第4話: 「言えなかった言葉は、消えなかった。」〜まだ名前を持たない揺れ 〜
言えなかった言葉は、
消えずに、心の奥に残り続けます。
その揺れに触れた夜、
私は初めて「影の精霊」と
出会いました。

影は目を逸らさせない
その日は、
ほんの小さな出来事でした。
会議の帰り道。
私は言いたいことを、言えず、
心の中のもやもやは、晴れないままでした。
間違っているとわかっていたのに。
波風立てる事が嫌で
空気を乱さないほうを選んだのです。
家に帰るころには、
何もなかったように過ごしていました。
「大丈夫」
と、自分に言い聞かせながら。
けれど
胸の奥に、
ざらりとした感触が残っていました。
怒りでもなく、
悲しみでもない。
もっと静かで、
もっと深い揺れ。
夜。
窓を開けると、
いつものように風が入りました。
けれど、
今日は少し違いました。
やわらかさのない風。
温度のない空気。
胸の奥のざらりとした感触が、
その風に触れて、
ゆっくりと広がっていきます。
その瞬間
空気が、
すっと沈みました。
光ではありません。
重さでもありません。
ただ、
深く静かな存在感。
振り向いたとき。
そこにいたのは、
シーではありませんでした。
黒い、小さな影。
丸い体。
黄色いリボン。
シーにとてもよく似ている。
けれど、シーとは違う瞳でした。
見透かすような、
静かなまなざし。
尻尾の先の葉は、
光らず、
ただ、深い緑をしていました。
私は息をのみました。
怖いわけではありません。
けれど、
胸の奥が、
ごまかせなくなる感覚。
その存在は、
何も言いません。
ただ、
私の胸のざらりとした揺れに
ぴたりと重なっていました。
そのとき、
はじめてわかったのです。
これは、
見ないふりをしてきた気持ち。
押し込めた、本音。
悔しかった。
そして
それは違うと言えなかった、
自分の弱さに、
私は静かに腹を立てていたのです。
黒い精霊は、
静かに目を細めました。
凛とした空気を纏った瞳。
けれど、
敵でもない。
ただ、
逃げ場を与えない存在。
風が止みます。
胸の奥で、
そのざらりとした揺れが、
形を持ちました。
私は、
小さく息を吐きました。
そして、
はじめて認めます。
「私は、悔しかった。」
その瞬間
何かが、
ほんのわずかに揺れました。
そして次の瞬間、
黒い影は、
風の中へ溶けました。
そのとき、ふと
「クロム」
という響きが、
心の奥に残りました。
静寂だけが残ります。
けれど、
胸の奥は不思議と軽くなっていました。
私は知りました。
揺れは、
光だけでは終わらない。
影に触れたとき、
はじめて整う揺れもあるのだと。
翌朝。
窓辺に立つと、
やわらかな光の気配がありました。
シーです。
尻尾の葉が、
静かに揺れています。
その奥で、
どこか、
深い影の気配も、
まだ消えずにいました。
私は思います。
光も、影も。
どちらも、私の中にあるのだと
そのとき、はじめて実感しました。
その揺れに、
まだ名前はなかった。
けれど、
逃げずに見つめたとき、
それは“私の本音”になった。
🌙 この物語について
ココロリーフは、
大人のための心のファンタジーです。
無理をしてしまう日も、
言葉を飲み込んでしまう夜も、
すべてが心の揺れ。
その揺れに触れたとき、
精霊は姿を持ちます。
光だけでなく、
影も抱きながら。
🌙 第5話予告
光に触れたあと、
影に触れたとき
私は気づきはじめていました。
心は、
ひとつの感情だけでは
できていないということに。
嬉しいのに、不安で。
安心しているのに、寂しくて。
光と影は、
いつも同じ場所に
そっと重なっていました。
その夜
窓辺で、
私は初めて見る光景に出会います。
やわらかな光と、
深い静寂が、
ひとつの葉の中で揺れていました。
それはまるで
まだ言葉にならない、
新しい心のかたちのように。
🌿 第5話
「光と影のあいだで」
