動かない人が、一番伝わる理由——植松努さんのTEDスピーチから考える「動かない身体」の力
もうすぐお盆ですね。
離れて暮らす家族を思ったり、もうこの世にいない大切な人を思い出したり…。
私は今朝、ウォーキングしながら亡くなった父を思い出してました。
夏休み、よく一緒にウォーキングしたなぁ…。

そんな「誰かを思う」時間が増える時期だからこそ、今日は、私が何度観ても胸が熱くなるスピーチを一つ、ご紹介したいと思います。
植松努さんの「思うは招く」。
北海道の小さな町工場の経営者でありながら、独学でロケット開発に挑み続けてきた方のTEDxSapporoでのスピーチです。
ご存じの方も多いかもしれません。YouTubeでは500万回以上再生され、TEDx historyのベスト50にも選ばれています。
このスピーチをご覧になった方は、元気とやる気と勇気が湧いたのではありませんか?
胸が熱くなりますよね。
でも、グローバル・スピーチコーチとして、何度もこのスピーチを観ている私は、別のところにも惹きつけられます。
植松さんは、あまり動かないのです。
それなのに、なぜ、これほどまでに人を動かすのでしょうか?
今日は、Body Speech(身体で伝える言葉)の視点から、このスピーチを解剖してみたいと思います。
植松努さんのTEDスピーチは、なぜ動かないのに伝わるのか?
以前のnoteでも取り上げさせていただきましたが、例えば、伝説のTEDスピーチをされたブレネー・ブラウンのように、会場を巻き込みながら、笑いと涙を織り交ぜて話す方もいます。
身体を大きく使い、間を操り、聴衆の感情を波のように動かしていく。
それも、間違いなく「伝わる技術」の一つです。
でも、植松さんは、そのタイプとはまったく違います。
レッドカーペット中央に立ち、ほぼその場所から動かない。
大きな身振りもなく、派手な抑揚もない。
淡々と、ご自分の人生を語っていきます。
誤解を恐れずに言えば、若干、棒立ちに見えるかもしれません。
それなのに、なぜ、あれほど多くの人の心を動かすのでしょうか?
ここで、Body Speech(ボディスピーチ)の考え方が出てきます。
Body Speechとは、言葉の内容だけでなく、身体・声・視線・呼吸・動きまで含めて、話し手の意図を一貫して伝える方法です。
だからBody Speechでは、「どれだけ動くか」だけを見ません。
むしろ、なぜ、その身体は今、そう動いているのか?
または、なぜ、動かなくても伝わるのか?
そこを見ていきます。
① 声の詰まりを隠さない
植松さんのスピーチには、中盤に言葉に詰まる瞬間があります。
特に、幼い頃に自分の可能性を信じてくれた、お母さんやおばあちゃん、おじいちゃんのことを語るとき。
声のトーンが揺れたり、手を鼻に持っていったり、涙を抑えるような動きが出てきます。
そこ、グッときますよね。
リアルな心の動き。
そのままをナチュラルに表現されてます。
流暢によどみなく話すことが「上手なスピーチ」だと、私たちはつい思い込んでしまいます。
でも、実際には、それだけが「伝わる話し方」ではありません。
言葉に詰まることそのものが、その人の記憶や感情の動きを感じさせることがあります。
聴衆は、言葉だけを聞いているわけではありません。
声の震え、呼吸、間、表情、身体の微細な変化。
そうした情報も一緒に受け取っています。
だから、完璧に流暢に話すことよりも、
「それでも伝えようとしている」
という姿勢のほうが、強く伝わることがあります。
これは、演技の技術としても重要な感覚です。
表現者として舞台に40年近く立ってきた私自身、「完璧に」話せたときより、感情移入して言葉に詰まってしまったときのほうが、お客様の反応が良かった経験を何度もありました。
意外にも、流暢さだけでは信頼を生みません。
詰まりながらも、それでも話そうとする。
その身体そのものが、伝えているのです。
クライアント様から、よく受ける質問があります。
「感情移入すると、暗記した原稿を忘れてしまうのですが、どうしたらいいですか?」
私もクライアント様をより理解するために、自らスピーチ登壇をしているので、その悩み、本当によく分かります。
実は、これはあることをするだけで解決できます。
長くなるので、また別の機会にお話したいなと思ってます。
② 視線が、聴衆ではなく「記憶」に向かう
もう一つ、注目してほしいポイントがあります。
植松さんがご自身の過去、特に先生のことを語る瞬間。
目の焦点が、ふっと変わることに気づいていますでしょうか?
