完璧を求められる仕事― ミシェルの「不確実性理論」から考える、看護師が辞めてしまう理由 ―
「不確実性は必ずしも脅威ではなく、新たな可能性への機会となり得る。」
これは看護理論家
マール・ミシェル(Merle H. Mishel) が提唱した
疾病における不確実性理論の中心となる言葉です。
医療の世界では、
「わからないこと」が常に存在します。
検査結果はどうなるのか。
この治療は効くのか。
患者は回復するのか。
そして患者自身もまた、
「自分の人生はこれからどうなるのか」
という不確実性の中に置かれます。
看護師の役割は、
その不確実性を完全に消すことではありません。
患者がその不確実性と向き合い、
意味を見出し、
適応していくプロセスを支えることです。
しかし、現場ではしばしば
看護師に対して
「不確実性をなくすこと」
が求められてしまいます。
看護師に求められる「完璧」

大学病院で働く看護師も、
訪問看護や介護施設で働く看護師も、
在宅医療に関わる看護師も、
保育園で子どもたちを見守る小児看護師も。
働く場所は違っていても、
看護師に求められる結果はとても似ています。
それは、
▶️ミスをしないこと
▶️常に正しい判断をすること
▶️患者に安心を与えること
つまり、
「完璧な看護」です。
しかし、ここで一つの疑問が生まれます。
それは本当に可能なのでしょうか。
医療は本来「不確実な世界」である

医療は科学ですが、
同時に人間を扱う営みでもあります。
同じ病気でも
同じ症状でも
人によって
▶️回復の速度
▶️治療の反応
▶️心理的な受け止め方
はすべて違います。
だからこそ、
どれほど経験を積んだ看護師でも
❤️🩹予測できない急変
❤️🩹想定外の反応
❤️🩹迷いが生まれる判断
は避けられません。
それでも社会は
看護師に対して
「常に正しい答えを出すこと」
を求め続けます。
この矛盾が、
現場の大きなストレスの一つになっています。
患者の声が最優先という原則

医療や福祉の現場では、
当然ながら
患者や利用者の意見が最優先
とされています。
これはとても重要な原則です。
しかし実際の現場では、
そこにさらに別の力が加わります。
それは
🏥事務局の方針
🏥病院や施設の経営判断
🏥制度や診療報酬の制約
です。
すると現場の看護師は、
患者の希望
組織の方針
現場の限界
そのすべての間に立たされます。
現場で起きている「見えない板挟み」

例えば、
患者は「もっと話を聞いてほしい」と思っている。
しかし現場は人手不足で、時間がない。
家族は「もっと丁寧にケアしてほしい」と思っている。
しかし業務はすでに限界に近い。
管理側は「安全管理を徹底してほしい」と言う。
しかし同時に効率化も求められる。
こうした状況の中で、
看護師は日々
理想と現実の間
で揺れ続けています。
その結果、現場では
・慢性的な人手不足
・長時間労働
・精神的疲労
が積み重なり、
多くの看護師が
「続けられない」
と感じてしまいます。
なぜ看護師は辞めてしまうのか

日本では今、
看護師不足が大きな問題になっています。
しかし、その背景には
単純な人手不足だけではなく、
構造的な問題
があります。
例えば、
▶️責任の重さに対して裁量が少ない
▶️医療安全のプレッシャー
▶️感情労働の負担
▶️慢性的な人員不足
▶️組織と現場の温度差
こうした状況の中で、
多くの看護師は
「患者のために働きたい」
という初心と、
「この働き方は続けられない」
という現実の間で葛藤します。
その結果、
病院を離れる人が増えていきます。
近年、看護師の働き方は
大きく広がりました。
・訪問看護
・産業看護
・企業
・教育
・研究
・フリーランス
看護師が新しい場所で活躍することは、
とても良い変化です。
しかしその一方で、
病院から看護師が減り続けている
という現実もあります。
診療報酬だけでは解決しない問題

国は診療報酬改定などを通して
医療従事者の待遇改善を図ろうとしています。
しかし、診療報酬が上がったからといって
看護師だけの給与が上がるわけではありません。
医療機関の収入は
・医師
・薬剤師
・技師
・事務
・設備
・薬剤費
など多くのコストに分配されます。
つまり制度だけでは、
現場の負担や働き方が
劇的に改善されるわけではないのです。
それでも看護を続ける理由

それでも多くの看護師が
この仕事を続けています。
なぜでしょうか。
それはきっと、
この仕事の中に
人と人の関わりの力があるからです。
患者が安心した表情を見せたとき。
家族が「ありがとう」と言ってくれたとき。
回復して退院していく姿を見たとき。
そうした瞬間が、
看護師にとっての
仕事の意味
になります。
不確実性の中で人を支える仕事

ミシェルの言葉に戻ります。
「不確実性は必ずしも脅威ではなく、新たな可能性への機会となり得る。」
医療の世界は、
本質的に不確実です。
だからこそ看護師は、
その不確実な世界の中で
・患者の不安を受け止め
・意味づけを支え
・安心を届ける
存在であり続けます。
看護とは、
完璧を提供する仕事ではなく、
不確実な状況の中で
人と共に立ち続ける仕事なのかもしれません。
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