手放した夢を、もう一度。書籍化&コミカライズを叶えた『血道』までの19年――森きいこさん
一度は小説家になる夢を手放したものの、再び「書くこと」と向き合い、創作大賞2024で新潮文庫nex賞を受賞した森きいこさん。新潮文庫nexより刊行された受賞作『血道』はコミカライズも決定し、注目を集めています。
地元の風習や実体験、大学時代に魅了された民俗学など、ご自身の中に蓄積されたエッセンスを注いで書き上げたという森さん。そんな森さんの執筆の原点から、受賞後の変化までをじっくり語っていただきました。
担当編集の佐々木さん、張さんにも「編集者の視点」から対談に加わっていただいています。
社会に出て一度は諦めた。それでも書きたいと思った
――まずは、森さんの「創作の原点」を教えてください。小説を書きはじめたのは、いつからだったのでしょうか?
森きいこさん(以下、森) 初めて小説を書いて公募に投稿したのは、高校生のころ。大学生になって初めて選考に通り、20代では最終選考に残るまでになったものの、結局デビューには至りませんでした。20代では仕事をしながら書いていたこともあり、一度は執筆をやめてしまったんです。「もう選考にも残れないし、諦めよう」って。
――そうだったんですね。なぜ執筆を再開したのでしょうか?
森 専門職として東京でバリバリと仕事をし管理職になったのですが、ふと思ったんです。「東京にきて、私、なにをやっているんだろう?」と。それで仕事をやめて、自宅近くの制作会社に飛び込みました。
そこは、シナリオライターのインターンを受け入れている会社でした。「私、いま29歳ですけど、やる気はあります!やらせてください!」と宣言して、フリーランスで7年ほどシナリオを書いていました。
そうやってまた書きはじめたら、周りの影響もあってもう一度小説を書こうと思うようになって。「森きいことして書籍を出したい」という気持ちが、ふつふつと戻ってきました。
――そこから受賞作「血道」の誕生につながっていくわけですね?
森 はい。「ホラー小説が流行ってるみたいだし、書いてみたらどう?」と周囲からいわれて書いたのが「血道」です。
暴力をテーマにしたかったので、しっかりと腰を据えて書くならばホラー小説はあっているのではないかと思いました。
創作大賞に入選した先輩の背中を追いかけて
――創作大賞を知ったきっかけを教えてください。
森 所属している株式会社ツクリゴトの栗原ちひろ先生が、創作大賞2023で入選したことがきっかけでした。創作大賞には知っているプロの作家さんも何人か参加していて、自由に書いている様子を見て「お祭りみたいでたのしそう」と感じたんです。
「私も、一緒にお祭りに参加したい!」という気持ちで応募要項を見ていたら、栗原先生から「ホラー部門もできたみたいだよ」といわれて。
それで「投稿できる!」と思い、書きためていた「血道」を締切の数日前に応募しました。
――その「血道」でついに創作大賞を受賞されました。小説を書きはじめてから受賞まで19年間、書き続けられた理由はなんでしょう?
森 書くことが好きだったから、です。「プロになったら、半年に1本は長編を書かなければ」と思っていたので、20代のころは仕事と両立しながらでも「半年に1本は10万字の新作を絶対に書く」と続けていました。書くことは仕事のストレス発散にもなっていましたね。
公募に落ちてしまっても書き続けられていたのは、ある意味、落選作品に深い思い入れがないタイプだからかもしれません。落選作品を改稿して受賞につながるなら、もうとっくの昔に受賞していたはず。それよりも、新作をどんどん書いたほうが可能性が広がると思っていました。
――スランプで書けなくなるときもあると思います。その場合、どうやってモチベーションを上げますか?
