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「このネタで書けるひとは、私以外いない」。節約術×星野リゾート全制覇で念願の書籍化を実現――OLのミカ。さん

会社員として働きながら、総合リゾートブランド「星野リゾート」での体験をnoteに記録し続けたOLのミカ。さん(以下、ミカさん)。

創作大賞2025に応募したエッセイ「約4年間の超節約生活で〝星野リゾート全制覇〟に300万使ったOLの極論。」が朝日新聞出版賞を受賞、宿泊記録は改稿を経て、書籍『超節約生活で星野リゾート全制覇に400万使ったOLの極論』として6月19日に朝日新聞出版から発売されました。

ミカさんは2024年に初めて創作大賞へ応募したものの受賞には届かず、翌2025年に作品をつくり直して受賞を果たしました。

自分だけのエッセイの切り口を発見するまでのプロセスや、原稿を書き直すときの苦労などの舞台裏を、朝日新聞出版担当編集者の吹上 さくらさん、四本倫子さんにも同席いただきうかがいました。


「節約×失恋」――自分だけの切り口を見つけるまで

――まず、星野リゾートの宿泊記録をnoteに書きはじめたきっかけを教えてください。

OLのミカ。さん(以下、ミカ) 失恋がきっかけで2021年の11月に「星野リゾートを全制覇しよう」と決めて、せっかくなら1施設ごとに全部の話をnoteに書き残していきたいと思いはじめました。いつかこのnoteの記事をきっかけに本を出版できたらいいな、という夢のまた夢みたいな目標を掲げていたんです。

「noteから本になりました」みたいな事例がメディアで取り上げられているのを見ていたので、会社員が自分の文章を書籍化するとしたら、そのルートが一番イメージしやすくて。当初は、書き続けていたら出版社の方が見つけてくれて声をかけてくれるのかな、と期待しながら投稿していました。

――創作大賞を知ったのはいつですか?

ミカ 創作大賞2023で受賞した伊藤亜和さんのエッセイ「パパと私」をSNSのX(旧Twitter)で見かけて、「そういう賞があるんだ」と知りました。創作大賞でメディア賞(※2026年より「大賞」)を取れば書籍が出せる可能性がある、という仕組みを見て「これじゃん」と。

そこで2024年に初めて応募してみました。

――初めて応募した2024年を経て、受賞を果たした翌2025年の作品では、どのような工夫をしたのでしょうか?

ミカ 2024年の応募作は、いわゆる「エッセイらしさ」にとらわれすぎていたと思います。伊藤亜和さんの作品が自分の人生みたいなところを書いていたので、「エッセイってこういう感じなのかな」と思いながら、自分のなかで思い描いた「エッセイっぽいエッセイ」を書こうとしすぎていました。

中間審査は通ったんですが受賞できなくて。これじゃダメだなと思っていたときに、note経由でテレビ取材のお話をいただきました。

すると、「節約して星野リゾートを全制覇しています」と話した回と、「リゾートマニアのおすすめ」として話した回では、SNSのフォロー数やnoteのアクセスがまったく違ったんです。前者の回のほうが大きく伸びました。節約の話があるかないかで反響が全然違う。「節約」がこの話のキーなんだ、と確信しました。

玄米ごはん
節約のために食事を工夫。写真は玄米ご飯/撮影:OLのミカ。

ミカ また、出演したテレビのテロップ構成や紹介される順番を全部書き起こして、どんな構成のエッセイにするかを研究しました。 

たとえば、テレビ番組によって、失恋の話を最後のオチとして使う回と、起承転結の「転」のように真ん中に入れる回があって、それによって番組の印象がだいぶ変わるんです。エッセイにするなら、失恋の話は冒頭のフックに配置しようと決めました。ただし、タイトルでは失恋をあえて匂わせないようにしました。

通勤電車のなかで文章の推敲をする日々

――実際の執筆作業はどのように進めたのでしょうか?

ミカ 全体の構成が決まってからは早かったです。節約の話ではなにが書けるかをワーッと出して目次をつくり、そこを埋めていく感じでしたね。仕事のお昼休みに全体の8割を書きました。

当時は会社まで通勤電車で片道1時間ほどかかっていたので、1回原稿をかたちにしてからは、朝起きてすぐや帰りの電車で、スマホでずっと読み直していました。2週間くらいかけて、もうこれ以上できることはないと思えるくらい推敲しましたね。

9,900字くらいまで文字数が膨らんだのですが、星野リゾートの話は写真で表現できる部分もあるので、写真に任せれば文章を削れると考えて調整しました。

――AIは活用されましたか?

