なぜ、あなたは「人事イシュー」を立てられないのか?
「事業成長につながる人事」
「経営に参画する人事」
ここ数年、セミナーや採用ページ、note記事などでこうした言葉を見かける機会が増えました。
しかし、実際の現場を覗けば、その前提となる「人事イシュー」を立てられる人事は、驚くほど少ないのが肌感です。
なぜでしょうか。
多くの人事は「制度」「打ち手」「施策」を語れても、
「そもそも、何が経営の本質的課題なのか?」
という問いを立てる訓練を受けていません。
だから、経営に呼ばれても、議論のテーブルで発言できない。
いざ「経営に参画せよ」と言われても、どこから関与すればいいのかがわからないと考えます。
人事として、本気で経営に参画するには学ぶべきことや訓練すべきことが無限にありますが、まずは最初のステップである「人事イシュー」の立て方を整理したいと思います。
“雰囲気で参画している人事”が増えている?
「経営会議に出ています」
「戦略人事を担当しています」
こう話すものの、実際には経営のアジェンダを人事の言葉に翻訳できていないケースが少なくありません。
たとえば、経営が「成長が鈍化している」と語ると、人事は「採用を強化します」と答える。あるいは、経営が「新規事業が立ち上がらない」と言えば、「研修を企画します」と応じる。
どちらも間違ってはいません。
ただ、これらは現象への反応であって、前提となる構造を紐解いてはいないと考えます。
経営が語る「成長の鈍化」とは、売上の数字の話ではありません。
事業モデル・人材構造・組織文化の連動が鈍っているという“構造的な現象”です。
にもかかわらず、そこに「採用」や「研修」といった単線的な処方箋をあてがってしまう。
ここに、多くの人事が「経営に参画しているようでしていない」雰囲気的な誤解があると私は考えています。
人事イシューを立てるためのステップ
人事イシューを立てる方法論は数多くありますが、
私が日々の実務で意識しているのは、次のシンプルなプロセスです。
【STEP 1:What ― 問題の定義】
(=何が起きているのか?現象を正しく捉える)
最初のステップは、「何が起きているのか」を事実として可視化することです。
経営、マネジメント、現場など、複数のレイヤーから現象を観察し、“人事課題”として切り出さずに、経営課題の一部として捉える姿勢が大切です。
人や組織に関わる問題の多くは、経営構造や意思決定の副作用として生じています。
したがって、人事が向き合うべきは「採用が難しい」「離職が多い」といった表層的な現象ではなく、その現象が経営構造のどこに由来しているのかという根の部分です。
このとき注意が必要なのは、「経営課題」と呼ばれているものの多くが、実は現象の記述にとどまっているという点です。
たとえば、「売上が停滞している」「新規事業が立ち上がらない」「離職が増えている」といった表現は、いずれも結果を語っているだけで、構造を説明してはいません。
人事が経営に参画する第一歩は、こうした現象をそのまま受け取るのではなく、「なぜその現象が、今このタイミングで起きているのか?」を説明できるレベルまで掘り下げることです。
【STEP 2:Where ― 問題の所在を特定する】
(=どこで、どんな構造の歪みが生じているのか?)
次に行うべきは、問題がどの層で発生しているのかを特定することです。
それは個人の能力の話ではなく、構造上の歪みや断絶の問題です。
たとえば、経営戦略と人材要件の整合性が取れていないのかもしれません。
あるいは、成果と報酬の連動が崩れ、挑戦よりも在籍年数が評価される構造になっている可能性もあります。
このように、どの層で詰まりが生じているのかを捉えることが重要です。
戦略、制度、文化など、どこにボトルネックがあるのかを見極めることで、課題の“位置”がはっきりしてきます。
ただし、この段階で人事が陥りがちなのが、誤った切り口で問題を分解してしまうことです。
たとえば、現場で起きている課題を「採用」「配置」「育成」「評価」といった人材マネジメントの機能別フレームで安易に整理してしまう。
最初の取っかかりとしては悪くありませんが、その切り口が鈍ければ、問題の核心にはたどり着けません。
採用が課題に見えても、実際は戦略と役割定義のズレかもしれない。
育成がうまくいかないように見えても、評価の設計思想に歪みがあるのかもしれない。
問題は常に“自身の認知の外側”に存在している可能性を疑い続けることが重要です。
この「構造のどこで詰まっているのか」を見抜く感度の高さこそ、人事の腕の見せ所です。
的確な切り口を立てられる人事ほど、経営の会話の中で“論点の位置”を正確に射抜くことができます。その瞬間、経営は人事を「運用の専門家」ではなく、構造を読み解くパートナーとして見るようになると考えます。
【STEP 3:Why ― 原因の構造を掘り下げる】
(=なぜ、その構造が生まれているのか?)
