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PDPが教えてくれたことーそして、まだ足りなかったこと

この記事は、冊子『AI時代の「学習する看護組織」〜おしゃべりがマネジメントを変える〜』(2026年5月発行)の内容を投稿記事の形にしたものです。


1. 語ることに集中できる仕組み

PDPは、当事者が抱える「困りごと」を、支援者との対話を通じて整理し、実現可能な行動計画に落とし込むためのフレームワークです。看護過程によく似た構造で、聴き手が語りを引き出し、問題を整理していく仕掛けになっ
ています。

PDPの場には一つのルールがあります。それは「語る人はペンを持たないこと」です。

付箋に書き出すのも、構造を整理するのも、すべて聴き手の仕事です。当事者に求められるのは、聴かれたことに一生懸命答えること。それだけです。何かを整理して伝えようとしなくていい。分かりやすく話そうとしなくていい。聴かれたことに、自分の言葉で、心のままに答えればいいのです。

このルールのもとで、当事者は語ることに集中できるようになります。「ちゃんと整理しなきゃ」「解決策まで出さなきゃ」というプレッシャーから解放されるからです。研修を受けた方々からは、こんな声をいただきました。

「自分が困っていることを、同じ立場の仲間が関心を持って聴いてくれた。それだけで気持ちが楽になった」

「一人で抱え込まなきゃいけないと思っていたが、話してみたら、自分でも気づいていなかった困りごとが出てきた」

「『看護師長なのだから』と責任を果たそうと、一人で問題を解決することに注目していたが、誰かに頼り相談することでより良い解決策が見つかることを、PDPを通して実感した」

PDPには、問題解決の手法としての価値だけではなく、「安心して語れる場」をつくる効果もあったのだと思います。

2. PDPは二つの役割を外部化していた

PDPのワークで起きていることの本質を、二つの角度から説明させてください。

一つ目は、「文脈の保持の外部化」です。PDPでは、フレームワークと聴き手が会話の文脈を追い続けてくれます。だから語り手は、自分の話の一貫性や論理性を気にする必要がありません。
「これ関係あるかわからないけど」と前置きしながら話したことが、実は問題の核心だった——ということがよく起こります。関係あるかどうかの判断は聴き手がしてくれるので、語り手は思いついた順に、散らかったままで話せるのです。

二つ目は、「組み立て責任の外部化」です。マネジメントの仕事には、「現場を観察し、感じ、語る」という部分と、それを「課題として構造化し、計画に組み立てる」という部分があります。この二つはまったく違う種類の認知作業です。前者は、現場の文脈の中に身を置く仕事。後者は、その文脈からいったん離れてメタな視点で整理する仕事。第1章で述べた認知負荷の問題は、まさにこの両方を同時にやらなければならないことによるものでした。

PDPでは、「構造化し、組み立てる」を聴き手に預けることで、語り手を「見る、感じる、語る」に集中させました。すると、生きた言葉がどんどん出てくるようになった。目標管理シートの前でうまく言葉が出ないのは、管理者に能力が足りないからではなく、役割を背負わせすぎているのだと、PDPは教えてくれたのです。

PDPは「一人でやるもの」ではありません。興味を持って聴いてくれる人がいて、導いてくれるフレームワークがあって、はじめて機能する仕組みです。当事者は、「おしゃべり」をすればいい。ただし、「おしゃべり」を受け止めて構造化してくれる他者の存在が不可欠なのです。


3. MCチャートの手応えと、残された課題

PDPの開発の後、私たちはMCチャートを設計しました。MCチャートは、看護管理をチームで行うためのプラットフォームです。部署の課題を「目標」と「問題」に分け、「外発」と「自発」の軸で4象限に可視化する。そして師長・主任・スタッフがそれを囲んで対話する。その思想は、今もまったく色あせていないと思っています。

実際に多くの現場で、MCチャートを囲むことで師長と副師長の対話が増えたという手応えがありました。MCチャートに記載した目標をロードマップを使って分析し、「この階段を上ればゴールに着ける」という見通しを持てた時の安心感。問題をPDPで細分化して、「す(すぐにできる)・じ(自分でできる)・こ(効果が見込める)」の三条件が揃った解決策を見つけた時の手応え。「一歩進んだら新たな景色が見える。最初から全貌が見えなくてもいい」という考え方に救われたという声もいただきました。

しかし、MCチャートには、PDPが実現していた「文脈の保持の外部化」と「組み立て責任の外部化」が不足していました。

前述のようにPDPには、「聴き手が文脈を保持し、組み立てを引き受けてくれる」という仕組みが含まれています。しかしMCチャートの作成やロードマップのワークには、その支援の仕組みが含まれていませんでした。
「チームで話し合いましょう」という思想はあっても、結局は自分たちで構造化し、自分たちで計画に落とし込まなければならなかったのです。

研修の場であれば、経験豊富なファシリテーターがその場で支援できます。しかし日常の業務の中では、文脈を保持してくれる人も、組み立てを手伝ってくれる人もいない。ここに、MCチャートの構造的な限界があったと考えています。

この限界をどう乗り越えるか。それが、第3章の話につながっていきます。

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MCチャートでよくあるつまずきと三つの問いかけ

MCチャートやロードマップの作成において、管理者が繰り返しつまずくパターンは、大きく三つに集約されます。

第一に、目標が広すぎる状態から抜け出せないこと。例えば「患者・家族・看護職・多職種間で価値観を共有し、患者家族を尊重した意思決定支援ができる」といった一言では表せないような複雑な目標が出てくる場合、本当にやりたいことは何なのか、自分でもわからなくなってしまっていることが多いです。

第二に、ギャップ分析で「全部」を書き出してしまうこと。現状とゼロの間を分析してしまうと、本当は多くのことが既にできているのに、膨大な課題が洗い出されてしまいます。

第三に、一度立てた計画を変えることへの心理的抵抗があること。「最初に立てた目標を変えていいんですか?」という問いは、研修のたびに出てきます。看護計画なら状況が変わったら修正するのが当然なのに、管理の計画になると「変えてはいけない」と感じてしまう人が多いようです。

この三つは連動しています。目標が広いからギャップも広くなり、ギャップが広いからステップが膨大になり、ステップが多いから途中で現実と乖離し、でも変えられないから形骸化する——という悪循環です。
私は研修の場で、この悪循環を断ち切るための三つの問いかけを使ってきました。

「それ、小学生に説明できますか?」
——目標が広すぎる時に、平易な一文に言い換えてもらうための問いです。

「誰を、どこからどこまで連れていきますか?」
——ギャップ分析の範囲を絞るための問いです。既にできていることは考えず、「このスタッフはここまではできている。ここから先ができていない」という、境界線を見つけることに集中します。

「看護計画なら、変えないスタッフがいたら注意しますよね?」
——計画を変えることへの心理的抵抗を解くための問いです。看護計画と同じと思えば、状況が変わったら修正するのが当然です。最初の四半期分だけ計画を立てて、やりながら追加・修正していけばいいのです。

これらの問いかけは、おしゃべりの場でも、AIとのやりとりの中でも活用できるものです。