ドジャースの最大のライバル=SDパドレス衝撃のM&A ~6,000億円は高いのか~
(本件に関する更なる詳細分析記事はこちら)
2026/5/3、前々から売却のプロセスに入っていると報道のあったサンディエゴ・パドレスの株式の売却先が、イングランド・プレミアリーグのチェルシーで共同オーナーを務めるホセ・E・フェリシアーノ氏の投資家グループに決まったとの報道が出た。
金額は39億USドル(日本円で6,000億円超)とMLBの球団の売却金額としては史上最高の金額となった(これまでの最高金額は2020年のメッツの24億USドル)。
日本のプロ野球チームやJリーグのM&A案件においては、過去200億円(2012年のホークス)が最高額と言われる中、その30倍の金額でのディールは非常に巨額に見えるが、果たしてこの金額は本質的に高いと言えるのか、いくつかの切り口から分析してみようと思う。
市場価格との比較
スポーツフランチャイズの市場価値を毎年算出している著名メディアにForbesとSporticoがある。それぞれ2025年時点のパドレスの価値は19.5億USドル・23.1億USドルだった。その後、売却報道が出た後の直近2026年の評価ではどちらも31億USドルの評価に1年で+30~60%ジャンプアップしていた。最終的な売却価格はそこから25%強のプレミアムが乗った39億USドル。
パドレスのオーナーであったPeter Seidler氏が2023年に亡くなり、その後オーナーグループ内で意思決定の統一の難易度が上がってしまったことが売却の背景とも言われている中、Seidlerファミリーが相続資産価値の最大化を目指しプロセスを進めたことから想像以上にプレミアムが大きくなったと言えそうだ。
その他プレミアムに繋がった要素としては、圧倒的に売り手側が、買い手に対して有利なポジションに立てたことがある。入札者もFeliciano氏の他に、エバートン・ASローマのオーナーのDan Friedkin氏、NBAデトロイト・ピストンズオーナーのTom Gores氏、NBAゴールデンステートウォーリアーズオーナーのJoe Lacob氏などが入札したと言われており、買い手候補が非常に多いディールとなった。
また、カリフォルニアエリアのスポーツフランチャイズ案件は人気で希少価値が高いこと、フランチャイズのサンディエゴの主要プロスポーツチームはパドレスのみという点も希少性を高めることに繋がった。
直近の他ディールとの比較
39億USドルという数字は一見非常に高く見えるが、直近のNBAやNFLのM&Aディールと比べると、実は相対的に割安という全く違った側面が見えてくる。
2023年:ワシントン・コマンダーズ(NFL) - 60億USドル
2025年:ボストン・セルティクス(NBA) - 63億USドル
2025年:ポートランド・トレイルブレイザーズ(NBA) - 41億USドル
2025年:ロサンゼルス・レイカーズ(NBA) - 100億USドル
2026年:サンディエゴ・パドレス(MLB)- 39億USドル
これは、NFLやNBAのメディア権収益の規模の大きさやNBAのグローバルIPの強さなどが相対的にMLBよりも評価されていることが背景にある。こうしたリーグ事業の強さの差が、MLBの歴史の中では史上最高額でありながら、NBAやNFLのフランチャイズ比較で見ると中庸な数字になるというギャップを生み出している。
なお、アメリカプロスポーツリーグは続々とPEファンドの参入を解禁しており、MLBもPEファンドが各チームの30%まで最大保有可能となっている(NBAも上限30%と同様で、NFLは10%が上限)。こうした金融投資家の保有が可能となったことで、株式の流動性が高まり、高い価値がつきやすい市況になっていることも、見逃せないトレンドである。
パドレスの財務数値からの妥当性分析
報道によるとパドレスの直近の売上は5.3億USドル(約830億円)、EBITDAは20百万ドル(約30億円)。今回の買収価格39億USドルは売上高マルチプル(PSR)で7.4倍。これはMLBの平均評価のマルチプル6.6倍よりは高いが、NFLやNBA平均の9~11倍と比べるとまだ割安な水準とも言える。
EBITDA倍率では195倍と異常値に見えるが、これはパドレスが2023年シーズン途中にローカルRSN(ケーブルTV局であるBally Sports San Diego)の破綻によるローカルメディア契約の収益を失ったことに起因して、利益が一時的に落ち込んでいるためであり、今後MLBがローカルメディア収益を一括プールして各チームに均等分配するモデルへの移行(28~29年ごろ)を目指している状況を踏まえると、大きく改善する余地がある。
例えばMLBの中規模市場のローカルメディア収益である1億ドルをこの利益に追加すると1.2億ドルのEBITDAになり、今回の39億ドルの売却価格はEBITDAの33倍と、引き続き高い水準ではあるが、オーナーシップの希少性など考慮すると納得できる水準と言えるだろう。
終わりに
パドレスの39億USドルのM&AはMLB史上最高額と高く見えるが、希少性の高いチームの売却案件であること、NBAやNFLのM&A価値も高騰していること、PEなどの金融投資家の参入により流動性も上がってきていること、さらにMLBの放映権分配強化も進んでいる、といった背景も踏まえると、その金額についても納得感のある数字であることが見えてくる。
そして、こうした巨額のスポーツチームのM&Aがなぜアメリカ市場で起こっているかを分析することは、日本のスポーツ市場にとっても示唆がある。競技力は世界トップ水準に追いつくスポーツも増えてきている中、ビジネス側でもどうキャッチアップできるのか、そうした考えを巡らせつつ、何より、今シーズン、パドレスがどう大谷率いるドジャースと戦っていくか、ライバル争いにも注目していきたい。
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