ミカ 「リズム感は絶対いじらずに、誤字脱字だけ指摘してください」というような使い方をしていました。私は句読点の位置を考えるのがすごく苦手なので、「句点の位置をいい感じに直して」みたいな使い方もしていましたね。

――2025年の応募作品には、手応えはありましたか?また、受賞の連絡が届いたときは、どんな気持ちでしたか?

ミカ 2025年で賞をとれなかったら、このネタでは受賞は無理だなと思っていました。同じネタで書けるひとは絶対ほかにはいないという確信はあったので、そこに全部賭けた、という感覚でしたね。

日記を見返したらおそろしいことに、8月の段階で「恵比寿の有隣堂でコーナーをつくってほしい」と受賞前提のことが書いてあって――振り返ってみると、私、自信があったんだなって思いました(笑)。

じつは「星野リゾート全施設達成まで残り3施設分の予約を終わらせる→7月に応募する→10月に受賞」と綿密に計算はしていたんです。なぜか10月中旬に連絡が来ると思い込んでいて、余裕をかましながら日常を送っていました。そうしたら10月初旬に連絡が来て(笑)。

本当に思い描いていたスケジュールのとおりになって、こんなにうまくいくことがあるんだって、自分でも驚きました。

また、「朝日新聞出版さんってエッセイ本も出してたのか」みたいな感覚もありました。新聞社系列の出版社からこの本が出るというのもびっくりでしたね。

エッセイで賞をもらったけれど、エッセイを書いたことがない!?

――受賞後の書籍化は、順調だったのでしょうか?

ミカ 「noteに書き溜めたものがあるから、ちょっと手直ししたら本になるかな」と思ったら、全然そうじゃなくて……。写真を抜いたら中身がスカスカに見えてしまう記事がけっこうあったんです。

もともと「次に星野リゾートに行くひとのために親切に書こう」と思って書いていたので、それぞれの施設の話は旅行情報としては問題がないのですが、そこに私の暮らしとか人生とか考えていることなどは、あえて入れていなかったんですね。

それまでは、まず写真があり、それに対して文章をのせていく書き方でした。つまり「文章だけで表現する」ことをしたことがなかったんです。そのときは本当に「創作大賞のエッセイ部門で賞をもらってしまったけれど、私、エッセイを書いたことがない」と落ち込みました。

――それをエッセイとして書き直す作業は、どのくらい大変でしたか?

ミカ 宿泊した施設すべてについて、当時の出来事や気持ちを掘り起こしながら書き直す必要がありました。2024年だけで29施設に行っているので、会社のカレンダーを見たり、日記を探ったり、予約メールを確認したりしながら施設ごとのエピソードを思い出す作業が延々と続きましたね。

しかも、書いているあいだにも星野リゾートの新施設は増え続けるので、過去のエピソードを掘り起こしながら、新しく行ったホテルの感想もまとめる、という状況で。「ギリギリまで新しい話も入れたい」と言ったのは自分なんですけれど、ほんと、修行でした(笑)。

11月くらいに、過去の出来事を思い返してエッセイにするのは無理かもしれないと壁にぶちあたって……。「やっぱり旅行ガイドにしてもいいですか」と、けっこう本気で編集者の方に言いました。

――編集者のお二人から見て、ミカさんの作品の魅力はどこにあると思いますか?

四本さん(以下、四本) 最初にいただいた原稿を読んだとき、受賞作にあった勢いと素直さといった「ミカさんの良さ」が出ていなかったんです。「本にするための文章」を書こうとして、ちょっと背伸びをしているような感じがして。それがもったいない、と思いました。

私たちが受賞作を読んですごくおもしろいと感じたのは、自虐的なんだけれど暗くなくて、読んだひとが前向きになれるような明るさと素直さがあったから。そこで、いただいた原稿に書かれているエピソードの背景をお尋ねしながら「30代の女性の生き方をどう表現するか」「友だちとの関係性を書いていくと、どんな話が見えてくるか」といった問いかけをメールでお送りしました。

