育成に関わる全てのマネージャーのための仕事のOS理論
はじめに - 育成の壁を越えるために
若手育成に携わる中で、多くのマネージャーが同じ疑問に直面する。同じように教えているのに、なぜ成長する人としない人がいるのか。丁寧に説明しても理解度に差が出るのはなぜか。真面目で素直なのに伸び悩む人がいるのはなぜか。
現場では、こうした差を「能力」や「センス」の問題として片付けがちだ。しかし本当にそうなのだろうか。本記事では、この問いを根本から問い直したい。
私は現場で若手と向き合う中で、ある確信を持つようになった。育たない理由の多くは、能力不足ではなく、仕事の捉え方の前提が入っていないことにある。
この前提を、本記事では「仕事のOS」と呼ぶ。パソコンの基本ソフトと同様、どれだけ優れたアプリケーション(スキル)を持っていても、OSが不安定なら機能しない。
本記事が扱うのは、このOSをいかに見立て、いかに育てるかという問いである。
第1章 なぜ若手は育たないのか
現象の裏にある構造
ある会議で、若手メンバーが準備した資料を見て強い違和感を覚えた。本人なりに情報を集め、関係者に確認し、抜け漏れのないよう配慮した形跡がある。真面目に取り組んだことは明らかだ。
しかし、聞いているうちに疑問が積み重なる。この資料は何のためのものか。誰の判断を助けるのか。何を決める場なのか。なぜその順番で説明するのか。
問いを返すと見えてきたのは、本人が仕事を「情報を集めて並べる作業」として捉えていることだった。資料とは何か、会議とは何か、報告とは何か。こうした前提が入っていないまま、真面目さだけで頑張っていた。
能力論の危険性
「最近の若手は受け身だ」「考える力が弱い」「主体性がない」——こうした言葉は現場でよく聞かれる。たしかに個人差はある。しかし、その判断は早すぎないか。
能力のせいにした瞬間、マネージャーは考えることをやめられる。これは育成の放棄でもある。
本当に見るべきなのは、
何が分かっていないのか
何を前提として持っていないのか
何を教えたつもりで、何が伝わっていないのか
こうした問いを飛ばして能力論に逃げるのは、あまりに早い。
「育たない」ではなく「何が入っていないか」を見る
若手が会議で話が長い時、「話すのが下手」と片付けるのは簡単だ。しかし構造を見ると、本人の中で論点が整理されていない、相手が何を知りたいかより自分が話したいことを優先している、といった別の問題が見える。
指示された仕事はやるが条件が変わると止まる若手も、「応用力がない」のではなく、目的や判断基準を持っていないだけかもしれない。
育成の打ち手は、ここで変わる。
話が長い人には→「相手は何を知りたいのか」を一緒に整理する
条件変化に弱い人には→「この仕事の目的は何か」を渡す
つまり、若手育成とは足りていないOSを見つけ、インストールしていくことなのだ。
真面目な若手ほど止まることがある
真面目な若手は、言われたことをきちんとやる。しかし「正しくやること」に意識が向きすぎると、「何のためにやるのか」まで届かない。
真面目さは強みだが、OSが入っていないと「言われたことをきちんとこなす人」で止まる。必要なのは、もっと頑張らせることではなく、努力の向け先を変えることだ。
「主体性がない」の誤解
「主体性がない」とよく言われる若手も、実は主体性の出し方を知らないだけかもしれない。
主体性とは勝手に動くことではない。目的に対して自分の頭で考え、仮説を持ち、必要な行動を取ることだ。
この定義が入っていない若手は、「勝手に動いたら怒られるかもしれない」と考え、確認ばかり増える。
必要なのは、
どこまで自分で判断してよいか
どのタイミングで相談すべきか
提案とは何を持ってくることか
こうした具体を渡すことだ。
育成とは現象を翻訳する仕事
若手育成で起きる多くのことは、表面の現象だけ見ていると間違える。