会場を見渡していた視線が下にさがる。
まるで、今ここにいる聴衆ではなく、ご自身の記憶の中に視線が向かうように見えます。
このパートを観るたびに、胸が締めつけられるような苦しさがあります。
視線が「今ここ」から少し離れるだけで、その人が記憶をたどっているように感じられることがあります。
「これから過去のつらい体験を話します」と説明しなくても、身体がすでに、その過去を語っている。
これがBody Speechの面白いところです。
私たちは、言葉になる前の情報も受け取っています。
だからこそ、スピーチで大切なのは、常に聴衆を見続けることだけではありません。
「誰に向かって話しているのか」だけでなく「今、自分は何を思い出しているのか」?
その違いが、視線にも表れます。
③ 「動かない」と「固まっている」は違う
そして、私が特に注目してほしいのが、植松さんの立ち方です。
緊張すると、身体はたいていどちらかの極端に振れます。
硬直して、一切動けなくなる。
あるいは、落ち着かなくなって、身体を動かし続ける。
でも、植松さんは、そのどちらでもありません。
両手を身体の横に垂らしたまま、実はごくわずかに左右に身体を揺らしています。
そして、重心はやや左寄り。
大きく動き回るわけでも、足を踏み替えて落ち着きなく揺れるわけでもない。
会場の左右に満遍なく語りかけているような、小さな動きが感じられます。ここが、とても面白い。
「動かない」と「固まっている」は、同じではないのです。
植松さんの身体は、完全に止まっているわけではありません。
必要以上に動いていない。
そこには、ごく小さな揺らぎがあります。
たとえば、自転車に乗るとき、ゆっくり運転するとハンドルが左右に揺れてしまいます。
でも、ある程度のスピードを保つと、揺れながらも安定して進める。
私は、植松さんの身体にも、それに似た「揺らぎを残した安定」を感じます。
もちろん、ご本人の内側で何が起きているかは、ご本人にしか分かりません。
でも、少なくとも私には、
「緊張で固まっている人」ではなく、「自分の言葉を自分の身体で話している人」
として見えるのです。
ここに、Body Speechの重要な考え方があります。
外側の安定は、内側の一致から生まれる。
伝えたいこと。
実際に話している言葉。
そして、自分の中で本当に思っていること。
この3つが同じ方向を向いているとき、身体は「完全静止」ではなく、必要な動きだけを残した自然な状態になっていきます。
逆に、この3つがバラバラなとき、身体はごまかしきれません。
不自然な揺れになったり、必要以上に動いたり、逆に硬直したりすることがあります。
Body Speechで大切なのは、動きを増やすことではありません。
その人の中にあるものと、外に出ているものを一致させていくこと。
植松さんのわずかな揺れと、崩れない重心から、私はそんな「内側の一致」を感じます。
日常の言葉で語る、ということ
植松さんのスピーチには、難しい言葉がほとんど出てきません。
「ちっこい自信」
「宇宙なんちゅうものは」
こうした飾らない日常の言葉づかいが、随所に散りばめられています。
そして、会場からは何度も笑いが起きます。
これは、実はブレネー・ブラウンとも共通するところがあります。
彼女もまた研究者でありながら、専門的な言葉だけで話すのではなく、くだけた表現やユーモアを織り交ぜながら話します。
二人とも、親しみやすさが強みです。
専門用語や堅い言葉が続くと、聴衆は「ちゃんと理解しなければ」と構えてしまうことがあります。
「この人は自分よりずっと詳しい人だ」
「ちゃんと理解できるだろうか?」
そんな意識が、話を素直に受け取ることの妨げになることもあります。
一方、日常の言葉やユーモアで話す人には、聴衆が肩の力を抜いて話を受け取りやすい。
植松さんとブレネー・ブラウンは、見た目のスタイルはまったく違います。
それでも、聴衆との間にある心理的な距離を縮める、という点では、共通しているのです。
「説明」を「セリフ」に変えると、聴衆は物語の中に入る
もう一つ、植松さんのスピーチで印象的なのが、「セリフ」の多さです。
お母さんが教えてくれた言葉——
「思うは招く」
先生が言った、「どーせ無理」
植松さんは、それを説明するのではなく、まるでその場にいたかのように、セリフとして再現します。
これは、実はとても高度な技術です。
「先生はよく否定的な言葉を使っていました」と説明されるのと、
「先生は『どーせ無理』ってよく言ってたんです」
とセリフで聞かされるのとでは、受け取り方がまったく違いますよね?
説明は聴衆の「思考」に届きます。
セリフは、聴衆に「体験」として届きます。
セリフを聞いた瞬間、私たちは頭の中で、その場面を思い浮かべます。
誰が、どんな顔で、どんな声で、その言葉を言ったのか?