森 私、基本的にモチベーションが下がるタイプではないんです。でも、もちろんスランプになるときはあって、なにも思い浮かばないときは、短くてもいいから好きな題材をとにかく書いて、壁をぶち抜きます。
あるいは、書いているジャンルからあえて遠いものや好きなものを徹底的にインプットしますね。恋愛ものを書いているなら、全然関係のないノンフィクションで「この文章きれいだな」と思うものを読んだり、映画を観たり。そうやって自分のなかに言葉をためて、壁を壊す。脳筋なんです(笑)。
とくに演劇を観に行くと、一番刺激を受けて帰ってきます。1〜2時間のなかに人の一生を詰め込んで、喜怒哀楽も喪失も全部そこにある――よく考えたらありえない時間ですよね。命をかけて舞台をつくるひとたちの熱を肌で感じると、自分もすごく興奮する。演劇は「直接作品に活かす」というよりは、「私もおもしろいものをつくろう!」と刺激を受ける感覚ですね。
「本当にいい本」を目指して。推敲のプロセスと編集者との二人三脚
――執筆後の推敲はどのように進めていますか?具体的なプロセスを教えてください。
森 書き切ったあとは2〜3日、できれば1週間ほど寝かせます。それから印刷した縦書きの原稿に赤入れをして反映し、次は横書きにして見直していきます。さらにまた縦書きに直して音読して……と、目線を変えながら読みます。この方法は、シナリオの仕事をするなかで身につけたものですね。担当していたシナリオは長編作品が多かったので、創作をするうえで欠かせない構成の勉強にもなりました。
一番手厳しい意見をくれる家族に読んでもらうこともあります。私はストレートな意見を聞いてもあまりダメージを受けず、ふむふむと受け止めるタイプ。荒削りな文章を見てもらってありがたいという気持ちで、赤入れに反映しています。
――受賞後の書籍化に向けては、どのように改稿を進めていったのですか?
佐々木さん(担当編集・以下、佐々木) 正直、ものすごくギモン出しをしました。それでも森さんは笑っていましたね。
森 「すごい、こんなに丁寧に読んでくれるんだ」と思いましたよ(笑)。どちらかというとありがたいくらいで、私としてはたのしかったです。
佐々木 「しっかり直して、いい形で書籍化したい」というのは、最初の打ち合わせ段階から伝えていました。
新人作家さんの小説を世に出すたびに、本当に厳しい現実に直面します。本が売れない時代を迎えている出版業界ですから、せめて自分の目からみてクオリティに疑問が残る本は版元として絶対に出してはならない。だってきっと読者はもっと厳しいから。デビュー作として作家さんのキャリアに残る仕事をする以上、責任があります。
だからこそ壮絶な改稿も超えてほしい気持ちがありました。結果として5回改稿を繰り返して、張にバトンタッチしました。ここまでギモン出しをしても挫けなかった森さんなら、大丈夫だろうと思っています。
森 途中で私から「大きく書き換えてもいいですか?」と提案もしたんです。「いつまで待ってもらえますか?」と聞くと、「いつまでも待ちます」といってくれて。
それで安心してガッと書き換えられました。私の判断を許してもらえる環境で、自分だけでは出せないクオリティへ引き上げてもらえたことをとても感謝しています。
佐々木 何度もギモン出しをしたうえで「こうしたいです」という言葉が森さんから出てきたときに、「あ、これは本物の才能だ」と思いました。燃えましたね(笑)
私たち編集者の想像を超えた表現を見せられたときの、アドレナリンがブシャーっと出る感じ。それが、この仕事をやっていてよかったと思う瞬間でもあります。森さんの才能、ポテンシャルを信じていたことが、答えとして出てくる感動があるんです。
張さん(以下、張)森さん自身で突破してくれたからこそ、デビュー作品がコミカライズにもつながったのだと思います。森さんの努力、そして突破力による結果です。
\\💫コミカライズ決定💫//
— 新潮文庫nex (@shinchobunkonex) May 3, 2026
5/28発売の『血道』(森きいこ/新潮文庫nex)のコミカライズが決定しました!