話が長い→座標共有のOSがない
指示待ち→判断基準が渡っていない
浅い理解→構造で受け取る習慣がない
同じミスの繰り返し→転用が起きていない
こうした翻訳ができると、初めて育成が具体になる。
第2章 スキルの前にOSがある
同じことを教えても差が出る理由
同じ資料を読み、同じ説明を受け、同じフィードバックをもらっても、伸びる人と止まる人がいる。
この差は理解力や地頭だけでは説明できない。受け取り方の土台が違うからだ。
ある人は指摘を「今回の修正点」として受け取り、別の人は「仕事の進め方そのものを見直せということ」と受け取る。同じ言葉でも、OSが違えば別物になる。
仕事のOSとは何か
本記事が定義する仕事のOSとは、次のようなものの集合だ。
仕事には正解がないという前提
仮説を置いて進める姿勢
言われたことをそのままやるだけでは足りないという理解
相手の期待値を読む感覚
目的から仕事を見る視点
分からないことを分解する習慣
フィードバックを転用する癖
会話や会議の「何のためか」を考える姿勢
前提を疑い、構造で捉える視点
これらは派手ではないが、実務では極めて大きな差を生む。
OSが入っていない若手に起きること
OSが弱い若手には、特徴的な現象が起きる。
指示待ちになる
曖昧な状況で止まる。少し条件が変わると相談ばかり増える。仮説を置いてよいという前提がないためだ。
フィードバックが積み上がらない
その場では直すが次に活きない。構造として受け取っていないため、学習が点で止まる。
会話が長く論点がずれる
相手と座標を共有するOSが弱い。自分が知っていることを全部伝えようとする。
作業はしているのに前に進まない
目的より作業を見ているため、手段が目的化する。
OSが入っている人の特徴
逆に、OSが入っている若手は何が違うのか。
仮説で動ける - 正解がなくても「たぶんこうだと思います」と置ける
背景を取りに行く - なぜこれをやるのか、誰のためなのかを取りに行く
指摘を転用できる - 一度の指摘を構造で受け取り、別の場面でも活かす
分からないを分解できる - 何が分からないのかを切り分けて持ってこられる
相手の期待値を見られる - 自分がやったかどうかより、相手の期待に合っているかを見る
これらは才能ではなく、OSとして育てられるものだ。
スキル教育だけでは限界がある
資料作成のテンプレートを渡しても、OSが入っている人は「相手が見やすいように調整しよう」と考え、入っていない人は「この枠を埋めればいい」で終わる。
スキルは大事だが、OSが弱いままだと操作説明で止まる。
育成の順番が重要だ。いきなりスキルを積むのではなく、まず仕事の前提を渡す。その上でスキルを教える。
マネージャーは「見立てる人」である
若手育成で大切なのは、教える量を増やすことより、何が足りていないかを見立てることだ。
何で止まっているのか
何が前提として入っていないのか
どのOSが未導入なのか
次に渡すべきものは何か
この見立てがズレると、どれだけ熱心に教えても空回りする。
第3章 自走する若手と止まる若手の違い
自走とは「放置しても勝手に動くこと」ではない
多くのマネージャーが「自走してほしい」と言う。しかしこの言葉は、定義が曖昧なまま使われやすい。
自走とは、目的に対して自分の頭で考え、仮説を置き、必要な行動を選び、前に進める状態である。
放置しても勝手に動くことではない。確認が多い=自走していない、とも限らない。大事なのは、確認の中身だ。
何も考えず丸投げする確認なのか、仮説を持ったうえでの確認なのか。この違いは大きい。
自走する若手の5つの特徴
① 仮説を置ける
自走する若手に最も共通するのは、これだ。正解が分からなくても「たぶんこういう理解です」と置ける。
仮説があるので、相談も具体になる。フィードバックも受け取りやすい。議論も深まる。
