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蒼いLove Letter|vol.1|私の名前の駅ー 年下彼氏との恋 ー

私は短大を卒業し、デザイン会社に就職した。

けれど半年で辞めたの。

四年制大学卒の同期だけがデッサンを学び、
私たちはお茶くみやコピーの補助ばかり。

女性も活躍できると聞いていたのに、
入口が違うだけで未来の形まで違うと知った。

悔しかった。

でも、その悔しさをうまく言葉にできるほど
私はまだ強くなかった。

退職後、実家の縁でカフェの仕事に就いた。

気晴らしに社会人バレーボールサークルに入り、
そこで誠人に出会った。

大学生。

よく笑う。
少し照れると耳まで赤くなる。

でも、コートに立つと別人だった。

高く跳び、全力でアタックを打つ。
声を張り、仲間を鼓舞する。

着地したあと、私を見つけて笑う。

その瞬間、胸が跳ねた。

私は誠人に恋をした。
年下なんて好きになるなんて思っていなかった。

付き合い始めたある日。

誠人は私の名前の由来を聞くと、
数日後に言った。

「由布さんの駅、ありますよ」

観光地でもない、
何もない無人駅。

レンタカーを借りてドライブした。

青空に白い雲。

窓を開けて走ると、
風が気持ちいい。

膝の上に広げた地図を、
誠人が指さしながら笑った。

ナビなんてなかったあの頃、
私たちは道に迷うことさえ楽しかった。

運転する誠人の横顔を、
助手席からそっと覗き込む。

内心、ニヤニヤしてしまった。

私の名前の駅は、
二人で手探りでたどり着く、
秘密の場所みたいだった。

道路から見えにくくて一度通り過ぎ、
慌てて折り返して駅前に入った。

古びた売店の切符売り場で、
誠人が買ってきてくれた切符を、
私はそっと受け取った。

そこに印字されていた。

南由布。

「ちゃんと“由布”入ってますよ」

切符を指さして、
少し照れたように、
でも誇らしそうに笑う。

駅の向こうには、
大きな由布岳がすぐそばに見えた。

小さなホーム。
静かな線路。

風の音だけが聞こえる。

駅舎を背にして、写真を撮った。

いつもなら恥ずかしくなるのに、
白Tにデニム姿で、
思わずポーズまで決めてしまった。


――ありがとう、誠人。

ただ、
私の名前を探して、
私のためにここまで来てくれた。

胸がいっぱいになった。

涙がこぼれた。

「泣くほどですか?」

困ったように笑う誠人。

私はうまく答えられなかった。

あのとき私は、
初めて“特別にされる”って感覚を知った。

誠人は一生懸命だった。

好きな人のために一直線。
少し不器用なくらい。

抱きしめる腕は強くて、
その中にいると
年上であることを忘れた。

でも、若さは隠せなかった。

私が他の男性と話すだけで
少し不機嫌になる。

電話に出ないと
「心配した」と言う。

「好きだから触れていたい」

真っ直ぐすぎる言葉。

会えば求められる。
嫌ではなかった。

でも私は、
触れられることよりも
落ち着きを探し始めていた。

別れを選んだのは、私。

一年後。

バレーボールの試合で
コートで跳ぶ誠人を見て、
胸がざわついた。

あの背中。
あの全力。

私は電話をした。

再会の日。

少しだけ大人びた誠人が立っていた。

「映画、行きます?」

私から彼の手を
ぎゅっと握った。

何を言ったのか、
もうはっきりとは思い出せない。

ただ、帰りたくなかった。

誠人は少し驚いた顔をして、
それでも静かにうなずいた。

その夜、私たちは
もう一度、同じ時間を重ねた。

復縁した。

でも、半年で終わった。

誠人は若さのままで、
私は安心を探していた。

その後、
年上の男性と付き合った。

落ち着けると思った。

でも彼には、
まだ終わっていないものがあった。

私はそれを受け止めきれなかった。

ひとりで泣いた夜、
浮かんだのは
南由布のホームだった。

あの小さな切符。
あの一生懸命な顔。

連絡は来なかった。

あの頃の私は、
若さの眩しさと、
安心の両方を欲しがっていた。

今は娘と出かける週末。

大学生くらいのカップルを見ると、
ときどき思い出す。

娘が聞く。

「ママも、若いころ恋とかしてたの?」

私は少し笑って答える。

「してたわよ」

そして、
ほんの少しだけ間を置いてから言う。

「すごく、まっすぐな恋」

「誰かがね、
私の名前の駅まで
連れて行ってくれたことがあるの」

娘も笑顔に変わった。

「へえ、すてきだね」

私はうなずいた。

「ママの、大切なお守りみたいな場所なの」

娘の笑顔を見つめながら、
私は心のなかで、

もう手元にはないはずの、
あの小さな切符を、
そっと握りしめた。





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