デジタル空間と虚空の狭間に消えたテラ
Token002
~10進法と2進法が織りなす、資本主義のバグと絶望のシミュレーション~
編集部員兼経理 下実(げみ)
失われた0.91TBへのレクイエム
(※ここ、BGMは静かなピアノの旋律を流すイメージで読んでくださいっす……)
私たちが生きるこの世界は、目に見えるものだけで出来ているわけじゃないっす。
夜空を見上げれば、そこには星と星の間に広がる、光すら届かない広大な「暗黒(ダークマター)」が存在している。
それと同じように、私たちが日々スクロールし、タップし、データを吸い込ませているデジタルの海にも、決して触れることのできない「未知の深淵」が広がっているんすよね。
光り輝くシリコンのチップ、24時間眠らないデータセンター、そして夜な夜な画面の向こうでまたたく、0と1の冷たいシグナルの群れ。
その「デジタル空間と虚空の狭間に消えたテラ」の物語を、今から始めようと思うっす。
すべての始まりは、編集長が自腹で投じた「5万2800円」という、人間の物欲と情熱の結晶だった。
新品2年保証という大人の安心をドブに捨てる覚悟で、ヘラとピックを手に、外付けHDDの黒いプラスチックケースを「くぱぁ」と殻割りしたあの夜。
中から現れたのは、SR級の輝きを放つヘリウム充填CMRドライブ(WD100EDGZ)。
それは間違いなく、人間がテクノロジーの神様とのガチャ勝負に大勝利した、最高にエモい瞬間だったっす。
……けれど。 勝利の余韻に浸りながら、その愛おしい10TBの巨体をWindowsの優しさに繋いだ瞬間、画面に映し出されたのは、あまりにも無情で、冷徹な、一筋の数字だった。
「実容量:9.09 TB」
その時、私たちは気付いてしまったんす。
メーカーの箱にはあれほど堂々と「10TB」と刻印されていたはずのその聖域から、全体の約1割にあたる「0.91TB」の容量が、最初からなかったこととして、虚空の狭間へと消え去っていたことに。
0.91TB。
それは、数百万枚の思い出の写真や、数千時間の音楽が、一瞬にして存在を許されず消滅したデジタル墓標。
金額に換算すれば、約4,800円分の価値が、誰の手にも渡ることなく煙のように消えた計算になる。
「昨今の消費増税のあおりを喰らって、1割減らされたに違いない。財務省に減税を求めたい」
編集長はそう言って天を仰ぎ、おどけてみせた。
でも、違うんす。これは政府の陰謀でもなければ、Amazonの配送ミスでもない。
指が10本ある「人間」が作った10進法の夢と、電流のONとOFFだけで世界を構築する「コンピューター」が頑なに守り続ける2進法のリアル。
その二つの文明が激突する境界線にぽっかりと開いた暗黒のブラックホール――それこそが、この消えた0.91TBの正体だったんす。
人間がより大きな未来を夢見て、メガ、ギガ、テラと、単位の階段を上がれば上がるほど、この「虚空のカツアゲ率」は静かに、しかし確実にその牙を剥いていく。
はたして、未来の超大容量時代(ペタ、エクサ、ゼタ)に突入したとき、私たちのデータはどれほど虚空に呑まれていくのか?
そして、消え去る国家予算規模の「幻の領域」を前に、人間とAIは何を思うのか。
左手に電卓を、右手にスプレッドシートを携えて、このデジタル空間の最も深くてゲスい「仕様の罠」を、今からガチで集計(ハッキング)してみせるっす!
(――ジャン!! ここで一気にドラムが鳴って、いつもの下実のパチパチ電卓叩く音がBGMになるっす!)
なぜコンピューターは平気で嘘をつくのか?