② 分からないを分解できる
「分かりません」で止まらない。
「目的は理解していますが、AとBのどちらを優先すべきかで迷っています」
「手順は分かりますが、この判断基準が分かっていません」
こう言える若手は、もうかなり前に進んでいる。
③ 背景を取りに行く
止まる若手は指示をそのまま受け取る。自走する若手は背景を取りに行く。
誰に見せる資料なのか
何の意思決定に使うのか
相手は何を知りたいのか
背景が取れると応用が利く。
④ 指摘を転用できる
一度言われたことを、その場だけで終わらせない。
「結論から話して」と言われた時、単に先に結論を言うだけでなく、「相手に先に座標を渡すことが大事なんだな」と理解する。だから次の場面でも変わる。
⑤ 相手の期待値を見られる
自分のタスクだけを見ていない。相手の期待値を見ている。
この報告で相手は何を求めているのか
この資料で相手は何を判断したいのか
こうした視点があると、仕事の精度が上がる。
止まる若手は怠けているのではなく「型」がない
止まる若手の多くは、怠けているわけではない。型がないのだ。
仮説をどう置けばいいか分からない
何を分解すればいいか分からない
背景をどう取りに行くのか分からない
必要なのは根性論ではなく、型を渡すことだ。
マネージャーが見るべきは「行動」ではなく「解釈」
若手が確認ばかりしてくる時、その行動だけを見れば受け身に見える。
しかし解釈を見ると、
ズレたら迷惑をかけると思っている
勝手にやるのは危険だと思っている
正解をもらうのが相談だと思っている
こうした前提が見えるかもしれない。
育成とは行動修正ではなく、解釈修正でもある。
第4章 最初に渡すべき「仕事の前提」
教える順番を間違えると育たない
多くの現場では、配属された若手にまず業務知識やツールの使い方を教える。もちろん必要だが、それだけでは育たない若手がいる。
なぜなら、もっと手前の前提が入っていないからだ。
前提① 仕事には正解がない
学生時代は基本的に正解のある世界だった。その感覚のまま仕事に入ると、「正しいやり方があるはずだ」「まず正解を理解してから動くべきだ」と思いやすい。
だが実際の仕事は違う。正解が存在しないことが多い。
この前提が入ると、若手の相談の質が変わる。「どれが正解ですか」から「現時点ではAだと思っていますが、どちらの観点を優先すべきか確認したいです」に変わる。
前提② 完璧に理解してから動こうとしなくていい
若手が止まる大きな理由の一つは、完璧に理解してから動こうとすることだ。
しかし仕事では、動きながら理解するしかない場面が多い。
必要なのは「いま分かっている範囲で仮説を置いて進める」という感覚だ。
前提③ 相談とは「思考停止の報告」ではない
相談とは本来、自分の思考を持ったうえで、ズレや不足を埋めるための行為である。
こう理解しています
ここまでは考えました
この点で迷っています
こういう形が相談に近い。
「分からないので教えてください」だけだと、判断の丸投げになりやすい。
前提④ 相手の期待値を読むのも仕事である
仕事は「自分がやったかどうか」だけではなく、「相手の期待に合っていたか」で決まる。
期待値が見えていないと、自分の中では頑張っていてもズレやすい。
相手は何を知りたいのか
相手は何を判断したいのか
この場のゴールは何か
こう考えられる。
前提⑤ 言われたことをやるだけでは仕事にならない
これは厳しく聞こえるかもしれないが、どこかで伝える必要がある。
現実の仕事は、指示そのものが不完全なことが多い。言われたことをそのまま実行するだけでは、目的からズレることがある。
必要なのは、「言われたことの意図を解釈し、目的に沿って動く」への移行だ。
前提は一度に全部入らない
仕事の前提は、一度に全部入らない。説明、経験、振り返りの往復が必要だ。
