見出し画像

第4話:第5部 笑顔の裏の静かな嵐

付き合い始めて1年ちょっと経ったころ、彼女の仕事がうまくいっていないことに気づいた。新社会人としての責任や人間関係のストレスで、次第に会社に行くのがつらくなっていたらしい。休む日も増え、彼女の顔から笑顔が消えていくのを見て、胸の奥が締め付けられた。

「どうしたら、俺は彼女を助けられるんだろう」
頭の中でずっと考えた。何か手を差し伸べたい。少しでも笑顔を取り戻してほしい。

私は小さなサプライズを試みた。仕事帰りにケーキを買って、「今日は頑張ったね」と渡す。食事の時間がない日には、手作りのごはんをそっと彼女のマンションのドアノブにかけておく。

けれど、どれだけ工夫しても、彼女の心はまだ疲れたままだった。デート中も、会社の愚痴が先に出る。笑ってほしいのに、心から笑う姿はなかなか見せてくれない。

やがて、彼女は休職を決めた。私は胸がぎゅっとなった。
「もう、会社に行かなくていいんだ」と一瞬安堵する気持ちが湧く反面、
「でも、このままじゃ、彼女は孤独に飲み込まれてしまうのではないか」
そんな不安が押し寄せる。

そのころ、私の中で彼女はかけがえのない存在になっていた。私は彼女なしでは生きていけない。彼女のためなら、自分ができる限りのことを何でもしたい――心の底からそう思った。

そして、私は決意した。生活費を全て負担し、彼女を支えよう――もう、ためらう理由はなかった。収入は安定していたし、彼女のためなら何でもできると思った。結婚も視野に入れていたから、迷いはなかった。

「何を買ったか教えてね」と言い、最初は毎日レシートを送ってもらった。けれど、徐々にその習慣も途絶え、彼女は自由にお金を使うようになった。
私は心のどこかで、小さな違和感を感じていた。
「休職して、自由にしている彼女を、俺は本当に支えられているのだろうか」
善意の行動が、少しずつ不安に変わっていく。
愛する人を支えたい――その思いと、なぜか芽生える焦りや不安が交錯し、心をざわつかせた。

それでも、私は彼女の笑顔を取り戻すために、手を伸ばし続けた。
「これでいいんだ」と自分に言い聞かせながらも、どこかで「このままで大丈夫なのか」という疑問が、静かに胸の奥でくすぶり続けていた。


いいなと思ったら応援しよう!

夜明け前の僕 よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!