おしゃべりから始まる、これからの看護管理
この記事は、冊子『AI時代の「学習する看護組織」〜おしゃべりがマネジメントを変える〜』(2026年5月発行)の内容を投稿記事の形にしたものです。
繰り返しになりますが、人をケアする仕事は、長い間、非公式な場の力に支えられてきました。休憩室で愚痴を言い合い、廊下で立ち話をし、「わかるわかる」と励まし合いながら、なんとか持続させてきたものです。
ドナルド・ショーンという研究者は、専門職の知のあり方を二つに分けました。一つは「技術的合理性」です。体系化された理論や分析手法を習得し、それを用いて問題を解決する。医師や弁護士、会計士のように、確立された知の体系に基づいて専門性を発揮するあり方です。
もう一つは「反省的実践」です。不確実な状況の中で、自分の経験や直感を頼りに判断し、実践し、振り返り、修正していく。理論通りにいかない現場で、「こうしてみたらどうだろう」「前はこうだったから今回はこうしよう」と試行錯誤を重ねながら専門性を磨いていくあり方です。
経営においては「技術的合理性」が重視されてきました。データを分析し、論理を組み立て、計画を立てて管理する。一方、看護管理の現場で日々行われてきたことは、「反省的実践」ではなかったでしょうか。共感し、対話し、文脈を共有し、お互いの判断を尊重しながら、不確実な現場に適応し続けてきた。そのやり方は、決して「劣った」マネジメントではなかったと思います。
ただ、反省的実践には一つ弱点がありました。そこで生まれる知恵が、個人の中に留まりやすいということです。語ったことが計画として整理されず、組織として共有しにくい。だからこそ、技術的合理性の世界のやり方が「ちゃんとしたマネジメント」として、優位に立ってきた面があったのではないでしょうか。
今、テクノロジーが追いつきました。語ったことが記録され、構造化され、計画になる。反省的実践の中で生まれる豊かな知恵を、組織として共有できる形に変換する道具が手に入ったのです。しかもその成果は、数値や計画を求める上層部にも伝わる形で提示できる。おしゃべりが、マネジメントになる時代がやってきました。
皆さんが持っている、見る力、聴く力、感じる力は、本物の管理能力です。だからこそ、その力を信じてほしいと思います。組み立ては、AIが手伝います。
この冊子では、主に計画づくりの段階で「おしゃべり」とAIがどう協働できるかをお伝えしました。しかし、おしゃべりの力が活きるのは、計画づくりだけではありません。実行しながら気づいたことを仲間と語り、その記録をAIに渡して、振り返りを支援してもらう。その結果を見て、自分たちのやり方を率直に問い直す。そうした形で、マネジメントのサイクル全体をAIと伴走しながら回していくことも、いずれ自然に視野に入ってくるはずです。大事なことは、どの段階でも変わりません。おしゃべりすること、そしてそれを残しておくことです。
そして、この新しいやり方を組織の中でリードしていける人材が、これから必要になると考えています。おしゃべりの場をつくり、対話を促し、AIを活用しながらチームのマネジメントを支えていく人たちです。そうした人材に求められる力や育て方について、私たちもまだ試行錯誤の途上にあります。この冊子を出発点に、今後さらに具体的な形にしてお届けしていくつもりです。
もし、この冊子を読んで「ちょっと試してみようかな」と思ってくださったなら、まず小さく始めてみてください。同僚と30分おしゃべりして、AIに渡してみる。それだけで構いません。
私たちのWEBサイトに、AIにおしゃべりを渡す仕組みを用意する予定ですので、ぜひ気軽に訪れてください。その他の最新情報も、随時WEBサイトでお伝えしていきます。
なお、この冊子自体が「おしゃべりからつくったもの」です。チームで何度も対話を重ね、その記録をAIに渡し、構造化し、また対話して修正する。そのサイクルの中から生まれました。ここに書かれていることは、私たちが自分たちで実践していることでもあります。
もちろん、ここに書いたことのすべてが、現時点で完成した形で実現できているわけではありません。技術は日々進化していますし、私たちが今見ている景色も、1年後にはまた変わっているかもしれません。だからこそ、先に方向を示しておきたいと思いました。この冊子は「これからの看護管理はこちらに向かうべきだと考えている」という私たちの意思表明です。