だからマネージャーは、前提を一度教えて終わりではなく、何度も違う場面で回収するものとして扱う必要がある。
第5章 構造化思考は育てられる
構造化思考とは何か
構造化思考とは、まだ整理されていない状況に、論点と関係性を与える力だ。
整った情報を筋道立ててつなぐのはロジカルシンキング。構造化思考は、そもそも何をどう整理するかを見つける力である。
「結論から話せ」の本質
「結論から話せ」とは、単に短く話せということではない。
「あなたの思考は、共有可能な座標まで整理されていますか?」という問いなのだ。
若手が結論から話せない時、話法の問題というより、構造化の不足であることが多い。
Whyの前に前提を疑う
構造化思考が弱い若手は、与えられた前提をそのまま受け取りすぎる。
この資料は本当に必要なのか
その順番で進めるのが本当に妥当なのか
その依頼の解釈は合っているのか
こうした問いを持てないと、ズレた土台の上で頑張ることになる。
構造化思考が弱いと起きること
話が長い - 論点が整理されていない
問題の切り分けができない - 全部を一塊で見てしまう
表面対応に終わる - 本質的な構造ではなく現象だけに反応する
会議で迷子になる - 何を決める場なのか分からない
指摘が積み上がらない - 単発修正で終わり、転用できない
構造化思考は才能ではなく「癖」である
たしかに素地の差はある。しかし、かなりの部分が問いの癖として育つと私は思っている。
いま何の論点かを意識する
相手が何を知りたいかを先に考える
問題を一つに見ずに分けてみる
前提を一段疑ってみる
こうした癖を繰り返すだけで、かなり変わる。
どう育てるか
① 論点を一緒に言語化する
マネージャーが無意識にやっている整理を、言語化して見せる。「思考の実況中継」である。
② 問いを一段深くする
「それって、何のための資料なの?」「相手は何を知りたいんだっけ?」こうした問いは、若手の視点を少し上げる。
③ 結論ではなく「整理の仕方」を返す
「つまりこうして」と結論だけ渡すのではなく、「まず論点を分けよう」「事実と解釈を分けよう」と整理の足場を渡す。
④ 自分の言葉で再構成させる
「いまの話、どう理解した?」「次にどう使う?」と聞く。理解の浅さが見え、学びも深まる。
第6章 1on1は思考をインストールする場である
傾聴だけでは足りない
1on1で「傾聴が大事」とよく言われる。たしかに大事だが、それだけでは若手は育たない。
若手が抱えている問題の多くは、感情の整理だけではなく、思考の整理が必要な問題だからだ。
1on1とは本来、若手の思考を整理し、仕事のOSを少しずつインストールしていく場だ。
1on1がうまくいかないのは目的が曖昧だから
1on1が形骸化する最大の理由は、目的が曖昧なことだ。
何となく近況を聞き、困りごとがあるか聞き、「何かあったらまた言ってね」で終わる。関係性づくりとしては意味があるが、育成としては弱い。
私は若手との1on1では次の3つを見ることが多い。
いま何に困っているか
それを本人がどう捉えているか
次に進むために何のOSを渡す必要があるか
本当に見るべきは「課題」ではなく「捉え方」
若手が「タスクが多くてしんどい」と言った時、本当に問題なのはタスク量かもしれない。しかし、
優先順位がつけられていない
全部を同じ重さで見ている
完璧にやろうとしている
自分で抱え込みすぎている
こうした捉え方の問題かもしれない。
課題そのものより、その課題の捉え方にOSの差が出る。
良い1on1は「問い」が違う
1on1の質は、問いの質でかなり決まる。
浅い問い:
「最近どう?」「困ってることある?」「大丈夫?」
深い問い:
「いま一番詰まっているのは、何をどう進めればいいかが分からないこと? それとも優先順位?」
「そのしんどさは、仕事量そのもの? 期待値のズレ? それとも自信のなさ?」