問題の所在を特定したら、次に問うべきは「なぜ、その構造になったのか」という問いです。
ここで大切なのは、誰かの責任を追及することではありません。
そうではなく、その構造がそうならざるを得なかった“必然”を理解することだと考えます。
たとえば、挑戦よりも整合性を重んじる文化が根づいているとしましょう。
表面的には「社員が保守的だから」と見えますが、少し遡ってみると、過去の失敗に対して責任を明確にしないまま放置してきた結果、「失敗しないことが安全である」という学習が、組織全体に染みついているのかもしれません。
あるいは、新規事業がなかなか立ち上がらない背景には、失敗を評価の減点として扱う設計思想が、長年の制度運用を通じて組織に埋め込まれている、という事情が潜んでいることもあります。
このように、構造の裏側には、必ず「そうならざるを得なかった過去の経緯」が存在します。
人事がすべきは、個人の善し悪しを論じることではなく、その構造的な理由を見抜くことです。
ただし、このとき人事が陥りがちなのが、仮説を持たずに、いきなり現場に飛び出してしまうことです。
「よくわからないので、とりあえずヒアリングしてみよう」
「〇〇さんがそう言っていたから、きっとそうなのだろう」
こうしたスタンスで、目の前の情報にそのまま飛びついてしまうと、たまたま聞こえてきた声や印象の強いエピソードに引きずられ、誤った結論にたどり着くリスクが高まります。
そうではなく、十分に考え抜いた仮説を持ったうえで現場に向かうことが重要です。
「おそらく、こういう構造になっているのではないか」という見立てを一度自分なりに組み立てたうえで、それを検証する姿勢でヒアリングや観察を行う。
このプロセスを踏まないと、多くの場合、イシューそのものを誤った方向に立ててしまいかねません。
【STEP 4:How ― 人事イシューとして定義する】
(=構造を“経営を動かす問い”に変換する)
構造の必然を見抜いたら、次にすべきは、その理解を「問い」に変換することです。この段階で初めて、人事イシューが立ち上がります。
もちろん、STEP 1〜3で立てた問いもイシューと呼ぶことはできます。
しかし、私が「イシューが立った」と考えるのは、このHowのフェーズです。
なぜなら、経営が求めているのは、問題の定義や原因の説明ではなく、「どう変えるか」という意志の方向性だからです。
同時に、問いの内容も、安易に「解決策」に流れてはいけません。
しばしば現場では、課題が見えるとすぐに「営業教育を強化するには?」「採用を増やすには?」といった"解決策"の議論に傾きがちです。
しかし、それは多くの場合、経営が抱える構造的な歪みを温存したまま、その上に新しい施策を積み上げる行為にすぎません。
どれだけ精緻な施策を積み重ねても、構造そのものが変わらなければ、現象は必ず元に戻ります。
本来、人事が立てるべき「人事イシュー」とは、施策の問いではなく、構造の再設計を促す問いです。
というのも、経営は事業の構造を見ています。だからこそ、人事は人と組織の構造を見なくてはいけません。
この二つの構造は、同じ“経営システム”の異なる層を映しており、だからこそ、人事イシューとはその二つの層を“問い”という共通言語で接続することに他なりません。
「どの構造を、なぜ、どう変えるのか」
この問いを経営と共有できた瞬間、人事は初めて経営に参画できたと言えると考えています。
最後に:なぜ、あなたは「人事イシュー」を立てられないのか?
経営や事業に資する「人事イシュー」を立てられない最大の理由は、多くの人事が「経営の言葉」ではなく「人事の言葉」で世界を見ているからだと考えます。
採用、評価、育成、報酬など、私たち人事は“人事の機能”を通じて現象を観察します。
しかし経営が見ているのは、「構造の動態」です。市場構造、事業構造、組織構造、意思決定構造――。
この「構造の次元」で語れない限り、経営のテーブルに座っても、会話は平行線のまま終わってしまいます。
また、「問い」を立てるより先に「解を出す」ことを優先してしまう傾向も注意が必要です。
人事として何かを提案しようとするとき、「制度を変えよう」「研修を企画しよう」とすぐに打ち手を考えてしまう。
しかし、イシューとは“打ち手を決めるための問い”ではなく、“経営の構造を再定義するための問い”です。
最後に、人事イシューを立てられない本質的な理由は、「経営を外側から観察している」からだと私は考えています。
経営に参画するとは、経営を批評することではありません。
経営の中に入り込み、構造を“ともに設計し直す存在”になること。
そのためには、経営会議の空気を読むのではなく、経営そのものを思考の素材にする力が必要だと考えます。
人事イシューを立てるとは、経営の未来を「人を通じてデザインする」行為です。制度をつくることでも、研修を回すことでもない。
経営の構造に触れ、そこに新しい問いを投げかけること。
それができた瞬間、人事はようやく経営の一部になるのだと思います。
【なぜ、あなたは「人事イシュー」を立てられないのか?】
— 太田昂志|ゆめみCHRO (@oh1ta) November 9, 2025
「事業成長につながる人事」
「経営に参画する人事」
ここ数年、セミナーや採用ページ、note記事などでこうした言葉を見かける機会が増えました。…