ミカ その問いかけにひとつずつ答えを書いていったら、「こういうことを書けばいいのか」という感覚がわかってきて。

それが年末年始ごろ。そこから10日間ほど家を出ずに朝起きては書くという生活をしました。年末年始の休みがなかったら、この原稿は書けなかったと思います。 

吹上さん(以下、吹上) 最初に受賞作を読んだとき、星野リゾートってすごく高級なイメージがあるけれど、ミカさんの節約の話のおかげで自分も行けそうな感じがしたんです。日々のことが細かいところまでリアルに、飾らない言葉で書かれていて、ミカさん自身にもとても親近感が湧きました。

四本 エッセイって自分のことをどれくらいの距離感で描くか、俯瞰ができるかがとても大事なんです。ミカさんの場合はユーモアを持って自虐的に書ける資質が光っていました。星野リゾートというハイソなイメージのある世界を、節約という要素だけでなく、書き方自体でも読者に引き寄せてくださっていて。もともとミカさんが持っていた魅力がそのまま出るかたちで本にできたことが、とてもよかったと思っています。

原稿
制作途中の原稿/撮影:朝日新聞出版 写真映像部・山本二葉

自分にしか書けないものを、出してほしい

――書籍刊行が決まってからの心境はいかがでしたか?

ミカ すごく頻繁に本屋さんに行くようになりました。いままで読んでいたエッセイ作家さんたちの本が並んでいる棚に自分の本も並ぶんだなと思いながら。読んでもらえることが、すごくたのしみであり、不思議な気持ちです。

――次に書きたいものはもうありますか?

ミカ 次は星野リゾートに頼らない「日常のエッセイ」を書きたいと思っています。いまも文章として書き溜めていて、家族の日常の出来事をエッセイにしていけたらいいなと。

書いているときは、大変すぎてもうこれが最後だと思っていたんですが、終わってみたら意外と、もうちょっと書きたいなとか、こういうことも書けるんじゃないかなとか、いろいろ思っている自分に驚いています。2026年11月の文学フリマ東京にも初挑戦しようと、本を作っています。貪欲ですよね。

――最後に、創作大賞に挑戦する方へメッセージをお願いします。

ミカ エッセイにはいろいろかたちがあると思うので自由に書いてほしいのと、やっぱり、自分にしか書けないことを大事にしてほしいということを一番伝えたいです。切り口、ネタ、書き方、どれをとっても「この私にしか書けない」というものを見出すことが、受賞につながるんじゃないかと感じています。

四本 ミカさんは創作大賞で受賞したエッセイ以外でも旅レポートを多く書かれていて、それを読んだときに「本を書く筆力があるひとだな」と感じていました。

創作大賞では、ご自身は本来ある魅力に気がついていなくても、編集者として伴走しながら魅力を引き出していきたい、と思わせる方に出会いたいと思っています。そのひとにしか書けないトーンの文章を持っているかどうか。同じ体験をしていても、視点や距離感が違うとまったく違う原稿になりますから。

吹上 本をつくっていくなかでも、ミカさんはおもしろい書き方をするけれど「嘘はつきたくないんだな」というのがすごく伝わってきました。すべてが本当のことだから、読んでいる側にも身近に感じて刺さるところがある。これから応募される方にも、それぞれの良さをどんどん出してもらえるといいなと思います。

――ありがとうございました。

(敬称略)

【受賞者プロフィール】
OLのミカ。

OLのミカ。さん

会社員として働きながら、2021年から星野リゾートの節約旅をnoteに記録し続けた。2025年のnote創作大賞エッセイ部門・朝日新聞出版賞受賞。書籍『超節約生活で星野リゾート全制覇に400万使ったOLの極論』(朝日新聞出版)が2026年6月19日に発売。

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創作大賞2026について

あらゆるジャンルの作品を対象にした、日本最大級の創作コンテストです。各部門には、34のメディアが選考に参加。大賞受賞作品には担当者がつき、雑誌・メディアへの掲載や、書籍化、連載化、映像化などを目指します。2026年7月8日(水)まで、noteもしくはTALESでエントリーが可能です。くわしくは、下記のスケジュールや特設サイトをご覧ください。

創作大賞のスケジュール

創作大賞スケジュール
  • 応募受付期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月8日(水) 23:59

  • 読者応援期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月31日(金)23:59

  • 中間発表:2026年9月上旬

  • 最終結果発表 & 授賞式:2026年11月上旬

text by 本多いずみ