問いは答えを当てるためのものではない。整理を促すための問いである。
ティーチングとコーチングは使い分け
若手がまだ仕事の前提を持っていない段階で、延々とコーチングだけをしても進まない。
逆に、何でもティーチングしてしまうと、若手はずっと受け身になる。
大事なのは、いまこの相手には、型を渡すべきか、自分で整理させるべきかを見極めることだ。
良い1on1は終わったあとに「次の一歩」が見える
良くない1on1は、話してスッキリしただけで終わる。
良い1on1は、終わったあとに若手の中で次のどれかが明確になっている。
自分は何に困っていたのか
次に何を意識すればいいか
具体的に次の一歩を何にするか
整理と行動が接続されている。
第7章 裁量、自走、責任はどうつながるか
裁量は「自由」ではない
裁量とは、信頼された責任範囲である。
「この範囲なら、この人が判断しても大丈夫だ」と周囲が思える状態が先にある。ここを飛ばして裁量だけ欲しがると危ない。
責任感は精神論では育たない
責任感は気合いや根性を求めても育たない。なぜなら抽象語だからだ。
責任とは、自分が引き受けた役割や結果に対して、途中で他人事にせず向き合うことだ。
うまくいかなかった時に隠さない。ズレた時に他責にしない。必要なら早めに相談する。
これが責任の中身である。
自走は「勝手に進めること」ではない
自走とは、確認しないことではない。自分で抱え込むことでもない。
目的に対して、自分の頭で考え、仮説を置き、必要な相談をしながら前に進めることである。
任せる前に渡えるべきもの
任せる前に、次の4つを渡す必要がある。
目的 - 何のための仕事か、何を達成すれば良いか
判断基準 - 迷った時、何を優先すべきか
期待値 - 相手は何を求めているのか
責任範囲 - どこまで自分で決めてよいか
これらがないまま「任せるね」と言っても、若手は動きにくい。
若手に小さな責任を持たせる
いきなり大きな責任を渡すと重すぎることがある。
まずは小さな責任を持たせる方がよい。
この会議の論点整理は任せる
この資料の初稿は任せる
このタスクの進行管理は任せる
責任の単位を小さく切り、目的・判断基準・相談ラインをセットにする。
「任せる」と「放置」は違う
任せるとは本来、
目的が共有されている
判断基準がある
相談ラインが分かっている
必要な時に支援がある
振り返りが行われる
こうした状態の中で裁量を渡えることだ。
放置は、これらが全て曖昧な状態である。
裁量を広げる人の共通点
裁量が広がる人には共通点がある。
期待値を外さない
見えないところの交通整理をする
問題が起きた時に逃げない
相談の質が高い
他責にしない
小さな仕事でも丁寧に向き合う
つまり、信頼残高を積み上げている人である。
第8章 AI時代に育てるべき若手像
AIがある時代の若手の価値
AIが強くなればなるほど、表面的な知識や整ったアウトプットだけでは差がつきにくくなる。
これから若手の価値は次のところに寄っていく。
問いの質
仮説の質
構造で捉える力
相手の期待値を読む力
AIの出力を鵜呑みにしない力
学び続ける力
人と仕事を前に進める力
AIを使っても思考停止しない若手が伸びる
AI時代の若手像を一言で言うなら、AIを使っても思考停止しない人だ。
AIは便利だが、使い方を間違えると若手の思考を止める。
まず自分で考える前にAIに聞く
出てきた答えをそのまま採用する
自分の違和感を持たずに使う
こういう使い方が続くと、一見生産性は上がっているように見えるが、判断力は育ちにくい。
伸びる若手は、
まず自分の仮説を持ってからAIにぶつける
出力をそのまま使わず、違和感を探す
別の視点や反論を求める
AIの答えを自分の文脈に翻訳する
最後の判断は自分で持つ
こういう使い方ができる。
「答えを待つ若手」は厳しくなる
答え待ちの若手にとって、AIは一見ありがたい。だが本質的には危うい。
