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【創作大賞2025エンタメ原作部門】リビング・ブレイン EXTRA

あらすじ

RUJの開発したリビング・ブレインシステムが実用化前にメトロポリス国際万博2050の目玉のひとつとして展示されることが決まった。しかし用意していた修復済みの透の機体が脱走。真木や瀬名たちが行き先を追うと地下層の森の奥にあるフィーアの自宅に向かっていることがわかり…?

EXTRA「万博の日 前編」

メトロポリス国際万博2050開催当日の午前中。真木は瀬名からの電話を受けた時、一瞬自分が聞き間違えたのかと思った。

「……ちょっと待ってくれ。それは本当なのか瀬名くん。小松博士の修復済みの機体が逃げただって?あれがなければこの後の開会式でのリビング・ブレインシステムのお披露目《デモンストレーション》が一体どうなるか分かってるのか」
『……も、もちろんです!今機体の現在位置を探ってるんですが万博の会場内のどこにも見当たらないんです』

通話口の瀬名の焦りが手にとるように真木に伝わってくる。いくら機械でできていても機体は単独では動けない。動かすためにはダミーであれなんであれ脳が必要な設計になっている。

(脳……そうか、まさか)

真木は今頭に思い浮かんだ答えをすぐに取り消したくなった。むやみに人を疑うことはしたくない。だが考えずにはいられなかった。おそらく犯人は……。

「瀬名くん…………フィーア博士が今どこにいるかわかるかい」
『え?ああ、今日はグラウくんとゆっくり過ごしたいからお休みされるって昨日おっしゃってましたけど』

瀬名の返した言葉に真木の予想は確信に変わった。今、盗まれた機体には透の脳が入っていない状態だ。つまり……中身は別、グラウのものだということか。

『……フィーア博士の現在位置が出ました。地下層3階のご自宅です』
「分かった。至急佑くんと小松博士、あと警察に要請して警備犬ガードを何匹か借りて向かってくれ。一向も早く取り戻したい」
『了解です。着いたらまた連絡しますね』



真木からフィーアの自宅に向かうように指示された瀬名が警察ホワイトポリスに連絡すると真っ白な大型、中型、小型と大きさも様々な警備犬が3匹ほど白い段ボール型のゲージに入った状態で派遣されてきた。首輪には警察の公式ロゴマークが入っている。

実物を見るのは瀬名も初めてだったので、その本物の犬のようなリアルさと愛らしさに思わず頬がゆるむ。すると、サモエドのような警備犬が前に進みでてきて口をきいた。

『……失礼ですが瀬名さん、我々はどこに向かえばよろしいのでしょうか?フィーア博士のご自宅の場所が検索してもまったく見つからないのですが』

自分のうっかりミスに気づいた瀬名は警備犬たちに地下層の博物館3階の詳しいマップデータを送信して、その奥の森をマークする。3匹が了解したところで再び瀬名の携帯が鳴る。

「もしもし?」
『おはよう瀬名くん。佑からさっき聞いたよ、私の体……逃がしたんだってねえ』

かけてきた相手は透だった。覚醒した直後なのか若干の苛立ちがねっとりとした声に出ている。瀬名が重ねて謝ると少しは気分を良くした様子で『まあ、彼ならいつかはやるんじゃないかとは思っていたんだが』とつぶやく。

「本当にすみません小松博士。謝罪しても足りないくらいです。保管室の管理は厳重だったはずなんですが、どこから破られたのか検討もつかなくて……」
『あの〜……瀬名さん。今からフィーア博士の自宅に向かうんですよね。僕と父さんもついていってもいいですか?』

『あの〜……瀬名さん。今からフィーア博士の自宅に向かうんですよね。僕と父さんもついていってもいいですか?説得するなら人が多いほうがいいと思いますし』

佑は先に真木から機体が盗まれたという連絡があったという。今日の開会式には一般客として透や亜紀と一緒に参加する予定だったらしい。瀬名が謝ると佑は「別に気にしてません」と言った。

「じゃあ、今から迎えにいくよ。お家にお邪魔するけどいいかな。あと……警備犬が3匹一緒なんだけど」
『え?ああ、母さんならまだ仕事で疲れて寝ているから来てもらっても大丈夫ですよ。父さんはすぐに出かけられるように準備しておきます』

佑は警備犬という言葉に地下層の博物館での件もあってちょっと動揺したようだったが元の調子に戻って通話を切った。瀬名は携帯を白衣のポケットにしまって顔を上げると、サモエドとシェパード、柴犬の姿をした警備犬たちと目が合った。通話中に近づいてきていたのに自分が気づかなかったらしい。シェパードが瀬名にぐい、と顔を近づけて話しかけた。

