ホラー掌編 椿谷村
動画サイトのおすすめに、それは上がっていた。
最上段。見覚えのない題名。
”椿谷村”
投稿者名は判別不能な記号列。説明欄は空白。
見覚えがある。地図に載らない消失集落。
一時期似たようなものが量産され、そして飽きられた。
懐かしさから、その動画を再生する。
夜の山道。ヘッドライトだけが前方を切り出す。舗装は荒れ、濡れている。
エンジン音はある。だが運転席は映らない。
数秒後、音が途切れた。
沈黙の中で、ひとつ。
鈍い接触音。
何か、柔らかいものが当たった音。
光の縁に赤が入る。
椿だ。
仕込みを疑った。編集でどうにかなる。
しかし、同じ音が質を変えながら繰り返される。
最初は軽い接触。次は潰れる気配。
三つ目で、わずかな遅れ。
作り物なら、どこかに破綻があるはずだ。だが、おかしなところは見つからない。
やがて右手に鳥居が見えた。近くには白飛びした看板。文字は読めない。
地面は赤で埋まっていた。やや黒ずんだ花弁は、血を連想させた。
その中央に、上から落ちるものがある。
花の落ちる音とは思えない。もっと重いくて。固さがあるもの。
視界の奥、鳥居の向こうに縦の列がある。
闇に潰れているが、間隔が揃っているのが何故だか分かった。
カメラがわずかに上がる。
枝の間。吊られているものがある。
顔だと理解した瞬間に、ひとつ外れる。
落下音の直前、無音が挟まる。その一拍で、規則が崩れる。
続けてもうひとつ。今度は遅れてではなく、先に落ちる。
画面が切り替わる。
車内。
後部座席から、運転席を映している構図。そこにハンドルを握った男がいた。
首元に点がある。小さな円が、皮膚に貼り付いている。
その円が、大きくなっていく。赤い。赤黒い。
ひとつだったそれは、発疹のように増え続ける。
そのとき、視界の外で音がした。反射的にそちらを向く。
床に、赤がひとつ。
椿。
どうして。こんなものがある筈がない。
さっきと同じ質の音。今度はデスク。
また、椿。
視界にPCの画面が入る。動画は終わっていた。
再生バーは最後まで達しているのに、まだ何かが続いているような気がする。
呼吸の間隔が乱れる。吸った量と吐いた量が一致しないような気がする。
肺の奥に何かが引っかかっている感覚があり、それが徐々に上がってくる。
咳をしようとして、できない。喉の奥で止まる。
喉が、首が、熱い。
呼気が止まる。舌の下に、硬い輪郭。
次の瞬間、圧が抜ける。
視界が傾く。
机の脚、床、散在する赤。
最後に見えたのは、自分の身体。
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