Ctach-22、日常のメタファー A Metaphor We Live By...英語学から
表紙写真:筆者所有表紙無しのCatch-22コピー
まず"catch"から、「罠」(=snare)という意味で使われる
中学校で習う他動詞"catch"ですが、古英語(Old English)から伝わる生粋の英語と思いきや、中世英語(Middle English)時代にフランス語経由で入ってきた口語ラテン語(Vulgar Latin)からの借入語の一つです。口語ラテンの"capitare(=chase)"が、古北部フランス語(ONF)に借入され"cashier(=hunt)"に、中世英語に借入され”cacchen"に、そして近代/現代英語に”catch"として定着します。(Webster Third English Dictionary)
動詞として、「追いかけて捕まえる(chase)」「獲物を捕獲する(hunt)」という意味で使用されてきました。Merrium-Websterでcatchにあるように、捕まえるものは様々ですが原義は変わりません。
名詞として、「捕る行為/捕獲(量)」(例:a large catch of fish, make a tough catch難しい打球を捕る,play catch キャッチボール)という意味ですが、それらから「安全装置/すべり止め」(例:a safety catch)、とか、「歌のサビ」(例:catches of a song)などの業界用語、そして、本稿のテーマに関係するもっともポピュラーな「隠された困難な状況、罠」メタファーが派生しました。獲物を捕るときに使う罠(snare)をなぞった日常会話でよく使われるメタファーです。
That sales price sounds too good to be true – there must be a catch to it somewhere. この値段信じられない安さだな。なんか罠がありそうだ。(Cambridge Dictionary)
SNS界でよく使われるフィッシングfishingはcatch fishingのメタファーですからほぼ同じ意味です。
Catch-22は逃げられない蟻地獄のようなcatch(罠)
ジョセフ・ヘラー Joseph Heller『キャッチ=22』 Catch-22 (1955,1961)は、戦争の不条理を痛烈に批判した長編小説です。Joseph HellerCATCH-22 pdf - Google Driveをクリックすれば全作購読できます。
第二次世界大戦中に地中海ピアノーサ島の米軍基地で、キャスカート大佐が指揮する空軍部隊には「キャッチ=22」Catch-22という隠された特殊なcatchが存在していました。成文化されておらず有無を言わさぬ力を持つ暗黙の軍規として横行していたのです。表立って存在しない不正を暴き正そうと訴えても、ただいたずらにもがくだけ、蟻地獄にはまってしまいます。
爆撃機パイロットの主人公ヨッサリアン大尉は、相当回数の出撃を行い生還し通常では任務を解かれると期待していました。ところが解かれるどころか更に出撃命令が下されて不安を抱きます。そんな折、狂気と判断された場合には出撃任務を解かなければならないという表立った軍規があることを知り、主人公のヨッサリアンは狂気を装って出撃免除の申請を提出します。
しかし、狂気を理由に出撃免除の申請をしたということは、自身の危機と安全に関する認識と判断ができたということであり「正常」であって「狂気」ではないと判断され申請は却下、出撃の命令が下されます。よしんばこの命令が軍規に背くものであっても、ヨッサッリンは上官の命令に従わなければ軍規を破ったとして処罰の対象になります。指令上層部が自らの利益の為に権力を使って兵士たちを縛り続けることを可能にするこの部隊特有の隠されたcatch(罠)があったのです。Catch-22と呼ばれていました。
本作品は12ヵ国語に翻訳され世界中で1200万部売れ、Catch-22は「矛盾だらけの規則や規制で逃れられない逆説的状況( a paradoxical situation where an individual cannot escape because of contradictory rules or limitations.」を指す表現として使われるようになりました。通常のcatchなら問題解決の糸口を探し何とかなりますが、Catch-22はどうあがいても矛盾だらけで糸口皆無の八方塞りの状況を指します。矛盾だらけで合理性がない不条理な状況です。
こうした状況は戦争のような異常事態だけではなく、私たちの日常生活では多発します。List of Catch-22 Examples (25 Impossible Situations!)というサイトでは日常起こりうる卑近な例25個を挙げています。その1例です。
(米国の)高校生が運転免許を取得した。車を買いたいので金を稼いで貯めようとする。それで仕事を探そうとするが、どこを当たっても車が無いから雇ってもらえない。仕事がないので車を買う金を稼いで貯められないのに、車が無いから仕事が見つからないという悪循環に陥る。
名門大学の巨額寄付金とCatch-22
筆者が関係してきた高等教育業界の一例です。別稿「巨額寄付金ランキング、Harvard7兆円!Yale6兆円!揺らぐ学の独立、言論の自由(フル・バージョン)」で巨額の寄付金を集めているアメリカの名門私大は現在Catch-22のような状況に追い込まれています。学内のイスラエル抗議活動に異論を唱え、直ちに止めさせなければ寄付金を打ち切ると通達するドナーが多々いるとのこと。抗議活動を取り締まれば大学の自治と言論の自由が侵され、取り締まらなければ寄付金が集まらず研究(研究費)・教育(奨学金)の資金が減ります。いずれを選択しても世界トップの学生は今までようには集まらなくなります。多くの大学が身動きが取れない状況に置かれています。(*1)
パンドラの箱的世界情勢とCatch-22
Hellerは戦争そのものがCatch-22の温床であると指摘しています。経済戦争もそうです。第二次世界大戦は経済戦争に端を発したとも言われています。現在、米国は世界の国々からの輸入品に高額関税を掛け、それに対抗し、中国などの国々もアメリカからの輸入品に高額関税を掛け返し応酬合戦が勃発しました。アメリカ側は交渉の余地を仄めかしていますがcatchesがあるかもしれないとの疑心暗鬼が渦巻き、パンドラの箱(Pandora's Box)は空いたまま世界中は戦々恐々の八方塞り状態。国際貿易協定とか2国間協定とかいってもそんな規律のほかに成文化されていない経済法則が有無を言わせず横行します。小説Catch-22と似た状況です。
パンドラの箱で蓋を閉じれば希望が残ります。Catch-22の主人公は北欧に脱走しています。それは第二次大戦中の話で中立国があったからこそ実現できたこと。今回はグローバル規模で一網打尽、どの国にも関税が掛かり逃げ場はないとアメリカ大統領は述べています。ペンギンしか住んでいない島も含まれるのですから。アメリカ人には"safty catch"があると見え、大統領の掛け声通りしっかりつかまって!Hang tough!耐えろと号令をかけています。しかし他の国々の人々にはそれはありません。ただ、多くのアメリカ人は大統領が(safty catchとして)自らの手を伸ばすきたのに対し、ほっといてくれ!Hands off!とのスローガンを掲げて抗議行動を始めました。経済学者の多くもトランプ大統領の元気づけを疑問視しているようで、アメリカもCatch-22の罠に陥ってしまう可能性が大ということらしです。
(2025年4月6日記)
(*1)社会的地位向上には大学教育が必要ですが、学費高騰で受けられず、向上を阻みます。これが貧富の格差を産んでいます。そこで寄付金を集めてその一部を奨学金に廻し運営してきました。ハーバード大学などは3000万ドル(4500万円)以下の所得層の家庭の子女の授業料全額を支払うと宣言しましたが、寄付金が集まらなければそれはできません。要するに世界中から幅広く優秀な学生を集められないと言うことです。ハーバード大学の学費全額免除、世帯年収200,000ドル(約30,000,000円)以下対象!世帯年収100,000ドル(約15,000,000円)以下にはプラス生活費も支給!実施2025-2026学年|こういう状況が根底にあります。
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