剱岳 恋は盲目 一直線
しつこいようだが山登りが趣味じゃない私が、立山にまたやって来たのは、この場所が気に入ったということと、剱岳に一目惚れしてまた会いたくなってしまったから。つい一句詠むほど恋している。
室堂に向かうバスの中からばっちり剱岳が見えて
「キャー♡」と心の中で黄色く叫んだ。

これこれ、この山ですよ。
山って漢字みたいなルックス。
今回はちゃんと左の窓際に座ったからばっちりお見え。
めっちゃかっこいいやん。
昨夜の22時に大阪を出て、コロナの影響で乗客を2人しか乗せていない富山行きの夜行バスで贅沢に熟睡し、午前6時前に富山駅に着いて、電車、ケーブルカー、バスを乗り継いで、時間はまだ午前9時前。
奇跡的にも晴れている。
このまま、行けるかも。
ワクワクした気持ちのこの勢いで登ってしまおうか、そう思った。
明日はもしかしたら天気が崩れるかもしれないし、今回はそんなに日数がないから晴れている時にツルギくんに会いに行ってしまえ、と決めた。
10時に、宿泊予定の前回お世話になった山小屋、雷鳥荘に到着したので、荷物を少し預かってもらって、雷鳥沢から剱岳が真ん前に見られる場所である剱御前小舎まで登ることにした。

標高2330mの雷鳥沢に一度降りて2750mの剱御前まで一直線に登りっぱなしのコース。ここから剱岳はちょうど見えないが、剱御前まで行くと左向こう側に剱岳がようやく見られるという立地だ。標準タイムは片道1時間半程度。私の場合、標準タイムの1.5倍~2倍で考えるようにしているので、10時に出て、上でツルギくんと向かい合ってランチを食べて、見つめ合うタイムをもうけて、それからゆっくり下りれば日没までには山小屋に戻ってこられるはず。
前回のソロキャンプの途中に、ふと気が向いて一度登ったことのあるコースだから、寝起きかつ、高地順応タイム無し、着いてすぐのよーいドンでやっつけてしまえる気分に満ち溢れていた。
そこに行きさえすれば、ツルギくんと近くでご対面できる。恋した彼に少しでも早く会いに行きたくて、リュックに雨具とお菓子と食料とバーナーとメスティンを入れて出発。
途中、7月にソロキャンプした場所でおにぎりを放り込む。本日2回目の朝ごはんを済ませて登り始める。
登り始めて即思い出したが、
ああそうやった、めちゃめちゃキツイこの道…。
すでに後悔の始まり。
しんどいよう。
息苦しいよう。
10歩登っては立ち止まることを繰り返す果てしない道。
今回は天気が良いこともあって、疲れを癒す雷鳥さんも1羽も現れない。
剱御前の小屋が上に見えてきた頃、雲行きが一気に怪しくなった。

そんなことってある?というくらいの勢いで雲が出てくる。
何とか登り2時間30分で到着。
そんなばかな?!
下界の晴天は夢だったのかと思うほど、真っ白な映画ミスト状態。
剱岳の看板の前に立つ。

え?ツルギくん…。どこ?
見えそうで見えなかった。そしてそのうち真っ白になった。
ちなみに7月に来た時の景色はこちら↓

今回の方がちょっとマシな気がする。
見えそうな気もする。
どちらにしても、晴れてる日にここに上がってこれて、剱岳を目の前で見れる人は、それだけで奇跡的だと思えて仕方ない。
トイレの前で座っているイケメンお兄さんに
「もうすぐ雨が降るよ。剱は今日は見えないね」と言われる。
いや、もしかして隣の別山という山から見ればツルギくんが見えてくるかも。
一縷の望みをかけて別山まで歩くことにした。
これが失敗の始まりで、予言通り土砂降りが来た。体感的には10分ほど断続的に土砂降りが来て突如3分くらい止み、また土砂降りが来るような雨の降り方。止むんじゃないか?と何度も思わせるから諦めがつきにくい。結局30分くらい歩いたが諦めて慌てて30分近くかけて戻ることにした。さっきのトイレは確か屋根があったはず…。そこを目指して早歩きで戻っていると、雨が一瞬止むターンの時に突如現れる雷鳥7羽。