AIが返す答えは整っている分、「分かった気」になりやすい。問いを持たなくなる。仮説も弱くなる。
アウトプットの見た目と、OSの強さが一致しなくなる。
AI時代に強い若手は「問いを持てる」
AIは答えを出すのが得意だが、何を問うかは人間側の仕事である。
問いの質が変わると、出てくるものも変わる。
そもそも何が問題なのか
この前提は正しいのか
相手が本当に困っているのはどこか
別の切り口はないか
こうした問いを持てる若手が強い。
マネージャーが変えるべきこと
AI時代にマネージャー側が変えるべきことは3つある。
「知っているか」より「考えられるか」を見る
成果物だけで判断しない - どう作ったのか、何をAIに任せたのか、どこを自分で考えたのかまで見る
「使えるか」より「使いながら育つか」を見る - AIを便利な外注先として使っているのか、思考を加速する相棒として使っているのか
第9章 マネージャーが壊れないための育成設計
問題が見える人ほど疲れる
若手育成で消耗しやすいマネージャーには共通点がある。問題が見えることだ。
見えるから気になる。気になるから拾う。拾うから増える。増えるから終わらない。
結果として、マネージャーの頭の中は常に未完了で埋まる。
育成に本気な人ほど「全部自分がやる」罠に入る
若手育成で壊れやすい人の多くは、怠けていない。むしろ本気で向き合っている。だからこそ危ない。
1on1も全部自分がやる
課題整理も全部自分がやる
育成の設計も全部自分がやる
こうなると、マネージャーは育成の単一障害点になる。
必要なのは、育成に本気であることをやめることではなく、本気だからこそ、自分一人の個人技にしないことだ。
育成は「全部拾う」より「どこを拾うか」
全部拾わなくていい。大事なのは、どこを拾うかを見極めることだ。
いまこの人にとって、一番ボトルネックになっているOSは何か。そこに絞ってしばらく関わる。
育成とは、何を今は捨てて、何を今は拾うかの選択でもある。
介入と放任の間に「設計」がある
気になるから細かく見てしまう→若手は受け身になる→今度は手を引く→でもズレる。
このループはかなり多い。
必要なのは、介入するか放任するかの二択ではなく、その間にある設計だ。
ここまでは本人に考えさせる
このタイミングでは中間確認する
ここは判断基準だけ渡えて任せる
この粒度のズレは今は拾わない
こうした設計があると、過干渉にも放置にもなりにくい。
1on1を「全部受け止める場」にしない
1on1が全部受け止める場になると、マネージャー側に残り続ける。
感情を受け止めることは必要だが、そこで終わると整理がない。
必要なのは、本人が持ち帰れる形に変えることだ。
育成を個人技から仕組みに変える
マネージャーが壊れないために最も本質的なのは、育成を個人技から仕組みに変えることだ。
1on1で見る観点を言語化する
若手に最初に渡える前提を明文化する
相談の型を共有する
育成で使う問いをチームで共有する
自分の頭の中だけにある育成観を、外に出していく。
回復も育成設計の一部
マネージャーはずっと高密度で人と向き合い続けると消耗する。
回復は甘えではない。育成を続けるための前提である。
会議を詰め込みすぎない
1on1の件数を設計する
考える時間を空ける
休む日を意識して作る
回復を設計しない育成は、長続きしない。
壊れないマネージャーは「続けられる人」
良いマネージャーとは、全部を救う人ではなく、続けられる人である。
今日だけ頑張れる人ではなく、一年後も二年後も若手と向き合い続けられる人。
そのために、自分の負荷を設計し、優先順位を持ち、仕組みに変え、回復も設計する人。
第10章 思想で育てる組織を作る
育成は技法の前に思想である
同じ1on1でも、何のために使うかが違えば全く別物になる。
若手を管理するために使うのか
