AIに音楽ツールを作らせた|「再起動していい?」と聞いたら。。|AI活用 進化の旅 #7
第5話では野菜たちのMVを、第6話では物語仕立てのMVを作った話を書いた。どちらの回でも「映像作りには苦戦した」とだけ書いて、何に手こずったかまでは書かなかった。
今日はその種明かしをしたい。ぼくが一番苦しんだのは、キャラクターの絵でも背景の雰囲気でもなく、もっと地味で厄介な場所だった。
口の動きが0.1秒ズレるだけで、別人に見える
MVには、キャラクターが歌に合わせて口を動かす場面がある。いわゆるリップシンク、口パクだ。
これがものすごくシビアだった。声と口の動きがぴったり合っていないと、それだけで「なんだか変だ」という違和感を与えてしまう。
ほんの少しズレているだけなのに、別人がしゃべっているみたいに見えることさえある。人間は他人の口元を、それくらい繊細に見ている生き物らしい。
この違和感を消すために、どうしても必要なものが2つあった。
ひとつは、音楽を正確に切り出すこと。
MVは短い動画をつなげて1本にしていく。曲の何分何秒何ミリ秒から何秒までを使う、というふうに細かく指定して取り出さないと、動画と音楽の継ぎ目がズレてしまう。
もうひとつは、ボーカルの分離。
伴奏が混ざったままの音声を使うと、その音が邪魔をして、AIが誤ったタイミングでリップシンクを作ってしまうことがあった。
「特定の時間で音楽を分割するツール」と「ボーカルだけを抽出するツール」。この2つが、どうしても欲しくなった。
「これ、探すよりAIで作ったほうが早いんじゃね?」
最初は、既存のアプリやサービスで何とかならないかと探そうと思った。世の中には音声編集のツールがいろいろある。どれかを使えば済むはずだった。
でも、あれこれ検索しているうちに、ふと頭に浮かんだ一言があった。
「これ、探すよりAIで作ったほうが早いんじゃね?」
半分は思いつき、半分は開き直りだった。パソコンやITまわりは、仕事柄それなりに触ってきたほうだと思う。ただ、自分でプログラムを書くとなると話は別だ。むかし仕事でシェルスクリプトを少し書いたことがあるくらいで、もう作れないレベルだと思っていた。
それでもこの頃は、Gemに相談することにすっかり慣れていた。その延長で「じゃあ、自分専用の道具を作ってもらえばいいのでは」と思ったのだ。
そこで出会ったのが、Antigravityというサービスだった。
Antigravityは、相談相手ではなかった
Antigravityは、Googleが提供しているエージェント開発プラットフォームだ。2025年11月に公開されていて、無料で使える。ぼくが使ったのはIDEという形のもので、導入はダウンロードしてインストールするだけだった。
触ってすぐ気づいたのは、これまでのGemとはまったく違う道具だということだった。
Gemは、あくまで「相談する相手」だった。こちらが質問を投げて、Gemが答えを返してくれる。健康管理も投資相談も作詞も、ずっとそのやり取りで、答えをもらったあと実際に手を動かすのは、いつもぼく自身だった。
でも、Antigravityは違った。
こちらの指示に対して、向こうがぼくのパソコンの中で実際に作業を進めてくれる。ファイルを作り、コードを書き、試して、うまくいかなければ直す。そこまで含めてやってくれるのだ。
相談相手だと思っていたものが、いつのまにか手元で実際に手を動かす相手に変わった。そんな感覚だった。
投げた最初の指示は、たった1行だった
音楽を分割するツールを作ってもらったときの指示は、これだけだった。
音声ファイルを指定した時間(ミリ秒まで)で分割することはできるか?
たったこれだけ。しかも「〜を作ってください」という命令形ですらなく、「〜できるか?」という問いかけの形になっている。自分で読み返しても、これで本当に伝わるのか不安になるくらい短い。
1行投げたら完成、ではなかった
ただ、この1行を投げたら完成品が出てきた、という話ではない。
指示を出すと、向こうから確認が返ってきた。ブラウザで動くアプリの形で作っていいか、といった作り方の相談だ。そこで、どういう方式で作るのがいいかを一緒に検討した。この時点で、もう「相談する」と「作らせる」が混ざっている。
そうして最初の版ができあがった。動くには動く。でも実際に自分で触ってみると、そのままでは使いにくい部分があった。だから、そこからは注文をつけていった。
日本語にしてほしい
分、秒、ミリ秒で指定できるようにしてほしい
分割したファイルをダウンロードするボタンをつけてほしい
書いてみると、注文というよりただの感想に近い。それでも、言えばそのとおりに直してくれる。
つまり最初の1行は、完成品を呼び出す呪文ではなく相談の入口だった。そこから、聞き返され、答え、できたものを触って、また注文をつける。その往復で形になっていった。
いま振り返ると、ここが一番の発見だったかもしれない。最初から完璧な指示を書く必要はなかったのだ。
ぼくのように「ちゃんとした頼み方がわからないから手が出せない」と思っている人は、たぶん多いと思う。でも実際は、雑に聞いてみるところから始めて大丈夫だった。

