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人事戦略って、何から考えればいいの?

「御社には人事戦略はありますか?」

こう言われて、少し戸惑った経験はありませんか?

制度はたくさんある。育成も評価も整備されている。けれど、「これが戦略です」と胸を張って言えるものがあるかというと、正直モヤモヤする。

私自身、人事として歩み始めた頃、同じ感覚を持っていました。

他方で、巷にあふれる人事戦略に関する書籍は、どこか抽象的で、実践性に欠ける。何より長くて読み切れない...。

もしそうなら、ぜひ以下の流れを参考にしていただきたいと思います。

あくまで個人的な経験に基づいたナレッジですが、お役に立てるかもしれません。



ステップ① 経営の「意志」から始める


人事戦略の起点は、人事の内側ではなく、常に経営の問いにあります。

「挑戦し続ける組織にしたい」
「新規事業にフィットする人材を増やしたい」
「リーダーが育ってこない」

こうした言葉が投げかけられたときに、その背景にある「構造的な阻害要因」に目を向けられるかどうかが重要です。

たとえば、挑戦が生まれない背景には、評価基準が既存の成果主義に偏っていることや、失敗への許容が制度的に存在しないことがあるかもしれません。「育成ができていない」と言われるが、実際には現場のマネジメントの期待値が曖昧なままで、育成の責任の所在が不明確なだけかもしれない。

表層の課題に飛びつかず、経営の言葉の裏にある「組織の未処理の課題」を、人と仕組みの構造で翻訳し直す。人事戦略は、そこから始まります。


ステップ② 「変えたい行動」を行動レベルで言語化する


人事戦略は、本質的には「あるべき行動のデザイン」です。

どんな制度をつくるにせよ、それによって現場でどんな行動が増え、何が減っていくのか。ここを明確に描けなければ、制度は絵に描いた餅になります。

たとえば、「自律的に動ける人材を増やしたい」と言うとき。どんな行動が自律的で、現時点で何が阻害されているのか、どのようなプロセスでその行動が“文化”になっていくのか。そこまで描き切る必要があります。

以前、私が見聞きした事例だと、ある企業で「現場が挑戦しない」という声を受けて、評価制度に「挑戦行動」の加点項目を導入しました。けれど半年後、挑戦は増えませんでした。なぜか。

実際には、挑戦後の失敗に対して厳しく問い詰める会議文化が残っており、「制度のメッセージ」と「組織の空気」が食い違っていたからです。

戦略とは、言葉と構造の一致をつくること。評価項目を変える前に、「挑戦したくなる」行動モデルを定義し、対話やマネジメントの振る舞いとセットで示す必要があったのです。


ステップ③ 「今の制度・文化」がその行動をどう妨げているかを点検する


戦略設計は、新しい行動を定義するだけでは不十分です。

今ある制度や文化が、どんな行動を助長し、何を抑圧しているかを構造的に見つめ直すことが求められます。

たとえば、私が経験した過去事例だと、営業組織で「数字だけで評価される」と言われている企業がありました。数字で評価すること自体は悪ではありません。問題は、「売上を最大化する」ことが唯一の正義となり、顧客志向やナレッジ共有といった“本来推進したい行動”が、間接的に抑圧されてしまっていたことでした。

人事戦略では、制度を足す前に、まず制度が生み出している行動原理を読み解くことが肝要です。「制度をどう変えるか」よりも、「制度がどんなメッセージを無意識に伝えているか」を問うことから始める必要があると考えます。


ステップ④ コンセプトを「一文」で言い切る


良い人事戦略は、シンプルに語れるものです。

それは「すべての施策に通底する思想」であり、現場に伝えるべきメッセージでもあります。

「挑戦に報いる組織をつくる」
「自らキャリアを選べる環境にする」
「協働と専門性が両立するチームをつくる」

このような一文を軸に、評価制度も、育成も、キャリア支援も設計されている。そうした一貫性があるからこそ、戦略は制度の集合体ではなく、“組織の意志”として機能するのです。

この一文をつくる過程は、ある意味では、経営と人事と現場が「どんな未来をつくるのか」をすり合わせる対話でもあります。


ステップ⑤ 「仕組み」だけでなく、「運用」と「対話」の設計まで含める


最後に問われるのは、戦略の「実装可能性」です。

どれほど良い制度を設計しても、現場で使われなければ、意味がありません。制度を使うのは、現場のマネジャーであり、メンバーであり、日々の対話です。

例えば、過去遭遇した事例として、キャリア自律を推進する制度を整備しましたものの、1on1の場が上司の説教や業務進捗確認に終始し、「キャリアを語る空気」が根づかずに定着に失敗したことがあります。

その後、制度設計と並行して「Will・Can・Must」などのフレームを軸にした問いかけ集を配布し、マネジャー向けの対話トレーニングを行い、少しずつ空気が変わり始めました。

もちろん、これで万事うまくいくことはないですが、大事なのは、制度は仕組みに過ぎないということです。そして、人が動くのは、仕組みが意図を持って運用されたときだと考えます。

人事戦略とは、制度、運用、対話、それらすべてに思想を通し、時間をかけて組織の動きを変えていく設計のことだと思います。


「戦略」は、人の行動を変えて初めて意味を持つ


人事戦略とは、制度のリニューアルでも、施策の整合性の話でもありません。

「誰の、どんな行動を変えたいのか?」
「その行動をどうやって日常に定着させるか?」

この問いから出発し、経営の課題と現場のリアリティの“あいだ”をつなぐ設計をしていくこと。それが、人事が果たすべき“戦略的役割”だと私は考えています。

だからこそ、「まず何から考えるべきか?」と問われたら、こう答えたいのです。

「どんな行動が起きていないことに、経営が一番困っているのか?」

その問いを、あなたの言葉で考えるところから、すべてが始まります。



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