WEBデザイナーのその後|「ひだまり」の安請け合いと、事務所の新しい風|デザインのあうんVol.2.4
こんにちは。d-fractalのデザイナー、Ochiです。
先日の休日のこと。私はいつもの神楽坂のカフェで、新商品の「桜のモンブラン」を前に、至福の時を過ごしていました。
「今井くん、これ、桜の塩漬けのアクセントが絶妙ね。でも、下のメレンゲがもう少しサクサクしてたら、もっと上のクリームの繊細さが引き立つと思わない?」
「なるほど……。Ochiさん、相変わらず手厳しいっすね(笑)」
アルバイトの今井くんとそんな「新作批評」で盛り上がっていると、カランとドアベルが鳴り、一人の青年が入ってきました。先日、うちの事務所に見学に来たWEBデザイナーの竹田くんです。
「あ、Ochiさん! 先日は本当にありがとうございました」
「あら竹田くん、奇遇ね。……で、どうだった? うちを見学してみて」
「はい。想像していた通り、いや、それ以上に刺激的で。さらに興味が湧きました」
丁寧にお礼を言う彼の表情は、先日の見学時よりもずっと晴れやかで、何かを決意したような強さがありました。案内した甲斐があったわね、なんて鼻高々に頷いていたのですが、次に彼が口にした言葉に、私は思わず固まってしまいました。
「それで……。恥のかきついでに、厚かましいのは承知でお願いしたいのですが。d-fractalさんに『体験入社』をさせていただくことはできませんでしょうか?」
「は……?」
あまりに唐突な申し出に、しばし沈黙が流れます。
「いえ、ご無理ならかまいません! 突然すみません!」
慌ててフォローを入れる彼を前に、私の脳内はフル回転です。体験入社といっても、うちの事務所は決して広くない。それに、いくら見習いとはいえ、プロの時間を割いて教えるわけですし、お給料だって発生する。
「うーん……。一度ボスに相談してみるけど、そうね、いきなり『入社』というよりは、まずは『アルバイト扱い』という形の方が、ボスにも話が通りやすいと思うの」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
パッと明るくなった彼の顔。……やってしまった。また私の悪い癖、安請け合いが出てしまいました。明日、事務所でボスとTanakaさんに何て切り出そうか。目の前の桜のモンブランの味も一瞬で吹き飛び、私はただただ頭を抱えるしかありませんでした。
◼️事務所の「選別会議」
そして今日。重い腰を上げて、私はボスのデスクに向かいました。
「ボス、おり入ってご相談があるんですが……」
「なんや、珍しいな。改まって。ええよ、聞いたるで」
意を決して、竹田くんがアルバイトとしてうちに来たがっていることを伝えました。
「はあ。そりゃまた、ずいぶんと唐突な話やな(笑)」
ボスが面白そうにニヤリとした瞬間、隣のデスクで写真の切り抜き作業に没頭していたTanakaさんが、鋭い突っ込みを入れながら参戦してきました。
「Ochiさん、ちょっと何言ってるの? あの竹田くんとやら、バイトに来るってことは当然、即戦力になるんでしょうね? うちは素人にやらせるような雑用なんて、一つもないわよ」
冷や汗が流れます。そこへ、ボスが助け船を出してくれました。
「まあそう言うなや、Tanaka(笑)。いやな、正直言うて、俺もちょっとおもろいかもな、と思てんねん」
「ボス、面白がってる場合ですか?」
「いやな、今うちではWEBのデザインは受けるけど、コーディングまでは手が回らんやろ? その辺のことで彼から面白いアイディアが聞けるかもしれんしな。ちょっと興味あるねん」
ボスの言葉に、私の心にパッと希望の光が差しました。やっぱりこの人は、新しい「風」を面白がれる人なんだ。しかし、Tanakaさんの追撃は止まりません。
「ボス、何を楽観的な。そもそも、彼のデスクはどうするんですか。そんなに広い事務所じゃないんですよ、ここ」
「Tanaka、お前相変わらずズバズバ言うな(笑)。その件についてはな、俺ももうちょい広いとこに引っ越す計画はあんねん。まあ、とりあえずはあそこの応接テーブルあるやろ? あそこにいてもらういう案もある。一時的やからな」
◼️期間限定の「試用期間」
結局、ボスの「面白そうやん」という一言で、竹田くんの受け入れが決まりました。
Tanakaさんは最後まで「……仕事の邪魔にだけはしないでね」と不承不承といった様子でしたが、それでもボスの「引っ越し計画」という言葉に少し毒気を抜かれたのか、渋々ながら納得してくれました。
「まあ、雇うと言うても、あくまでバイトや。期間を決めて、週に数日。給料も、最初はうちの規定の最低限からやで」
ボスはそう言って、私に視線を戻しました。
「竹田くんには、俺から直接条件を伝える。お前が安請け合いした分、教育係はお前やと、言いたいところやがTanak,おまえやってくれよ」
「は?ボス、冗談きついですよ」
「そういうな、Ochiちゃんかてまだまだ勉強中やろ、まともの教えられるやつお前しかおらんやん、な、頼むわ」
「まあボスにそこまで言われちゃ断れませんけど、Ochiさん、あなたその竹田くんとやらにいっておきなさい、厳しいわよって」
なんとか希望は通りましたが、安堵と同時に、ズシリとした責任が肩に乗ったのを感じました。WEBからやってくる新しい風が、d-fractalという密度の濃い現場で、どう変化していくのか。
明日、竹田くんに連絡を入れなければなりません。d-fractalの「泥臭い現場」への招待状。彼はそれを手にして、どんな顔をするでしょうか。
text by Ochi (d-fractal)
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