イランが急ぐ「ホルムズの現金化」長期戦で見えてきた本当の弱点は、ミサイルではなく「外貨」ではないか【n+マーケット】

トランプ米大統領が、ホルムズ海峡を巡る交渉でオマーンが米国の意向を妨げれば軍事攻撃も辞さないと発言した。
一見すると、これは「米国対イラン」という軍事対立の延長に見える。
しかし今回の交渉を経済の側から見ると、別の構図が浮かび上がってくる。
イランは長期戦になる前に、ホルムズ海峡という最大の地政学カードを「継続的に外貨を生む権利」に変えようとしているのではないか。
私はそこが今回の記事の重要なポイントだと思う。
■ イランは長期戦になるほど苦しくなる
軍事的に見れば、イランにはまだミサイル、ドローン、海峡封鎖能力などがある。
米国にとっても決して簡単な相手ではない。
実際、米国側にも精密誘導兵器の消耗など長期戦の負担が出ている。Reutersは米軍が対イラン戦で長距離精密ミサイルを大量に使用していると報じている。
しかし、国家としての経済体力を比較すれば時間はイランに味方しにくい。
米国の海上封鎖によってイランの原油輸出は急減し、5月には原油・コンデンセート輸出が少なくとも6年ぶりの低水準となり、日量30万バレルを大きく下回ったとReutersは報じた。
戦争によるインフラ被害、物流混乱、失業、物価上昇、通貨下落も重なり、現在イラン指導部が警戒しているのは、軍事的敗北だけではなく国民生活の悪化から再び国内不満が爆発することだという。
ここに長期戦の怖さがある。
戦争はミサイルだけでは続けられない。
食料も必要だ。
医薬品も必要だ。
機械部品も必要だ。
産業設備も必要だ。
そして海外からそれらを買うには、国外で通用するお金が必要になる。
■ リアルを印刷しても戦費にはならない
イラン政府は国内通貨のリアルを発行することはできる。
しかし、それで海外から必要なものを自由に買えるわけではない。
通貨価値が下落しインフレが進めば、国民自身もリアルで資産を持つことを避け、ドルや金など価値を保存しやすいものへ逃げようとする。
リアル安
↓
輸入価格上昇
↓
物価上昇
↓
国民がさらにリアルを売る
↓
さらに通貨安
という悪循環になる。
実際、2025年だけでもリアルは大幅に下落し、2026年の戦争開始後も経済への圧力が続いている。
つまりイランにとって本当に必要なのは、
「国内で刷れるお金」ではない。
必要なのは、
ドル、人民元など、海外との取引に使える外貨だ。
■ 中国とロシアがいれば大丈夫なのか
イランには中国とロシアがいる。
確かにこれは大きい。
特に中国はイラン産原油の重要な買い手であり、米国も現在、中国の独立系製油所や金融機関をさらに制裁対象にすることで、イランの戦費調達を締め上げる選択肢を検討している。
しかし、
「中国・ロシアと関係が深い」ことと、「中国・ロシアがイランの戦費を無制限に負担してくれる」ことは全く違う。
Reutersによれば、戦争開始後、中国とロシアは外交的にはイランを支えながらも、米国との直接対決につながるような本格的軍事介入には慎重な姿勢を続けている。
中国には中国の国益がある。
ロシアにはロシアの国益がある。
イランのために自国まで米国との全面対立に入る理由はない。
だからこそイランは、他国から援助してもらうだけではなく、
自分自身で外貨を稼げる構造を必要としている。
■ そこで「ホルムズ海峡」が出てくる
ここで今回の記事につながる。
イランはホルムズ海峡について単に、
「船を通す・通さない」
という話をしているのではない。
イランは以前から、海峡を利用する船舶に対して将来的に料金を徴収する構想を示している。Reutersも7月、イランが通航船を自国側航路へ誘導し、交渉期間終了後に通航関連料金を課す意図を隠していないと報じていた。
さらにFTは、「通航料」ではなく航行安全や護衛などのサービスに対する料金として徴収する構想が検討されていると報じている。
ここが非常に巧妙だ。
単純な「通行税」であれば、
国際海峡を勝手に有料化するのか
という反発を招く。
しかし、
航行安全サービス
海上警備
保険
