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ココロリーフの物語|#2 あの夜のあとで



言えなかった言葉は、
ひとつじゃありませんでした。

むしろ、

大切なものほど、
うまく言葉にできなかった気がします。

朝になっても、  
何も変わっていないように見えました。

同じ部屋。  

同じ光。  

カーテンのすき間から差しこむ朝のやわらかさが、  
静かに床をなぞっています。

昨夜のことが、  
遠いようで、まだすぐそばにあるような、  
そんな感覚のまま、私は目を覚ましました。

あの夜、  
はじめて言葉にした気持ち。

「……悔しかった」

その一言は、  
たしかに何かをほどいたはずなのに、  

胸の奥には、  
まだ小さな揺れが残っていました。

消えたわけではありません。
なくなったわけでもありません。

ただ、  
形を変えたような気がしました。

顔を洗い、  
いつものようにコーヒーを淹れます。

湯気がゆっくりと立ちのぼり、  
静かな朝の空気に溶けていきました。

何も変わらないはずの朝。

けれど、  
その中にいる自分だけが、  
ほんの少しだけ違っているように感じます。

胸の奥にあったものは、  
もう押し込めるものではなくなっていました。

だからといって、  
すっきり消えたわけでもない。

ただ、
そこにあっていいものに、
なりかけている気がしました。

ふと、窓のほうへ目を向けました。

やわらかな光の中に、  
かすかな気配がありました。

白く、丸い、小さな猫が——
いたような気がしました。

窓辺に、
小さな葉が、
ひとつだけ——
置かれていたような、気がしました。

昨夜感じた、  
あの影の気配も、  
完全に消えたわけではありません。

光の奥に、  
静かに溶けるように、  
まだそこにある気がします。

それでも、
もう、  
こわくはありませんでした。

……そう思えた気がしました。

言葉にしたからといって、  
すべてが終わるわけではない。

むしろ、  
そこから始まるものもあるのだと、  
少しだけわかった気がしました。

胸の奥に残る揺れは、  
まだ名前を持っていません。

けれど、  
それを無理に消さなくてもいいのだと、  
今は思えます。

窓を開けると、  
朝の風が入りました。

昨夜とは違う、  
やわらかな温度の風でした。

カーテンがゆっくりと揺れ、  
光が、部屋の中に静かに広がっていきます。

その風の中に、  
かすかに音が混じった気がしました。

ちりん……

とても小さな、
消えなかった音。

私は、  
深く息を吸って、  
ゆっくりと吐きました。

まだ残っているものを、  
そのまま抱えたままでいい。

そう思えたことが、  
なぜか、少しだけあたたかく感じました。

何も変わっていないようで、  
ほんの少しだけ、変わっている朝。

私はその静けさの中で、
もう一度、
歩き出してみようと思ったのです。

ほんの少しだけ、
ためらいを残したままで。



まだ名前のない揺れは、
静かに続いていきます。

第3話『ポケットの中に残っているもの』

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