まるでウォーリーを探せのように難易度の高い雷鳥フォト。何羽写っているのか分からない。
時々、至近距離に平気で近寄ってきて私を囲む。

雷鳥の集団に弄ばれているような気すらするが、土砂降りの中の癒しをもらい、剱御前のトイレに到着。
ただずぶ濡れになりに行っただけの私を、先ほどのお兄さんがまた出迎えてくれ一緒に雨宿りをする。
絞れるくらいに濡れた手袋とレインウェアを脱いでダウンジャケットを羽織り、お兄さんと少しお喋りをして雨が止むのを待った。
お兄さんはヘルメットを持っていたから「剱岳に登るんですか?」と私が聞くと、
「そのつもりで来たんだけど、なんかこの天気だと登る気失せるよね。心折れそう。」とポツリ。
わかるよお兄さん。
北海道の人で、いつも北海道の山に登っていて、初めての北アルプスらしいが、剱岳に登るのはやめにするし、テント泊もやめようか悩んでいるとのこと。
私は雷鳥荘に泊まると伝えると、
「いいなあ、温泉もあるなんて、僕もそっちに行こうかな」とお兄さんは揺れていたが、最終的に剣沢キャンプ場まで行くことにして、雨の中爽やかに去って行った。
本当は絶景ポイントを見つけてツルギくんを見ながら焼き肉を焼くはずだったが、私はあまりの寒さで震えていたので新しいギアの小型でハイパワーのバーナーで湯を沸かし、温かいお茶を飲んだ。そして、しばらく雨が止みそうにないので、私は仕方なくトイレの前のベンチでうどんを作ることにした。
しかし先ほど使えたはずのコンロが雨で濡れてしまって、火が再度つかなくなってしまった。
「あちゃー。先にうどんを作るべきだった」と後悔。
空腹にお菓子を放り込んでしのいだ。
こういうこともあるから必ず念のためにライターを持っていくようにと説明書に書いてあったんだなあと反省。
火がなきゃ何もできねえよ、チキショー!とやさぐれて、たべっこ動物ビスケットをほおばる。
少し待っているとおじさんがトイレを借りにやって来たので、無事ライターを借りて着火。
この時の着火の「ボッ!」という音と、火の温かさは忘れられない。
メスティンに水を入れ、溶けてしまっている冷凍うどんと千とせの肉うどんの具と出汁と家から持ってきたうどん揚げを2枚投入し待つこと3分。感動の肉きつねうどんが完成し、トイレの前で雨を見ながら食べた。お出汁のしみ込んだあげさんが最高だった。


雨が止むまでギリギリまで粘ろうと決めていた。私の心はまだ折れてはいなかった。
夢中でうどんを食べていると、さっきの雷鳥7羽がなぜかこちらにやってきて前を行進している。

ふと気づくと雨が小雨から止みかけくらいのレベルへと落ち着いている。
「もしや!!」
うどんの汁をすべて飲み干し、メスティンをそのまま放り、雷鳥の向かう方について行ってみる。
ちょうどツルギくんの見える方向だ。
いい場所まで小走りで向かう。
ああ、風で雲が右に流れていく。
薄暗いけど現れそう…。
なんてドラマチックな現れ方なんだろう、剱岳!!
呆然と口も開けたまま立ち、見届けた。
ツルギ降臨!!!




そしてすぐに雲がまたツルギくんを飲み込んだ。
何だったんだ?今の時間。
神々しくて震えた。
全身、雨に濡れたせいかもしれないけど身震いした。
またしばらくツルギくんが出てきてくれるのをカメラを取りに戻って待ったが、現れてはくれなかった。
ああ、そういう男、好きやで。
完全に隠れたツルギくんにお菓子を献杯!

一層ツルギくんに夢中にさせられたが、
ふと時計を見ると15時半を回っている。
ヤバイ、下りも2時間以上かかるし日没前までに雷鳥荘に戻れるか不安になり、食べ散らかしたものを全て片付けてリュックにしまい、急いで下りることにした。
トイレを済ませて、身支度をして出発しようと出ると、
え?!
雲の切れ間に!


出てきてるやん、剱岳!!
チラ見せやけど、めっちゃ格好いいやんか!
どんな雲の切れ方?!切り取られたみたいな雲の切れ間。
もったいぶるわね、全く。
しまった、カメラはリュックの奥底に直してしまったよ。
そしてこれも一瞬で雲に包まれてしまった。
ちなみに同じ場所から晴れた日に見える剱岳はこうらしいです↓格好いいよ、ツルギくん。
ヤバい😭✨ pic.twitter.com/91If6wElbc
— イナガキヤスト (@inagakiyasuto) September 8, 2020
もう!私を弄ぶんだから。
ツルギくん、明日も会おうね。また来るよ。
と心で投げキッス。
山を降りようとするとすぐさま雨が打ちつけてきた。またしても土砂降りがやってきて、ずぶ濡れになる羽目になった。
でも、体は雨に濡れて心底冷え切っていたが、心は恋心に燃えていたから寒くなんてなかった。
と書きたいところだが、それはそれは寒くて1秒でも早く温泉に入る事だけを考えて必死で山を下りた。
剱岳。
簡単に手に入らない男、一筋縄ではいかない男は嫌いじゃない。大好きだ。
私の心の変態的な部分は、もはや、ずぶ濡れでもライター無しで点火して消えない炎だった。
私とツルギくんとの出会いはこちらです↑
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