その瞬間、聴衆は客席から、物語の中へと少し移動する。
いわゆる「没入」が起こりやすくなるのです。
ブレネー・ブラウンも、TEDトークや著書の中で、この手法を頻繁に使っています。
「説明」を「描写」に変える。
これだけでも、聴衆との距離は大きく変わります。
「動」と「静」は、実は同じ原理でできている
ここまで見てくると、面白いことに気づきます。
植松さんとブレネー・ブラウンは、見た目のアプローチがまったく違います。
植松さんは、ほとんど動かない。
一方、ブレネー・ブラウンは、身体を使いながら会場を巻き込んでいく。
でも、二人には共通する核があります。
日常の言葉で、聴衆との距離を縮める
セリフを使い、聴衆を物語の中に引き込む
自分の言葉を、自分の身体で語っている
言葉と身体と、そこにある思いが同じ方向を向いている
つまり、「動」と「静」は、真逆の方法ではないのです。
どちらも、「何を伝えたいのか」と「身体がどう存在しているのか」が一致している。
その結果として、動く人は動く。
動かない人は、動かない。
Body Speechでは、
「もっと手を動かしましょう」
「もっと表情をつけましょう」
とは、必ずしも言いません。
その人に必要な動きだけを残す。
それが、Body Speechの考える身体の使い方です。
動きを「足す」ことだけが、伝わる話し方ではありません。
植松さんのように、動かないことも、一つの立派な「伝える技術」なのです。
そのほかにも、オープニングですぐに聴衆を引き込む話法が織り込まれています。
スピーチでもプレゼンでも、冒頭の数秒で印象が決まってしまう。
だから、見せ方はすごく大事。
植松さんは、それをナチュラルにされているところが、本当にすごいですよね。
お盆に思い出したいこと
「思うは招く」というスピーチ・タイトルには、植松さんのある想いが込められています。
幼い頃、周りの大人たちから「どうせ無理」と言われ続けても、彼のそばには、いつも彼の可能性を信じ続けてくれたご家族がいました。
その存在を思い、そして今も、その言葉を胸に生き続けていらっしゃいます。
お盆はまさに、そんな「思い続けてくれた人」を思い出す時期ではないでしょうか?
離れていても。
もうこの世にいなくても。
誰かがあなたを思い続けてくれた記憶は、今のあなたの中にちゃんと生きています。
私も今朝、父を思い出しながら歩いていました。
そして、こういう「思い」は、言葉にしなくても身体のどこかに残っているのかもしれない。
植松さんのTEDスピーチが、あれほどまでに私たちの心を揺さぶるのは、彼が言葉を通して、ただ自分の人生を語っているだけではなく、
自分を信じてくれた人たちの存在まで、一緒に語っているからなのかもしれません。
だから、私たちの身体にも、その「思い」が伝わってくる。
私はそんなふうに感じています。
「静けさ」も、技術として設計できる
もしあなたが、
人前に立つと、いつも身体がこわばってしまう。
緊張すると、身体が動かなくなる。
声が震えてしまう。
そんなお悩みを持っているとしたら、ご提案があります。
「動かない=ダメ」ではありません。
植松さんのTEDスピーチが教えてくれるように、その「動かなさ」が、むしろその人の言葉を強くすることがあります。
大切なのは、緊張しないことではありません。
緊張している自分の身体を、どう扱うか?
そして、その身体と、何を伝えたいのかを、どう一致させるか?
です。
なぜ、声が震えても信頼が生まれることがあるのか?
なぜ、視線の向け方一つで、聴衆の受け取り方が変わるのか?
なぜ、動かない身体が、逆に説得力を持つことがあるのか?
こうした「身体の設計図」を、体系的に学べるUdemy講座をご用意しています。
英語コンテンツですが、日本語字幕付きで学んでいただけます。
自分には話す才能がないと思い込んでいる方。
静かなタイプなのに、無理に元気に振る舞おうとして疲れてしまう方。
人前で「うまく話そう」とすればするほど、逆に空回りしてしまう方。
そんなあなたにこそ、知ってほしい技術です。
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Before you speak, let your body speak.
話す前に、あなたの身体に語らせよう。
緊張でこわばる自分を責めなくても大丈夫。
声が震える自分を、恥ずかしがらなくても大丈夫。
あなたの身体は、言葉になる前から、ずっと話しています。
その身体に何を語らせるのか?
そこから、伝わり方は変わっていきます。
人生は舞台。主役は、あなたです。
この記事をマガジンでご紹介くださり、ありがとうございました✨
マガジンで取り上げてくださる方がいらっしゃるお蔭で、気づいたら毎日更新できるようになりました。
私もいつも、皆さんのように応援できる側になりたいと思いながら、今は有り難く応援をいただいてます🥰
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