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生成AIは観光パンフレットの広告文を書けない。

■日経までもがなぜ褒める


生成AI(ここではChatGPTを使用)が生む文章は、
過度に評価されていると感じている。

「日本経済新聞」朝刊(2025年2月11日)では、
「流暢な日本語 詐欺メール急増」という見出しで
次のような“詐欺メール”の文章を
「翻訳がなめらかで自然な文面を作れるからだ」
と評価している。

当社は国際事業部を拡大するために買収を
進めています。あなたを担当者に選出いたしました。
よろしくお願いします。


23年夏、ある国内企業の社長になりすまして財務担当者に海外から届いたメールには流暢な日本語が記されていたという。



この一文、ビジネス文書として見た場合、
まさに突っ込みどころ満載だ。

この前に自社の説明があったとしても
「国際事業部を拡大するために」が唐突過ぎで、
どんな分野の国際事業かも伝えず、
何の担当者かという説明もなく、
選出の経緯を省いているのも舌足らずで、
結びの「よろしくお願いします」に至っては、
馬鹿にしているのかと言いたくなるほどの乱暴さだ。


刹那的に情報のみを伝えようとする文章の構造は、
いわゆる“詐欺メール”に共通する欠点とも言える。

このような例文を挙げ、なぜ
「流暢な日本語 詐欺メール急増」という
見出しを付けてまで褒めねばならないのか。


こうした生成AIの作文能力は、次のような設定だと
なおさら、なくてよいレベルに陥る。


■「暗黙知」が必要な文章は書けない


個人の経験に基づく知識のため、
他者に向けて簡単には言語化できない
「暗黙知」という知識がある。

コピーライターの仕事の多くも、
それに近い。

池上彰さんとの対談のなかで、俳人の黛まどかさんも、
AIが作る俳句を次のように評している。

職人の技にしても何にしても俳句にしても、
暗黙知で身体で経験したことを身体で
積み重ねていって、そこから出てくるものですから、
生きた身体を持たないAIには暗黙知はないですね。

「池上彰がいま話を聞きたい30人」

文章作成における生成AIの対応を、
万能のように語る評価が目立つが、
特にこの「暗黙知」が作用する文章においては
水準に遠く及ばない。

(WEBサイトではない)観光パンフレットの広告文は、
文字数が限られるため一見簡単そうだが、当然
経験が物を言う「暗黙知」の領域にある。

そこで、ChatGPTの対応力を確かめるために、
次のような課題を与えた。

          

[課題]
湘南エリアの観光パンフレットに載せる「江の島」の
コピーを文字数90文字前後で書いて。
20文字以内の キャッチフレーズも付けてほしい。

以下がChat GPTの回答である。

【ChatGPT作成】初稿

海と信仰の島、江の島

潮の香りに包まれた江の島は、海・信仰・グルメが重なる小さな聖地。
橋を渡れば、洞窟や灯台、路地の先に湘南の絶景と物語が待っている。
夕景から夜景まで一日中、五感で楽しめる島旅へ。

【私の修正指示】
(1)湘南のパンフレットなので「潮の香りに包まれた」は共通項となるため不要。
(2)「海・信仰・グルメが重なる」の「海」は(1)と同じ理由で不要。「信仰・グルメ」は、 その具体的内容を説明するのが重要で、提出の文章にはそれがなく抽象的。
(3)「小さな聖地」は説明後でないと意味が分からないので説明してから書くか不要。
(4)「湘南の絶景と物語が待っている」は抽象的でしかも湘南エリアの共通項となるため不要。
(5)「夕景から夜景まで一日中、五感で楽しめる」は抽象的で根拠も示されていない。
(6)「島旅」は離島の印象を与え「橋を渡れば」という説明とも合わない。

以上を踏まえ90文字前後で再考してほしい。湘南のパンフレット内での説明が前提なので、 このエリアにおける江の島固有の情報を書いてほしい。

(1)~(6)の指示で書き忘れたのだが、
「夕景から夜景まで一日中」という表現は、
「夕景から夜景まで」が「一日中」に掛かる言葉としては
時間を狭く限定していておかしい。

