兄さんが一人いる露天風呂(1)に入った。
気まずい。
だけどお兄さんはもうすでに汗だくで顔も真っ赤で半身浴状態だし、そのお兄さんは私がこっちに来たら気を遣って遠慮しておじさんの方の風呂へ移動してくれるものだと読んでいた。
なのに、お兄さんは一向に風呂から出る気配がない。
おいおい、あっち行けよな、と思いつつ、意地の戦いが始まった。
私の方が今入ったばかりだし、今からおじさん一人がいる方の風呂に私が移動するのはおかしい。
だけど女湯の内湯に戻るのも悔しい。
せめてもう一人女性が来たら優位なんだけどなぁ。タオルで股間を隠しているお兄さんにちゃんと背を向けて風呂から出やすいように気を遣ってやってるんだから、ほら今のうちにさっさと上がりなさいよ。
心で叫ぶ。
私は血圧が低く貧血を起こしやすいし、のぼせやすいので、長湯は厳禁だ。
先に入ってたお兄さんから上がるべきだろ、ここは。
変な意地で私も動けない。
半身浴に私も切り替えたいがお兄さんが斜め後ろの方にいるからあまり水面から上に肌を出したくない。
ああ、もう!
ギヴアップ。
ザバッと風呂から体を出し、濡れた湯浴みがピタッと体にくっつくのを剥がしながらお兄さんの方に目を向けずに屋内の女湯の中へと階段を登り戻った。
負けた。
敗北感だらけで全く癒やしの得られない露天風呂だった。
女湯に戻ってから振り返るとお兄さんもすぐに風呂から上がっていた。
「なんでやねん!」と口から出てしまった。
急いで露天風呂に戻り、やっとゆっくりとお湯につかることができた。
くだらない勝負だった。
人のいない時間帯や人のいない場所を好んで、それに慣れすぎると、中途半端に人がいるだけで疲れる。
温泉で疲れをとるはずが、意地の張り合いでどっと疲れてしまった今回の川湯温泉。
自分のためにも意地を張るのは無意味だ。
温泉に勝ち負けはない。今後気をつけよう。
人がいれば譲ってまたチャンスを待てばいいし。
いつもは川湯温泉は最高の癒しの場所なので、またゆっくり来よう。
今回は全く癒しを得られず温泉を後にした。

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