『失礼ですが、今の通話の相手は……小松佑様と小松透様ですか?』
「え、ええ。そうですけど、何か問題でも?」
『いいえ、問題は何も。確認したまでです』

白いシェパードは鼻を鳴らして瀬名から離れると、ゲージのほうへすたすたと歩いていく。他の2匹はすでに中に入っていて仲間を待っていた。シェパードがジャンプしてゲージに収まると自動的に扉がロックされた。

『さあ、瀬名さん。小松博士のご自宅に早く向かいましょう!』
「ええと……移動はどうされるんですか。さっき僕の部屋に派遣されてきた時は転移装置ワープかなにかだったようですけど」

瀬名が困っているとサモエドが『このゲージには持ち手と車輪が内蔵されています。後は……言わなくてもお分かりですよね』と答えた。瀬名は頷く。ゲージに近づくと持ち手と車輪を展開させ、がらがらと押して部屋から出た。

グラウが気づいた時にはもう博物館の奥に広がる森の中を走っていた。まるで何かに導かれるかのように、ひたすらに森の奥を目指す。今まで低かった目線や体の大きさが変わって動きづらいが構わずに走った。青々と茂った木々の間を抜けると、廃墟のような崩れかかった一軒家が姿を現した。グラウは玄関のドアに近づくと、迷わずに開けて中に入った。

『ただいま。フィーア…………いないの?』

帰宅を告げたグラウの背後で軋んだ音をさせてドアが閉まった。その音にびくりとグラウは身を縮める。部屋の中にはベッドがひとつあるだけで誰もいなかった。ベッドのそばにある丸椅子のクッションに手を伸ばして触れるとまだ温かさが残っていた。さっきまでここに誰かがいたのだ。きっとフィーアだ。

グラウは他にフィーアが行きそうな場所を思い浮かべ、地下の研究室にいるのではないかとあたりをつける。地下へ続く螺旋階段を落ちないように手すりを持ってゆっくりと下に進んでいく。1番下まで下りると研究室のドアの前に立つ。生体認証を行おうとしたタイミングで中側からドアが開き、ふらりとフィーアが出てきた。

《……おや。もう帰ってきていたのかい。気づかずにすまなかったな、出迎えに行くつもりだったのだがね》

グラウは何も言わずにフィーアに抱きついた。機体が変わって大人の体型になったグラウに抱きしめられたフィーアは少々驚いたもののすぐに《放してくれ》と言って手を解いてしまった。

フィーアは透の修復済みの機体の周りをじっくりと観察してから大きく満足げに頷く。

《……それにしても随分と大きくなったな。今までとは勝手が違う分動きづらいだろう》
『うん。早く元の体に戻りたい』

グラウは頭をかいて素直に不満をもらす。目元まで伸びた白髪には後ろ髪の先に鮮やかな青のメッシュが入っており、それに合わせた上品な印象のデザインの白いスーツ上下と中にメッシュと同じ青いシャツを着ていた。今日の万博の開会式に小松博士が参加する予定だったからだろう。

《それは構わないが、まずは……一緒に食事でもどうかね。ここまで何も飲まず食わずで来たんだろう》

フィーアが尋ねるとグラウはこっくりと頷いた。

《何か食べたいものはあるかね》
『……アイスバインとプレッツェル。あと、カリーヴルストかジャーマンポテトがいい』

グラウはちょっと考えてから食べたいものを言った。フィーアはそのメニューが別れた妻のリラがよく作っていた料理だと気づく。

《……全部リラの得意料理だな。よしわかった。可能なかぎり作ってみるから少し上で待っていなさい》
『うん。分からなかったらレシピは覚えてるから手伝うよ』
《ああ、その時は呼ぶから頼む》

フィーアは頷くとグラウに上の部屋に戻るように言ってからキッチンに向かった。

瀬名は警備犬たちが入ったゲージをRUJから転がしつつ、小松家に立ち寄って佑と透と合流してやっと博物館3階にある森の前に辿り着いた。着ている白衣やシャツがもう汗だくだ。なるべく急いで来たつもりだがまさかこんなアナログな方法で彼らを運ぶことになるとは……。

『ここですね。もういいですよ、後は我々が行きます。瀬名さんは小松博士と佑さんと一緒にここで待っていてください』

ゲージの中からサモエドの姿をした警備犬が振り返って瀬名に告げる。佑が透の簡易水槽をブラックボックスで作ったリュックの中に入れたままついていくと言うとやはり止められた。

「わかりました。じゃあ佑くん、後は彼らに任せよう」
「で、でも……。それじゃフィーア博士とグラウが」

佑が言いよどむと柴犬の姿の警備犬が答える。

『大丈夫です。逮捕をするだけですから傷つけたりはしません』
「……その言葉は本当ですか」
『ええ。本当です。では、行ってまいります』

その直後に段ボール型のゲージのロックが解除されて扉が開き、3匹の警備犬は入り口にかけられたチェーンとプレートを軽々と飛び越えると森の奥に向かって駆けていった。

【中編に続く】

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