観光パンフレット云々以前に、この点だけでも
正確に書く能力が備わっているか疑わしい。

なお、「湘南の共通項となるため不要」という指摘は、
本来は最初に伝えた方が親切と思われるかもしれないが、
観光パンフレットであれば当然の「暗黙知」なのだ。
湘南エリアにおける共通項を書かない理由は、
字数が制限されたツールで、
一般的に巻頭ページで伝えることになる情報と
重複する内容に字数を割くのは無駄だからだ。

■一般的な作文能力の危うさ

皆さんは、初稿の文案を読まれて、どう感じられただろう。
ちなみに、上記の私の【修正指示】に対する
ChatGPTの回答(第2稿)は以下だ。


【ChatGPT作成】第2稿

祈りと賑わいの江の島


朱の鳥居が連なる参道の先に江島神社。弁財天信仰の歴史と、
名物しらすや海鮮の食べ歩き、岩屋洞窟や展望灯台まで、
歩いて巡れる見どころが凝縮した島。


今回は文字数が71文字(第1稿は87文字)に減ってしまった。
ChatGPTは文字数計算も苦手だ。
キャッチフレーズも、20文字以内と指示していながら
10文字(初稿も10文字)で、20文字いっぱいに使って
情報を効率的に入れ込む能力はないのだ。

文字数に限りがある観光パンフレット用の広告文で
第2稿の71文字は評価する水準に至らず、
内容に重大な誤りがあるばかりか、
見どころを単に羅列しているだけで
補足説明がないため、読む側にとっては判断基準にならない。

これら初稿・第2稿のような
ChatGPTの作文能力を
「流暢な日本語」などと安易に
褒めるのは、あまりにも軽率だと思う。

         
なお実際のコピーライティングは、
提出した広告文をもとに「これも入らないか」などという
討議が重ねられて完成する。
また最初に「江の島の食を中心に」などという
方向性が示される場合もあるが、今回は、
そのような方向性は示さなかった。

いずれにしても、内容における唯一の正解はないため、
今回の指示でも内容の価値判断による取捨選択の指示は行っていない。
また、湘南の共通事項は書かないという指示は、
重複せず効率的に情報を送る観光パンフレットの
常道とも言える「暗黙知」で、内容云々とは別だ。
しかし、ここまでに提示された文章と
修正指示のやりとりを見れば、

「観光パンフレット」という枠組みを取り払っても
ChatGPTの作文能力の危うさは明らかだ。

■終りが見えない修正作業

【ChatGPT作成】第2稿に対しては、
以下のように具体的な指示を行った。
Chat GPTの作文能力がいかに
疑わしいかは、これらの指摘からでも
分かる。

【私の修正指示】第2回目
(1)「朱の鳥居が連なる」は事実と反する。
(2)「弁財天信仰の歴史」は観光パンフとしては大仰で硬い。
(3)「食べ歩き」は「歩いて巡れる」に掛かるが、
「歩く」という意味が重なり日本語としておかしい。
(4)「見どころ」が「名物しらすや海鮮の食べ歩き」を受けるが、
「食べ歩き」は「見どころ」ではない。
(5)「名物しらす」は少なくとも、格助詞「の」を入れるべきだ。
(6)「凝縮した」は観光パンフの表現としては硬い。
以上を踏まえて再考を。

これに対してChatGPTからは
「江の島の入り口にあるのは緑青(銅製)の大鳥居で、
鳥居が連なっているという景観は他の神社のようなものではなく、
主要な大鳥居が一基あるのみです」という
虚偽報告があった。
ChatGPTが、ネット上の情報に反して
勝手にこのような嘘をつくのはまさに日常茶飯事だ。