『メイドのベル』で話題となった、えなかあきひさん(@enaka_0221)によるコミカライズです!2027年連載開始予定!どうぞお楽しみに!
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——編集担当からの大きな愛を感じますね。小説のなかには、森さんの実体験も盛り込まれているのでしょうか?
森 そうですね。大学時代は心理学を専攻していましたが、興味をもって履修していたのは民俗学の授業でした。そこで学んだ知識がきっかけとなって、地元の風習についても調べるようになりました。
教授から「あなたの地元にはまだ昔の風習が残っている。なくなる前に調べておきなさい」といわれて採集した風習が、『血道』にも活かされています。
受賞後に芽生えた「ジャッジされる側」という感覚
——創作大賞受賞後に、ご自身のなかで変化はありましたか?
森 「怖い」という感覚が出てきましたね。「これからは私自身がジャッジされるんだ」という。
いままでのシナリオ仕事は、もちろん、その先に市場がありますが、まずはクライアントの満足が第一。求められているニーズに合わせて、会社の傘の下でつくってきたものでした。しかし、これからは矢面に立って作品に自分の名前が載ることになります。
佐々木 「怖い」と語る作家さんは多いです。その怖さに対して一緒に準備をして本をつくったのだから、編集者としては「大丈夫だ」といいたいです。
張 私たちは最高のものをつくった気持ちでいますから、自信を持って応援したい。森さんは、決して一人で戦っているわけじゃないと伝えたいですよね。
——今後の展望についても、ぜひ教えてください。
森 次回作をできるだけ早く出したいです。そのためにも、張さんにチェックしていただけるようにこっそり準備をしています。シナリオやインタビューの仕事もしているので、スケジュールを調整しながら密度の高い「小説を書く時間」を捻出するようにしているところです。
佐々木 森さんには10年先も書き続けている作家を目指してほしいです。もちろん我々もサポートします!
張 最初に『血道』を読んだ時、思わず引き込まれて最後まで一気読みしたんです。森さんは筆力が高く、人を惹きつける文章が書ける方。これからの作品が、とてもたのしみです。

——最後に、創作大賞への応募を考えている方へメッセージをお願いします。
森 応募期間中にスキ数が少なくても、PV数が伸びなくても大丈夫です。「血道」もスキ数は10もなかったと思います。創作大賞は1つの編集部・会社だけでなく、多くの方の目に触れるコンテスト。粗があっても、たのしく書くのが一番です。
私は書くことが好きで、放っておいても書いていくタイプの人間です。それでも「仕事として書く」となると、絶対に自由には書くことができないことを、シナリオで学びました。
小説を投稿するときには、そうした目を意識せず「読者をどんな気持ちにさせたいか」「読者になにを伝えたいか」に主眼を置いて、たのしむことができていました。出来上がりは粗い作品になるかもしれませんが、自分がおもしろいと思うものをぜひ生み出していってください。
*敬称略
【受賞者プロフィール】
森きいこ(もり きいこ)

シナリオライター、舞台関連ライター。各種ゲームシナリオや、ミュージカルをはじめとした取材・インタビューを行う。2024(令和6)年、『血道』で創作大賞2024(note主催)新潮文庫nex賞受賞。
note:https://note.com/kiiko_13
創作大賞2026について
あらゆるジャンルの作品を対象にした、日本最大級の創作コンテストです。各部門には、34のメディアが選考に参加。大賞受賞作品には担当者がつき、雑誌・メディアへの掲載や、書籍化、連載化、映像化などを目指します。2026年7月8日(水)まで、noteもしくはTALESでエントリーが可能です。くわしくは、下記のスケジュールや特設サイトをご覧ください。
創作大賞のスケジュール

応募受付期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月8日(水) 23:59
読者応援期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月31日(金)23:59
中間発表:2026年9月上旬
最終結果発表 & 授賞式:2026年11月上旬
text by 林美夢