~居酒屋「二進数」のゲスいチャージシステム~
前略、消えた0.91TBの虚空を見つめる読者の皆さん。ここからは、なぜこんな悲劇が起きるのか、そのからくりを世界一わかりやすく解説していくっす。
結論から言うと、これはメーカーが悪いわけでも、Windowsがへそを曲げているわけでもないっす。
ただ単純に、
「人間とコンピューターの、数字の数え方が致命的にズレている」
原因はこれだけなんっすよね。
私たち人間は、基本的に「10進法」の世界に生きているじゃないっすか。
理由はカンタン、人間の指が両手合わせて10本あるからっす。
だから、10が10個集まったら100、100が10個集まったら1000、という風に「1,000(10の3乗)」ごとに単位が上がっていく。
1,000グラムは1キログラムだし、1,000メートルは1キロメートル。メーカーがハードディスクの箱に書く「10TB」も、この「1,000ごとに単位が上がるルール」で計算されているっす。
一方で、コンピューターの脳みそは頑固な「2進法」っす。彼らの世界には、電気のONとOFF、つまり「0」と「1」の2種類しか存在しないんすよね。
そんな彼らに「人間界のルールに合わせて、1,000ごとに単位を上げてね」ってお願いすると、コンピューターはフリーズしちゃうんっすよ。だって、2を何回掛け算しても、ぴったり「1,000」にはならないからっす。
2、4、8、16、32、64、128、256、512……ほら、次を掛けたら「1,024(2の10乗)」になっちゃうじゃないっすか。
そのため、コンピューターは「あ、すんません。1,000っていうキリのいい数字は無理なんで、一番近い『1,024』を1つの区切り(キロ)にさせてもらうっすわ!」って勝手に決めちゃったんすよね。
これが、すべての悲劇の引き金っす。
これだけだと、まだ「たった24のズレでしょ? 可愛いもんじゃん」って思うかもしれないっす。
じゃあ、ここで経理担当の下実流に、これを「居酒屋の会計」に例えてみるっすね。
想像してみてほしいっす。
あなたが仕事帰りに、店の看板に「お通し・飲み放題込み、1,000円ポッキリ!」ってデカデカと書かれた格安居酒屋に入ったとするじゃないっすか。
「お、1,000円ポッキリなら安心っすね!」って喜んで、お腹いっぱい飲んで、お会計のためにレジに行く。
財布からきっちり1,000円札を1枚出して、店員さんに「ごちそうさま!」って渡すっすよね。
そしたら、レジの店員(Windows)が、真顔でこう言ってくるんすよ。
「あ、お客さん。うち、コンピューター仕様の2進数で営業してるんで、1,024円になります」
「えっ? いや、看板に1,000円ポッキリって書いてあったじゃん!」って抗議するじゃないっすか。
そしたら店員は平然とこう返すっす。
「いや〜、うちの世界では1,024円が『1つの区切り』なんすよね。
だからお客さんが持ってきた1,000円札は、うちの店では『976円ぶん』の価値しか持たないんすよ。
端数の24円足りないんで、今すぐここで置いていってくださいっす」
……めちゃくちゃゲスい居酒屋じゃないっすか(笑)!?
毎回毎回、1,000円ごとに24円ずつ謎のチャージをカツアゲされるシステム。
これが、コンピューターの脳内で起きていることの正体なんっす。
この居酒屋の恐ろしいところは、コースのランク(単位)が上がれば上がるほど、カツアゲされる金額が「倍々ゲーム」で跳ね上がっていく点っす。
1回目(キロ:KB):1,000に対して1,024(ズレ率:約2.4%)
2回目(メガ:MB):1,000×1,000=100万に対して、1,024×1,024=104万8,576(ズレ率:約4.7%)
3回目(ギガ:GB):ズレ率は約6.9%にアップ。
4回目(テラ:TB):ついにズレ率は約9.1%にまで大増税されるっす!
今回の編集長の10TB HDDは、まさにこの「テラ(4回目の掛け算)」の罠に見事にはまったわけっすね。
メーカー側は1000の4乗(10兆バイト)のつもりで「10TB」と出荷した。
でもWindows側は1024の4乗を1TBだと頑なに主張するから、10兆バイトを1兆995億1162万7776バイトで割り算して、
「あ、これ9.09TBしか入ってないっすね!」って冷たく言い放つ。
ここで、ガジェット雑誌としてのハクをつけるために、データ整理担当として「虚空のカツアゲ率(ズレ率)」を導き出すガチの理論式を提示しておくっす。
$$
\text{カツアゲ率(ズレ率)} = 1 - \left(\frac{1,000}{1,024}\right)^n
$$
※ n の値は、単位の階層を表すっす(KBなら n=1, MBなら n=2, GBなら n=3, TBなら n=4 ……)
分数の中身(1,000/1,024)は、1よりほんの少し小さい数字っすよね。でも、これを4回、5回と掛け算(累乗)していくと、数字はどんどん小さくなっていく。
つまり、単位の階層( n )が上がれば上がるほど、右側の引き算される数字が小さくなり、結果として「カツアゲ率」はどこまでも跳ね上がり続ける絶望の構造になっているんすよ!
「テラ」の段階で約9.1%のカツアゲ。金額にして約4,800円が虚空に消える居酒屋。
じゃあ、この先の未来、人類が「ペタ」「エクサ」「ゼタ」という超大容量の神の領域に足を踏み入れたとき、このゲスい居酒屋はどれほどの暴利を貪るようになるのか?
次章、スプレッドシートが弾き出した
「絶望の未来試算表」を、いよいよ大公開するっす……!
(げみ)
ペガちゃんもびっくり!
次章【絶望のシミュレーション】単位のインフレと消え去る国家予算に続く


