M.マクルーハンのホット/コールド・メディア(1)...メディアはメッセージ
表紙写真Understanding Media (Wikipedia)より
はじめに:アメリカの大学院を目指す人に勧めたい本の一冊
本稿は2019年2月アメリカ大学院留学を目指す人に向け執筆した記事です。少々手直して3回に分け掲載します。1960年代にメディア論の巨匠Marshall McLuhan (1911-1980)著Understanding Media: the Extensions of Man(1964, Routledge, Routledge Classic 2001)(*1)は、アメリカの大学においては文系、理系(特にAI)に関わらず必読書の一つです。
55年も前にthe electric technologyによる世界のグローバル化を予測しており、IT技術の普及で現実のものとなりつつある現在、再度脚光を浴びています。
以下のサイトに全文が掲載されています。
[PDF] Marshall McLuhan Understanding Media: The Extensions of Man -Robyn Backen
本書はPart IとPart IIの2部構成で、“Introduction”を除き33編のessaysが収録されています。Part Iには“Introduction”と[1]~[7]の7編が、Part Ⅱには[8]~[33]の26編が収録されています。Part Iでは基本的な考え方を述べ、Part IIでは26個の具体例を挙げています。
本稿は、Part Iの[2]Media Hot and Coldに焦点を当てます。その前提として[1] The Medium is the Messageの要点を押さえておく必要があります。
コミュニケーションとは当事者間でmessagesを交換し意思疎通を図ることです。その為にはmessagesと表現媒体のmedia(単数形medium)が必要です。通常は、messagesを一義的なもの、mediaを二義的なものと考えます。それに反してMcLuhanは“The medium is the message.”と唱え、mediaこそが一義的であり、messageはさして重要ではないと断言します。
McLuhanのmedia(単数medium)とは?
McLuhanにとってのmedia(単数medium)とは、PartⅡの26個の具体例が示すように、全ての物、テクノロジー、制度、すなわち、人が作る有形無形の物事を指します。人物さえも含みます。それぞれのmediaは、ヒトの身体、中枢神経の延長(the extensions of man)であって、個人と社会に多大な結果(the personal and social consequences)と影響(effects)を与えると主張します。(*2)例えば、clothingの発明は肌の延長として、wheelは足の延長として、それぞれ異なる影響を社会にもたらしたと考えます。
その上で、いかなるmediumにおいても、そのmessage(content)は元から存在せず、そのmediumがもたらす後発の結果とか影響であると主張します。例えば、電灯(the electric bulb)の発明により、それ以前は日中にしかできない様々な活動が夜間にできるようになりました(野球のナイトゲームなど)。しかしそれは後に生じた事象であって、その発明時にコンテンツとして前もって存在したわけではありません。すなわち、電灯というmediumには元々コンテンツは無く、あるのは電灯そのものがもたらした結果であると論じています。(*3)
記号学の開祖Ferdinand de Saussureとの関連
これは記号学の開祖Ferdinand de Saussure(*4)が提唱した記号の概念を覆す考え方です。Saussureの記号とは、以下の図が示すように、形態と内容がコインの表裏のように一体化されたものです。(*5)

McLuhanの考え方では、形態(medium)はあるものの、内容(message)は空白のままなのです。形態がもたらす結果・影響が重要な要素として付帯されることになりますが、それはオーソドックスの記号学が考える内容には当てはまりません。記号の構成分子として不可欠な内容は存在しないことになります。(*6)
こうした考え方を基に、McLuhanは、文明の歴史とはその文明が作り出したmediaがもたらす影響・結果の集積(total effects)と捉え、西洋社会の過去と現在を分析し、未来を予測しました。西洋社会の古代から近代に至るまでの3000年間を機械化時代(the mechanical time)と称し、その間に発明された様々な機械(mechanical media)が、西洋人にどのような影響を与えてきたかを考察します。
例えば、
古代西洋文明において、アルファベット(the phonetic alphabet)の導入が聴覚から視覚への偏重を生み、近世においてGutenbergにより開発された印刷技術が視覚化にさらなる拍車をかけて抽象化を生んだ。そしてその後の近代に至るまでの間に発明・開発・導入された様々な機械的メディアmechanical mediaが、細分化(fragmentation)、分裂(fission)、専門性(specialism)、線状化(lineality)、順列化(sequential)、連続性(continuity)、単一性(uniformity)、拡散(decentralization)、個人主義(individualism)などの特徴を助長する結果になった。(*7)