実は音声の統合もあわせて作成した

ボーカルだけを取り出すツール
続けて、ボーカルを抽出するツールも頼んだ。こちらは最初から条件をつけて伝えた。
ユーザが指定した音楽ファイルからボーカルだけを抽出することはできるか?
このひとことに加えて、5つの条件を伝えた。
ボーカルの声の強弱を変えないこと
曲の長さは変えないこと
ローカルだけで完結させてセキュリティを高くすること
変換後のファイル名を指定できること
変換後のファイルをダウンロードできること
このボーカル抽出ツールは、Suno製の自分の曲、つまりこれまでの回で書いてきた自作曲に対して使った。他の誰かの楽曲からボーカルを抜き出すために作ったものではない。念のため、ここは書いておきたい。

道具立ても向こうから提案してきた。音楽の切り出しにはffmpeg、ボーカル抽出にはDemucs。
どちらも聞いたことがなかったので、安全なものかを自分で確認したうえで導入した。AIの提案だからといって、そのまま鵜呑みにはしなかった。
かかった時間は、Antigravity自体のインストールも含めて半日ほど。ボーカル抽出のツールは、続けて数時間で形になった。プログラムなんてもう作れないと思っていた自分が、1日かからずに2つの道具を手に入れたことになる。
PATHエラーと、「再起動していい?」
作業の途中、Pythonまわりでエラーが出た。パスが通っていない、というやつだ。仕事でこういう画面は見てきたので、「PATHが通っていないのかもなぁ」というくらいの見当はついた。
こういうときは再起動すると直ることがある。そう思って、ぼくのほうから「PCを再起動しようか?」と持ちかけた。すると、Antigravityから「お願いします」のような返事が返ってきた。
会話のログが残っていなくて一字一句は再現できないのだけれど、そういうニュアンスだったのは間違いない。
そのまま、パソコンを再起動した。
再び立ち上がってきたとき、プログラムは出来上がっていた。
このとき、変な感覚があった。パソコンは間違いなく自分のものだ。それなのに、実際に作業をしているのは向こうだから、再起動するのにいちいち断りを入れている。
持ち主のはずの自分が、作業中の同僚に「ちょっと休憩していい?」と声をかけるみたいな気分になっていた。
もちろん、出来上がったものをそのまま信じて使ったわけではない。自分の手で動かして、音楽が指定どおりに切れるか、ボーカルだけがきれいに抽出できるかを確かめた。
驚いたのは「出来上がっていたこと」であって、「確かめずに使えたこと」ではない。
まず自分で試してから使う。そこだけは崩さなかった。
相談する側から、作らせる側へ
こうして手に入れた2つのツールは、そのあとのMV制作でずっと活躍することになった。
音楽の切り出しもボーカルの抽出も、思ったとおりの精度でできるようになった。なにより、イメージ通りのカットが作れるようになった。
ここまでが、2026年3月ごろの話だ。AIをちゃんと触りはじめてから、まだ数か月も経っていない頃だった。
無料のGeminiすらまともに使えなかった人間が、自分専用の道具をAIに作ってもらうところまで来ていた。
Gemに相談していたときは、答えをもらったあと動くのはいつも自分だった。でもこのときは違った。指示を出したあと、手を動かしていたのはAntigravityのほうだった。
「相談する」から「作らせる」へ。そのくらいの変化を、自分の中に感じた体験だった。
ぼくが最初にAIに作ってほしかったのは、音楽を切るだけの、ものすごく地味な道具でした。
あなたが今いちばんほしい道具は、なんですか?
よかったら、コメントで教えてください。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
この連載は、AIをまったく使えなかったところから始まっています。
最初の一歩はここです。
▽第1話:AIの使い道がわからない人へ
https://note.com/noted_rascal/n/n7e593ea898fb
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