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第3話:揺れのかたち

その日は、
特別なことは、なにもありませんでした。

ただ、胸の奥で
小さな揺れが続いていました。
言葉になる前の、
かすかな違和感のような揺れ。

そしてその夜、
私は初めて知ることになります。

揺れには、
光へ変わるものがあるのだと。


その日、心の揺れは優しい光になった

シーの声を聞いたあの夜から、
私は街の中で、
ほんの少しだけ目を凝らすようになりました。

シーの姿は、
いつも見えるわけではありません。

心が大きく揺れたときだけ、
まるで共鳴するように、
その形を持って現れるのです。

それ以外のときは、
ただ風の動きや、
光の揺れの中に、
かすかな気配を感じるだけ。

けれど

それで十分でした。


ある日の帰り道。

夕暮れの空は淡く、
街のざわめきもどこか遠くに
感じられる時間でした。

私は特別なことを考えていたわけでは
ありません。

ただ、胸の奥で
小さな揺れが続いていました。

疲れでもなく、
悲しみでもなく、

けれど確かに
何かが動いている感覚。

そのとき

胸の奥で、
その揺れが少しだけ強くなりました。

理由はわかりません。

ただ、

「もう、そんなに頑張らなくていいの
かもしれない」

と、
心のどこかが小さくほどけたのです。


次の瞬間。

足元の空気が、
やわらかく震えました。

そして

シーが、そこにいました。

白く、丸い姿で。

尻尾の葉っぱは、
呼吸をするように揺れ、

その縁が、
かすかに二重に光っていました。

それは苦しい揺れではありません。

整いはじめた揺れ。

揺れが、
静かな波へと変わる瞬間。

そのとき。

シーの葉っぱが、
ひとつ、跳ねるように光りました。

今まで見たことのない輝き。

強くもなく、
まぶしくもなく、

ただ、あたたかい。

まるで

揺れが苦しみで終わらないと、
はじめて知ったような光でした。

私はその光を見つめながら、
気づきました。

シーは感情を理解しているわけではない。

ただ、揺れの変化を感じている。

そして今、

私の中の揺れが、
やわらかく整ったことを、
きっと知ったのです。

それを人は、
喜びと呼ぶのかもしれません。

けれどそれは、
ただの明るさではなく、

“整った揺れ”でした。


しばらくして、
シーの光は穏やかに戻りました。

姿は、
ゆっくりと風の中へ溶けていきます。

けれど消えたわけではありません。

胸の奥に、
同じリズムが続いていました。


そのとき。

ほんの一瞬だけ。

遠くの空気が、
深く、静かに揺れた気がしました。

シーの光とは違う、
あたたかさを持たない揺れ。

重くもない。

けれど、
どこか影を帯びたような気配。

私は思わず立ち止まりました。

胸の奥で、
別の感情が小さく動いたからです。

それは、

見ないふりをしてきた気持ちに、
少しだけ触れた瞬間でした。

次の瞬間、
その気配は消えていました。

シーは何も言いません。

ただ、
尻尾の葉っぱが一度だけ揺れました。

まるで、

「揺れは、ひとつじゃない」

と伝えるように。

あの日、私は知りました。

ココロリーフは
シーだけではないこと。

そして、

揺れには、
光に変わるものもあれば、
まだ名前を持たないものもあることを。

風は静かに通り過ぎていきます。

けれど、

胸の奥の揺れは、
確かにそこにありました。

そして私は、

その揺れから目をそらさずに
歩いてみようと思ったのです。

🌙 この物語について

ココロリーフは、
大人のための心のファンタジーです。

無理をしてしまう日も、
言葉を飲み込んでしまう夜も、
すべてが心の揺れ。

その揺れに触れたとき、
精霊は姿を持ちます。

光だけでなく、
影も抱きながら。


🌙 次回予告

喜びの光が、
静かに揺れたあと

心の奥には、
まだ触れられていない感情が残っていました。

それは、
光では照らせない揺れ。

やがてその夜、
風の中に現れるのは、
白ではないもうひとつの存在。

次回
「まだ名前を持たない揺れ」

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