蒼いLove Letter|vol.3|アディショナルタイム― あと5分の恋 ―
Dear
ノートを貸してくれた人へ。
さすがだな。めっちゃ分かりやすかった。
これで分からないとか言ったら罰が当たっちゃうよ。
さっちんは、きれいで何でもできて、
俺の自慢の彼女だよ♡
試験前に貸したノート。
返ってきたページに、そんなメモが挟まっていた。
私は思わず、独り言みたいに笑ってしまった。
そんなことないよ。
達也だってサッカー部でかっこいいし、
私の自慢の彼氏だよ♡
そう書き添えたメモを、
閉じかけたノートの間でしばらく眺めていた。
高2から付き合い始めて、もう2年。
最初はただ、
「サッカーの上手い人だな」くらいにしか
思っていなかったのに。
親友のまりがサッカー部の彼と付き合うようになって、練習を見に行く機会が増えた。
気づけば、グラウンドの向こう側から飛んでくる視線と、何度も目が合うようになっていた。
ある日の帰り道。
まりが唐突に切り出した。
「さっちんさ、好きな人いるの?」
「いないよ」
「ふーん、そうなんだ」
ニヤニヤしながら、まりが私の顔を覗き込む。
「……なに、なに?」
「あのね。彼の友達の達也が、
今度一緒に帰りたいって言ってるんだ」
歩行者用信号の点滅よりも早く、
私は目をぱちくりさせた。
「からかわないでよ」
「ほんと、ほんと! ほんとだってば」
「……本当に?」
「うん。
私と彼、さっちんと達也の4人で帰るの。
ボウリングにする? それともカラオケ?」
「いや、いきなり歌うのははずいよ……」
「おっけー、それじゃボウリングね!」
それが、私たちの始まりだった。
高校三年。
私は関東の大学へ推薦が決まった。
達也は地元の体育大学へ、サッカー推薦で進学することになった。
卒業前、最後と決めたデートの日。
私は――密かにひとつの覚悟を決めていた。
けれど、その日は何も起きなかった。
「今の俺にできるデートなんて、限界があるじゃん」
後になって、彼はそう言った。
「しかもさっちんって真面目だから。
もし俺が理性を飛ばして変なことでもしたら、
一生口をきいてもらえなくなる気がして。
そうなったら、付き合い続けることさえ
できなくなると思ったんだ」
私が、そんなに「真面目すぎる女の子」に
見えていたんだね。
ありがとう。
確かに真面目だよね、私。
でもね。
女の子だって、
ちゃんと「決めるとき」があるんだよ。
あなたは最後まで、気づいてくれなかった。
大学へ進学しても。
就職してからも。
夏が近づくたびに、
「夏祭り、帰って来いよ」
そんな一言くらい、言ってくれるかなって、
毎年どこかで期待していた。
実家のタンスには、いつでも着られるように浴衣を置いたままだった。
結局、一度も袖を通すことはなかったけれど。
私たちにも、まだアディショナルタイムは残されているのかな。
そんな淡い期待を抱きながら、
私は毎年、夏を迎えていた。
……もう、本当にサッカーバカなんだから。
私たちはその後就職し、それぞれ別の相手と結婚した。
もう会うことはないけれど、
20年近く経った今でも、
人生の節目には連絡を取り合っている。
けれど、たまに思うんだ。
もしあの夏。
あと5分だけ私に――
あるいは彼に勇気があったら。
私たちの人生という試合は、
少しだけ違うスコアになっていたのかもしれない。
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