OSを育てるために使うのか
育成は技法の問題である前に、どんな人を育てたいのかという思想の問題なのだ。
「どんな若手を育てたいのか」を言葉にする
多くの組織では、ここが意外と曖昧である。
「主体的な人材」「自律型人材」といった言葉は出るが、抽象的で現場に落ちづらい。
もう少し具体にする必要がある。
正解待ちではなく、仮説を置ける若手
フィードバックを単発修正ではなく次に転用できる若手
相手の期待値を読みながら前に進める若手
AIを使っても思考停止しない若手
こうした言葉に落ちると、日々の会話や評価に接続しやすい。
文化は「何を褒めるか」で決まる
組織の思想は、資料に書いてあるだけでは文化にならない。
日々の振る舞いの中に埋め込まれて、初めて文化になる。
その中でも特に大きいのが、何を褒めるかだ。
良い仮説を持ってきた
背景まで取りに行った
指摘を次に転用した
失敗したが隠さず整理して次に活かした
こうしたことが評価される文化では、若手のOSは変わっていく。
「誰の下につくか」で育ち方が変わる状態を減らす
若手育成が属人化している組織では、誰の下につくかで育ち方が大きく変わる。
これは本人の努力だけでは埋めにくい差だ。
目指したいのは、最低限の育成思想とOS観点は、どのマネージャーでも共有されている状態である。
組織として育成するとはマネージャーを育てること
若手を育てる組織を作りたいなら、若手だけを見ていては足りない。マネージャーを育てる必要がある。
若手育成をどう捉えるか
どんな若手像を目指すか
1on1をどう使うか
どう見立てるか
こうしたことを、マネージャー同士で共有し、学び合う場が必要になる。
思想がある組織は若手の迷いを減らす
若手が苦しむ理由の一つは、何を目指せばいいのかが分からないことだ。
思想がある組織は強い。
正解待ちではなく、仮説を持つ
分からないは分解して持ってくる
指摘は次に転用する
失敗しても隠さず向き合う
こうした言葉が組織にあると、若手は迷いにくい。
文化は小さく始める
思想を文化にすることを大きく考えすぎる必要はない。
最初はこれだけでもいい。
自分のチームで、育てたい若手像を三つ言語化する
1on1で見る観点をチーム内で揃える
評価コメントで褒める観点を意識的に変える
一つひとつは小さいが、それが積み重なると若手の受け取る空気が変わる。
最後は「何を信じるか」
育成とは最後は、人の成長可能性をどう信じるかという思想の話でもある。
若手は、能力差が大きくて育つ人しか育たないと信じるのか。
若手は、適切なOSを渡えればかなり変わると信じるのか。
この信じ方が、関わり方を決める。
おわりに
若手が育たないのは、本当に能力のせいなのか。
この問いを、私は本記事を通して問い直してきた。
たしかに個人差はある。得意不得意もある。全員が同じように伸びるわけでもない。
それでもなお、私は育たない理由の多くは、能力不足ではなく、仕事の捉え方の前提が入っていないことにあると考えている。
その前提を「仕事のOS」と呼び、その見立て方、渡え方、育て方を本記事で整理してきた。
この見方を持つだけで、若手の見え方はかなり変わる。
「なぜできないのか」ではなく「何がまだ入っていないのか」と考えられるようになる。
人は、どう見られるかによって変わる。能力がない人として見られるのか、まだOSが入っていない人として見られるのか。その違いは、長い目で見ると育ち方そのものを変える。
もしこの記事が、あなたにとって
若手を見る視点が少し変わるきっかけ
育成を個人技ではなく思想として考えるきっかけ
自分自身を守りながら育成を続けるきっかけ
になれたなら、とても嬉しい。
若手の育ち方が変われば、チームが変わる。チームが変われば、組織が変わる。
私は、これからも若手を能力ではなくOSで見続けたい。そして、育成を諦めない側に立ち続けたい。
