見出し画像

母親たちの沈黙の声に耳を傾ける

― シェリル・タタノ・ベックの産後うつ病理論から考える ―

「母親たちの沈黙の声に耳を傾けることが、ケアの第一歩である。」
— シェリル・タタノ・ベック —


出産は、よく「人生の喜び」として語られる。

新しい命の誕生。
家族の始まり。
幸せな出来事。


しかしその影で、
誰にも言えずに苦しんでいる母親たちがいる。

それが 産後うつ という問題だ。

アメリカの看護学者
シェリル・タタノ・ベック(Cheryl Tatano Beck) は、
産後うつに苦しむ母親たちの体験を研究し、

「母親たちは、声に出されない苦しみを抱えている」

と指摘した。

そして、その沈黙の声に耳を傾けることこそがケアの第一歩だと述べている。

産後うつは「評価」だけでは語れない

産後うつは一般的に
・軽度
・中等度
・重度


といった形で評価されることがある。

しかし、臨床の現場にいると感じることがある。

"評価よりも大切なのは、
母親自身が今の状況をどう受け止めているかではないか"


同じ状況であっても、
体験の意味は人によって大きく異なる。

例えば
・出産をどう受け止めていたか
・育児へのイメージ
・産前の生活状況
・家族の支援体制


こうした背景によって、
母親の感じ方は大きく変わる。

産後うつは、
単なる症状の強さだけでは語れない。

その人の人生の文脈の中で理解する必要がある。


「望んでいた出産」でも苦しくなることがある

出産を望んでいた女性であっても、
実際の育児は想像以上に過酷なことがある。

眠れない夜。
終わらない授乳。
理由のわからない泣き声。


疲れが積み重なり、
心が少しずつ削られていく。

それでも社会は言う。

「赤ちゃんは可愛いでしょう?」

その言葉に、
多くの母親はこう感じる。

「大変」と言ってはいけないのではないか。

そして、
苦しさを胸の奥にしまい込んでしまう。


SNSが生み出す「理想の母親」

現代では、
SNSで育児を発信する母親も多い。

可愛い赤ちゃん。
楽しそうな家族。
整った生活。


それを見る母親の中には、
こんな思いを抱く人もいる。

「どうして私はちゃんと出来ないんでしょうか」
「全然出来てない」
「わかってくれない」
「周りには恥ずかしくて言えない」


本当は助けを求めたいのに、
比較の世界の中で

自分を責め続けてしまう母親

がいる。


見えにくい「産後うつ」

一方で、
精神科にうつ病として入院している女性の中に、

家庭では
ネグレクト状態になっているケースがある。

その背景を丁寧に見ていくと、

実は産後うつが影響している可能性

が考えられる場合もある。

産後うつは
母親の心の問題

だけではなく

🏠家庭環境
🧑‍🧑‍🧒育児環境
🏢社会的孤立

といった要素とも深く関係している。

だからこそ、
表面的な診断名だけでは
見えない部分がある。


母親たちは「助けて」と言えない

ベックの研究で明らかになったのは、

母親たちは必ずしも助けを求めない

ということだった。

むしろ多くの場合、
▶️母親なのだから頑張らないと
▶️弱音を吐いてはいけない
▶️こんなことを言ったら責められる

そんな思いから、

苦しみを沈黙の中に閉じ込めてしまう。

だからこそ、
ケアに関わる人には大切な姿勢がある。

それは

「言葉になる前の苦しさ」に気づくこと。


「男性にはわからないでしょうけどね」と言われること

産後うつの話をしていると、
時々こんな言葉を耳にすることがある。

「男性にはわからないでしょうけどね。」

確かに、そうかもしれない。

男性は出産を経験することができない。

どれだけ想像しても、
陣痛の痛みや出産の身体的負担を
実際に体験することは

生物学的に不可能だからだ。

そういう意味では、
完全に理解することは難しいのかもしれない。

しかし、
だからといって

何も出来ないわけではない
と私は思っている。


「支えること」はできる

男性は出産をすることはできない。

けれど、

支えることはできる。

例えば
🥘料理
🧺洗濯
🧹掃除
🛒買い物
👨‍🍼赤ちゃんの世話

こうした日常生活のサポートは
男性にでもできることだ。

育児は、
想像以上に体力と精神力を消耗する。

だからこそ
「あなたは一人じゃない」

というメッセージが
とても大きな意味を持つ。


「支えられている」という実感

ここで大切なのは、
単に家事を手伝うことだけではない。

女性が「支えられている」と実感できること。

これが何より重要なのではないかと思う。

例えば
👂話を聞いてくれる
❤️‍🩹気持ちを否定しない
😕一緒に悩んでくれる

そんな関わりがあるだけで、
母親の孤独感は大きく変わる。

産後の女性は、
身体も心も大きな変化の中にいる。

だからこそ、
パートナーの存在はとても大きい。


家族で支える育児へ

産後うつは、
母親だけの問題ではない。

それは

家族の問題であり、社会の問題でもある。

母親一人に負担を背負わせるのではなく、
家族で支えていくこと。

そして社会が
その支えを後押ししていくこと。

それが、
産後うつを防ぐ大切な鍵になるのだと思う。

出産は、人生の大きな転換点である。

喜びと同時に、
孤独や不安を感じることもある。

もし今、
育児の中で苦しんでいる母親がいるなら。

それは決して
あなたが弱いからではない。


ただ、
一人で抱えるには
あまりにも大きな出来事だからだ。

そして私たち医療者にできることは、

その沈黙の声に気づくこと。

そこから、
ケアは始まるのだと思う。

いいなと思ったら応援しよう!

7010nsous|看護師×公認心理師×第一種衛生管理者 応援いただきありがとうございます❗️ いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます‼️ 今後ともよろしくお願いします。

この記事が参加している募集