見出し画像

🎮寄り道ギルド クエスト #05「忘れたくて置いていったもの」


※ここは、「帰れない夜」にだけ辿り着ける場所。
その名を――寄り道ギルド。

※役割は、本人たちの了承なく記録されています。


━━━━━━━━━━━━━━━

📖 ギルドクエスト記録 No.1

依頼:
📜 落とし物を届けてください。

同行者:
ギンコさん
ひよこさん
風の猫
旅人
(プルちゃん?)
イトさん

進行状況:
▶ 橋の先、イトさんと合流中


* * *

「その落とし物は。」

イトさんは、もう一度だけ言った。

「……誰が落としたものなんでしょうね。」

誰も、すぐには答えられなかった。

コーヒーの湯気だけが、静かに揺れている。

やがてイトさんは、コーヒーをひと口飲んだ。

「こちらへ。」

それだけ言って、森の奥へ歩き出す。

理由は、何も説明されなかった。

「……ついて行ってええんやな?」

ギンコさんが念のため確認する。

イトさんは、静かに頷いた。

「コーヒーが冷める前に。」

「そっちの都合かい🤣」

張り詰めていた空気が、また少しだけ緩んだ。

観測記録:珈琲の香りは、森の奥へ続いている。


* * *

森の奥へ進むほど、
木々の間隔が広くなっていった。

月の光が、
さっきよりまっすぐ届いている。

やがて、
小さな空き地に出た。

中央には、
古い焚き火の跡。

灰は白く、
もう何年も誰も使っていないように見えた。

それなのに、
空気だけがまだ温かい。

「……ここ、何なんですか?」

旅人が尋ねる。

イトさんは、
焚き火の跡の前にしゃがみ込んだ。

「忘れ物置き場、
と呼ぶ人もいます。」

「忘れ物?」

「厳密には、
少し違うかもしれません。」

イトさんは、
旅人を見た。

「木箱を、
出してもらえますか。」

* * *

旅人は、
鞄から木箱を取り出す。

手のひらに収まるほどの、古い木箱。
蓋には小さな真鍮の留め具があり、
色褪せたひもで『落とし物』の札が結ばれている。

旅人は、焚き火の跡の前へ木箱を置いた。

手を離そうとした、その時。
指先に、かすかなぬくもりが伝わった。

とうに消えたはずの火が、
木箱の中で息を吹き返したようだった。

観測記録:灰は冷たい。木箱だけが、温かい。


「……あったかい。」

旅人は驚いて、木箱から手を離した。

ギンコさんも、確かめるように手をかざす。

「ほんまや。」

ひよこさんは、木箱のそばに残る灰へ、そっと指先で触れた。

「灰は冷たいままです。焚き火の熱ではなさそうですね🐣」

* * *

「……開けてもいいですか?」

旅人が尋ねる。

イトさんは、
静かに首を振った。

「まだです。」

「……持ち主の準備ができていません。」

「準備……。」

旅人が繰り返す。

イトさんは、
焚き火の灰を、
指先でそっとなぞった。

「これは、
忘れ物ではなく――」

一拍、
間があった。

「忘れたくて、
置いていったものかもしれません。」

* * *

「それって……。」

ひよこさんが言いかけて、
口をつぐんだ。

ギンコさんも、
珍しく何も言わなかった。

夜風だけが、
焚き火の跡を、
静かに撫でていく。

イトさんは、
淡々と続けた。

「人は、
時々。」

「思い出のすべてを、
持ち歩けなくなります。」

「だから、
どこかへ置いていく。」

「本人は、
それを忘れ物だとは思っていません。」

「ただ――」

「軽くなりたかっただけ、
なんです。」

旅人は、木箱をじっと見つめた。

箱に結ばれた札が、
夜風に小さく揺れている。

『落とし物』

その文字を目にした瞬間、
胸の奥が、小さく波打った。

(この字……。)

どこかで見たことがある。

うまく思い出せない。
けれど、確かに知っている気がした。

旅人は、札から目を逸らした。

そして、何かを隠すように、
木箱を鞄へ戻した。

誰も、何も言わなかった。

その手がかすかに震えていたことを、
風の猫は、記録帳の隅にだけ書き留めた。

* * *

「じゃあ。」

ギンコさんが、
沈黙を破るように口を開いた。

「その人は、
今どこにおるんや?」

イトさんは、
ゆっくり立ち上がる。

「分かりません。」

「……分からんのかい🤣」

いつものやり取りのはずなのに、
今日だけは、
笑い声が少しだけ小さかった。

「ただ、
一つだけ。」

イトさんは、
静かにランタンを掲げた。

「その人は、
まだ思い出したがっていません。」

* * *

誰も、
それ以上は聞かなかった。

聞いてはいけない気がした。

風の猫の記録帳に、
新しい一行が加えられた。

インクはまだ、
微かに光っていた。

* * *

📖 ギルドクエスト記録 No.1

現在位置:
森の奥・古い焚き火の跡

クエスト状況:
▶ 落とし物の正体、一部確認

 「忘れたくて、置いていったもの」
 持ち主は、まだ思い出したがっていない。

次の目的地:
未確認

同行者:
変化なし

※木箱は、
今も微かに温かいままです。

* * *

🌿
届けるということは、
時々、残酷なことでもあります。

だから寄り道ギルドは、
急ぎません。

その人がもう一度、
自分から手を伸ばす夜まで。

木箱のぬくもりを、
消さないように預かっています。

* * *

📚 前回の記録

橋を渡った先で、
一行はイトさんと合流しました。

コーヒーの香りと共に、
静かな問いが投げかけられます。

「その落とし物は、
誰が落としたものなんでしょうね。」

▶ 寄り道ギルド|ギルドクエスト #04




いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集