そのうえで、先の指示を踏まえて提示された
ChatGPTによる第3稿は以下の通りである。


【ChatGPT作成】第3稿

三社巡りと海の幸、江の島

江島神社の三社を巡り弁財天に親しむ参拝ルート、名物のしらす丼や海鮮、岩屋洞窟、展望灯台「シーキャンドル」など、歩くほど多彩な魅力が広がる島。


キャッチフレーズは12文字とやや増えたが、
本文は70文字で、またさらに減ってしまった。

【私の修正指示】3回目
(1)「参拝ルート」と記しているが、それがどうおすすめなのかが書かれておらず唐突。
(2)また「参拝ルート」は他のルートが存在する印象を与えかねないが、
こと参拝に関する限り、ほぼ三社を巡る一択で他のルートは考えにくい
(岩屋洞窟を加える程度だ)。
(3)しらすも海鮮に入るので、しらす丼と海鮮は並列にできない。
(4)観光ポイントの名前だけがただ並べられて、情報が足りないため
魅力が分かりにくい。
(5)「歩くほど多彩な魅力が広がる島」は抽象的過ぎ、90文字という
字数制限のなかではより具体的な情報を入れるべきだ。

こんな感じで、実際の修正作業は延々と続いた。

ただ、そのなかで私は、
もっと丁寧な指示が必要ではなかったかと反省する。



■観光パンフレット以前の作文能力

そこで今回の流れとは別のスレッドで、
改めてChatGPTに観光パンフレットの
広告文作成を依頼した。
何らかの文章を下敷きにすると、その内容に影響されるため
ゼロの状態から行ったが、

今回は暗黙知とも言える
意識すべき事柄をしっかりと伝えた。
より具体的な指示の方が、
回答の品質が上がるのは常識でもあった。


ChatGPTの傾向を踏まえた指示]

湘南エリアの観光パンフレットに掲載する「江の島」の広告文を、次の注意事項をもとに書いてほしい。

(1)キャッチフレーズは20文字前後で作成(地名〈江の島〉は別掲するので不要)
(2)それに続く本文は90文字前後で作成
(3)海関連の情報で湘南エリアに共通する特長は他のページで述べるので不要(「食」の情報は海関連とはしない)
(5)見どころの名を単に羅列するのは極力避ける(一言でも 補足情報を付けたい)
(6)90文字前後と字数が限定されているので、曖昧な内容や 抽象的な表現は避ける (Ex.歩くほど多彩な魅力が広がる島)
(7)対象は湘南エリアや江の島をよく知らない層

以上の指示に沿って、苦手だと思うが字数にも配慮して書いてほしい。


[「指示」における注釈]
これらの指示が理想的とは思わないし、たった一言加えるだけで回答が
左右されることも知っている。ただ、あくまで今回の目的は、観光パンフレットの広告文を題材に文章生成AIの作文能力あるいはその際の注意力や単語の理解力を確かめる点にあり、その点では質問内容による影響はほぼ考えなくてよいはずだ。


そんな私の新たな指示を踏まえて修正された広告文が以下だ。

            

【ChatGPT作成】

歴史と絶景が交差する小島散策の旅へ

参道に連なる土産店や食事処を抜けると、三女神を祀る江島神社や奥津宮へと続く。石段やエスカーで巡る起伏ある地形も魅力。展望灯台からは富士山を望め、岩屋洞窟では波の浸食が生んだ神秘的な空間を体感できる。


【私の修正指示】
(1)キャッチフレーズは、歴史という言葉の幅が広過ぎ、「絶景と交差する」は抽象的で分かりづらい。「小島散策の旅」に至っては、離島の印象に近い。
(2)「参道に連なる土産店や食事処を抜けると」は「土産店や食事処が連なる参道を抜けると」と書かなければおかしい。
(3)「三女神を祀る江島神社や奥津宮」とあるが、奥津宮も江島神社の一社なので誤り。
(4)「エスカー」を書いたのはよいが、「屋外エスカレーター」程度の説明が
必要で、それがあれば「エスカー」という名称はいらない。
(5)「岩屋洞窟では波の浸食が生んだ神秘的な空間を体感できる」自体はよいが、これだけで全体の30%を占めるなら、その中に江の島信仰を入れるべきだし、それよりもこの内容を削減してしらすや海鮮、「日本三大弁財天」などの情報を入れないと情報が偏り過ぎる。