しかし、19世紀後半にthe electric ageが幕開けすると、様々な電子メディアelectric mediaが初召され浸透していく。ところが電子メディアelectric mediaが身体、中枢神経の延長としてもたらす影響は、それまでの機械的メディアmechanical mediaがもたらした影響とは真逆の、融合(fusion)、全体性(wholeness)、多様性(diversity)などの影響をもたらした。
と述べています。
「M.マクルーハンのホット/コールド・メディア」(2)に続く
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(*1)Understanding Media: The Extensions of Manの初版は、1964年のRoutledge発行(2001年に Routledge Classics 2001として再発行)です。その後1994年にLewis H. Lapham序文付きでMIT Press発行版、 2003年にW. Terrence Gordon序文付きGinko Press発行版(2011年重版)があります。アメリカ主要大学では現在でも愛読されています。本書のタイトルを検索すると、実に、約11億のヒット件数がありますが、筆者は在京のある大学図書館をチェックしたところ、古書を集めた貯蔵室で埃を被っていました。貸出記録の日付を見ると最後に貸し出されたのはかなり前であまり読まれてこなかったようです。それが今回本稿で取り上げてみようと思ったきっかけになりました。テレビ討論“Norman Mailer and Marshall McLuhan Debating 1968”も見てください。
(*2)The personal and social consequencesとthe psychic and social consequencesという句も使っています。Psychic(精神的/心霊的)という語は、personal に入れ替わりのように使われているので個人的なものかと思われますが、[1]編の最後にある集団的無意識(collective unconsciousness)の提唱者C.G. Jungの引用文から判断すると集団的なものかもしれません。これらの句に代わりeffects(影響)やimpact(インパクト)を使っています。本稿では影響・結果という表現を使いました。
(*3)いかなるmediumのコンテンツは別のmediumに過ぎないとさえ主張します。“The content of any medium is always another medium.” 例えば、 Printというmediumのコンテンツはthe written wordであり、telegraphというmediumのコンテンツはprintであると言っています。この意味でmediaは連続性があり、後述のhot mediaとcold mediaも連続性があるものとも考えられます。
(*4)Ferdinand de Saussure (1857-1913)は記号学(論)と言語学の開祖的存在です。社会科学、人文科学、医学をはじめとする諸科学の分野で彼の記号についての概念は基本中の基本です。Le Cours de linguistique généraleも留学前に読んでおきたい本です。最新版の英訳がありますSaussure's Third Course of Lectures on General Linguistics 1910-1911. (1993.Transleted by Roy Harris. Pergamon Press)。
(*5)記号(sign/ 仏語signe/シーニュ)に関して、思想家により様々な言い方があります。Signifier(仏語signifiant), sound image, form, code, expression, form, medium , etc. シニフィアン, 能記, 形態など。Signified (signifié), concept, content, meaning, function, message, etc. シニフィエ、内容、意味、機能など。

(*6)Umberto Eco(1932-2016)をはじめ多くの思想家、哲学者、記号学者の批判を浴びることになります。
(*7)詳細については本書の[1]~[7]の7篇を読んでください。例えば、中世の城壁とか現代の高速道路というmediaが物理的に、そして精神的にどのような変化をもたらしたか、また、アルファベットのような音標文字と表意文字がどのような違いをもたらしたか、両方を使用する日本人にとっては色々考えさせられる材料を与えてくれます。[8]~[33]の26篇で具体例を挙げて説明しています。
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