航路管理
という形なら、制度として正当化できる余地が生まれる。
■ ホルムズを「閉じる」のではなく「料金所」にする
私はここに、イランの狙いの一つがあるように思う。
石油を輸出して外貨を稼ぐには、
採掘する
↓
タンカーに積む
↓
制裁を回避する
↓
買い手を探す
↓
決済する
という過程が必要になる。
ところがホルムズ海峡なら違う。
世界中の船が向こうからやって来る。
かつて通常時には1日130隻を超える船舶が通過していた航路だが、現在は戦争によって通航量が激減している。
その海峡に対する管理権を制度として確立し、
「通りたいのであればサービス料を払ってください」
という仕組みを作れればどうなるか。
ホルムズ海峡そのものが、
巨大な外貨獲得装置になる。
■ なぜイランは今、急いでいるのか
ここまで考えると、オマーンとの交渉を急ぐ理由も見えてくる。
時間がたてば、
原油輸出は減る。
外貨は減る。
経済は傷む。
国民生活は苦しくなる。
リアルへの信頼はさらに低下する。
そして戦争を続ける能力も少しずつ削られていく。
だからイランとしては、
まだホルムズ海峡を止められる力を持っている間に、その力を恒久的な権利へ交換したい。
「海峡を閉鎖できる」という軍事カードを、
「海峡を管理し、そこから収入を得る」という経済カードへ変える。
私は今回の動きをそう見ると、非常に理解しやすい。
■ オマーンにとっては、本当にいい迷惑だ
そして、その交渉相手にされているのがオマーンである。
オマーンはもともと米国とイランの双方と関係を維持し、長年仲介役を務めてきた。
ところが現在は、
イラン
「海峡の管理権を認めてほしい」
一方の、
米国
「イラン寄りの合意をするな」
そしてトランプ大統領は8月17日、オマーンが米国の利益を妨げれば攻撃するとの極めて強い発言までした。
オマーンからすれば、
「なぜ自分たちが米国とイランの戦争の責任を背負わされるのか」
という話だろう。
■ しかし米国にも時間制限がある
一方でイランだけが焦っているわけではない。
ホルムズ海峡の不安定化によって原油価格は再び上昇し、8月17日のブレント原油は1バレル90.87ドルまで上昇した。
原油価格上昇は、
ガソリン
物流費
電気料金
物価
へ波及する。
つまり米国も、
「軍事的には有利だが、いつまでも戦争を続けたいわけではない」
という事情を抱えている。
ここが今回の交渉を複雑にしている。
■ N+の視点
私は今回のホルムズ海峡問題を、
「誰が海峡を通れるのか」
だけの問題として見るべきではないと思う。
本質は、
「誰がホルムズ海峡から利益を得る仕組みを作るのか」
という戦後の権益争いになりつつある。
イランは長期戦になれば苦しい。
国内通貨をいくら発行しても、それだけでは海外から物資を買えない。
中国とロシアも、無条件にイランを支えてくれるわけではない。
だから今のうちに、
軍事力で作った交渉力を、外貨を生み続ける制度へ変えたい。
もしそれが狙いなら、イランが「管理権」や「サービス料」にここまで執着する理由も理解できる。
だが、ここには非常に危険な前例が生まれる。
海峡を武力で止める。
世界を困らせる。
再開の条件として管理権を要求する。
そして料金を取る。
これが成功すれば、
「軍事的威圧によって国際航路を収益化できる」
というモデルを世界に示すことになる。
だから米国も簡単には認められない。
そして、その巨大な綱引きの真ん中に置かれたオマーンにとっては、本当にいい迷惑である。
今回の戦争でイランの本当の弱点が見えてきた。
それはミサイルの数だけではない。
国家を長期間動かすための「信用」と「外貨」だ。
そしてイランは今、その不足を補うために、
ホルムズ海峡という地理そのものを「お金」に変えようとしているのかもしれない。
そこまで見ると、今回のオマーンとの交渉は単なる海峡再開交渉ではない。
これは戦争の出口を巡る交渉であると同時に、イランが戦後も生き残るための「資金源」を巡る交渉でもある。
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