文字数は、念を押したのでキャッチフレーズ17文字、本文99文字。
実際の仕事では99文字は多過ぎで、100文字前後になっているが、
甘く評価すれば、
これまでよりは制限字数に近づいたと言ってもよい。

ただ、観光パンフレット以前の日本語の誤りがやはり目立ち、
観光パンフレットならではの情報のバランスも取れていない。


■“称賛のバブル”と言える生成AIの高評価

今井むつみ慶応義塾大学教授は、
2025年1月13日の「日本経済新聞」朝刊で次のように述べて
生成AIを絶賛している。

人間は長い文を生成するときに主語が何かを途中で忘れてしまい、
主語と目的語が一致しない文を作ったり、単語の選択をうっかり間違えたりしてしまうことが頻繁にある。
しかし、生成AIは大量の情報を並列に超高速で計算できる。
記憶力も人間に比べれば無尽蔵と言ってよい。
だから、今の生成AIはまず文法の間違いをしない。

これまで提示した文章で分かる通り、
生成AIは
まず第一に、情報を正確に記述する意識に欠け
(第2稿の鳥居の描写の虚偽など)、

わずか90文字前後の文章中でさえ
「夕景から夜景まで一日中」(初稿・結びの個所)
と“単語の選択をうっかり間違え”、

修飾・被修飾の関係も正確に記述できず
(第二稿・見どころの個所、最後の稿の
手べ歩き~歩いて巡れるの個所)、

事象の状態を正確に描写できない
(最後の稿の「参道を抜ける」など)。

文法どころかそもそも日本語の理解が怪しい個所が
目立つ。

これら生成AIの書いた文章を、
「自然な文面」かつ「流暢な日本語」で
しかも、
「まず文法の間違いをしない」などと
断言する論調は明らかに行き過ぎており、
“称賛のバブル”であると
言わざるを得ない。

2026年4月16日の「日本経済新聞」朝刊では、
星新一賞」の一般部門受賞4作品中3作品が
AIを利用していた」

と報じている。

その是非はともかく、
辞書代わりに使う場合も含めれば
「生成AIを使う」という行為は既に生活に深く浸透しており、
最早、生成AIの使用云々を言うのは時代遅れとも言える。
まして専門家の口からでさえ出る
「(生成)AIを使用したかどうか」の自己申告ルールは、
創作物から判断することが難しい以上、無意味だ。

むしろ注目したいのは、
同記事で優秀賞の志縞円しじまえん、滝ノ内理乃両名が、
「AIの助言も参照し、手作業で細かな表現を削ったり
書き加えたりして完成」

という手順を踏んでいたことである。

つまり、生成AIの作文能力を
「完璧」などと手放しで褒める論調が
明らかな間違いである以上、
出来上がった文章を人間の手でどこまで
完成度高く仕上げられるかで、成果物の
品質は変わってくるということだ。

だから、
今回のテーマである観光パンフレットの
広告文の作成能力においても、
本来は次のように書くべきであった。


文章生成AIは、
観光パンフレットの広告文が書けない
のはあまりにも明らかで、

そもそも日本語の作文能力においても、
信頼できる文章は書けないレベルである。
                   

               *


■【私が書いた観光パンフレット内の「江の島」の広告文】


日本三大弁財天を祀る江島神社と海鮮料理


人気の丸焼きたこせんべいなど多くの店が並ぶ参道を上がると江島神社。釜揚げしらす丼など海鮮料理を味わいつつ三つの社を参拝したら、絶景の展望灯台へも。神秘的な岩屋洞窟へは遊覧船でも行ける。

(キャッチフレーズ19文字、本文92文字)













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