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モストマスキュラー!13「救世主」【#創作大賞2025 #恋愛小説部門】


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 私が部室にお邪魔してから一ヶ月。相変わらず、秀ちゃんの減量期は続いている。
 余程嬉しかったのか、チーティングでは「大好きな唐揚げ定食を完食したんだ!」と、メッセージアプリで報告を受けた。そういうところがとても可愛いと思う。

 毎週毎週逢うけれど、秀ちゃんは随分と痩せたと思う。
 顔は明らかに小さくなり、頬はこけ、着ているバスケTシャツの袖口から見える腕も、以前より細さが際立ってきている。ただし、まだ脂肪が落ち切っていないのか、筋肉が浮き出ているかと言われると謎だった。
 それに引き換え肌の色の変化は著しく、バリ島でも行ったのかというくらい真っ黒に焼けている。

 あの日、秀ちゃんに手を握られた理由はわからないまま、訊けないままでいる。ああ、なんて私は臆病なんだろう。
 口返事だけで決まってしまったマネージャー業務も大したことはしていなくて、部室の掃除だけだ。週に一度部室に行くか行かないか、そんなレベルで大丈夫なのか……本当にマネージャーなのかも疑問だ。

 いつものバスケット中、私は秀ちゃんに尋ねた。

「そういえば、どうやって焼いてるの? 外で寝転んで?」
「違うよ、日サロ」
「ひ、日サロぉ!?」

 あまりにも突拍子もない答えに、開いた口が塞がらない。
 まさか、あんな専門的な施設で、このごく普通の秀ちゃんが肌を焼いているとは、想像の斜め上をいく事実だった。

「この時期から焼かないとね、間に合わないんだ。日サロでは常連だから別に何にも言われないけどね、周りから不審者扱いされるのが辛いよね」

 確かに、今の焼け方は時期外れだし、不審者扱いされてもおかしくはない。

「お腹周りはどうなの?」
「うーん、イマイチなんだよね」
「物は試しだから、ちょっと脱いでよ」
「エッチ! やだよ、全然だもん」
「いいじゃない、減るものじゃないし。それに見られた方が痩せるんだよ? 知ってる?」
「やめてー!」

 私が強引に秀ちゃんのTシャツをめくる。すると、あれだけポヨンとしていたお腹ではなかった。

「あら、ちょっとは減ったんじゃない?」
「そ、そうかな」
「でも、まだ掴めそうだよね」
「だーかーらー、そういうことはしないでってばー」

 本気で秀ちゃんが嫌がってる。
 ……やばい、楽しい。好きな子をいじめる男子の心境ってこんな感じなのかな?
 そんなじゃれ合いをしていると、他のサークルメンバーに笑われる。

「秀ちゃんと綾羽ちゃんって本当に仲良いよね」
「付き合ってるの?」

 秀ちゃんと私は、声を揃えて叫んだ。

「付き合ってない!」

「おお、タカシ。バイト終わり?」
「ああ、お前たちはバスケか」
「タカシくん、お疲れ様」

 いつも通りの金曜日の夜、私のお城の前で車が停まると、バイト帰りのタカシくんと遭遇。最近はタカシくんとも普通に会話できるようになってきた。
 私と秀ちゃんは車から降りて、タカシくんと立ち話を始める。

「バスケもいいけど、部の存続も考えろよ。ちゃんと後輩を育てないと、廃部になるぞ」
「そうなんだよね。育てるのもだけどさ、実績も残さないと部員入らないじゃん?」
「河野は置いといて、明智と田中な。素質ある二人なんだから、もっとしっかり指導しないとダメだ、ってこの間アキラにも説教した」
「さすがスレイプニルの救世主だな」

 なるべく二人の会話を邪魔せずにいようと思っていたところで、気になるワードが出てきたので「救世主?」と尋ねる。

「実はね」

 秀ちゃんが説明しようとすると「よせよ、別にいいだろ」と秀ちゃんの口を手で塞いで遮ろうとするタカシくん。
 ますます聞きたくなったので「秀ちゃん、教えて!」と軽く叫んだら、タカシくんがいともアッサリと遮るのをやめた。

「言うよ? いいの?」と秀ちゃんが大きな瞳をさらに大きく見開き、タカシくんを見た。

「どうせすぐバレることだ。俺が話すよ」

 諦めたような口調でタカシくんが苦笑いを浮かべた。

 ──タカシくんは、たった一人で廃部寸前だったラグビー部を、一年生の頃から頑張って今の大所帯の部活にまで育て上げた経歴があった。彼は、淡々としながらも明るい口調で、しかしその言葉の端々には、一人で全てを背負い込んだ苦労が滲んでいた。
 先輩も後輩もいないから、トレーニングメニューも自分で考えた。OBとの繋がりを復活させて、対外試合も自分で組んでいたと。

 一人で立ち向かう、その途方もない勇気。
 その話を聞きながら、私の胸には熱いものが込み上げてきた。
 彼が経験した孤独と、それでも諦めずに進み続けた強さに、私の瞼の裏に、あの日の夢を否定された光景が重なる。私も、それくらいの勇気を持って、私の夢に挑まなきゃいけないんだと、心に強く誓った、その瞬間だった。

「えっ、何で泣いてるの!」

 男子二人がギョッとした表情で私を見ている。私はというと、止めようもないほどポロポロと涙をこぼしていて、バスケで使っていたマフラータオルを顔に押し付けた。

「ご、ごめん。感動しちゃって……この手の話に弱いんだ、私」

 ははあ、と秀ちゃんは納得したような表情で頷き、タカシくんは何故か照れているように見えた。

「すごいね、タカシくん。だって今もボディビル部を救おうとしてくれてるんだもんね。私もマネージャーとして出来る限りのことするね。ありがとう」
「別に礼を言われるようなこと、言ってねーんだけどな……」
「おお、タカシが照れてる」
「うるせーな」

 秀ちゃんは調子に乗って、タカシくんにウザ絡みをしてヘッドロックをかけられていた。自業自得。

 大会まで、あと四ヶ月。
 私も、私にできることを頑張って探したい。


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