人材ポートフォリオで見るべきは、現状ギャップではなく成り行きギャップ
人材ポートフォリオでは、「現状」と「あるべき姿」を比べるだけでは不十分です。
なぜなら、人材構成は自然に変わっていくからです。
採用、退職、昇格、異動、育成、業務改革、AI活用によって、数年後の組織は今とは違う姿になります。
だからこそ、人材ポートフォリオでは「現状ギャップ」だけでなく、成り行きギャップを見る必要があります。
人材ポートフォリオ策定では、成り行きシナリオを必ず検討せよ
成り行きシナリオとは、
今の採用・退職・昇格・異動・育成のまま進んだ場合に、将来の人材構成がどう変わるか
を試算するものです。
具体的には、
人材ポートフォリオを動的に組み替えるには、まず「何も手を打たない場合の成り行き」を予測し、そのうえで、どのような施策によって意図的に組み替えるかを検討する必要があります。*1
たとえば、いまオペレーション人材が過剰に見えるとします。
このとき、「多いから削減しよう」と判断する前に、一度立ち止まって考える必要があります。採用を抑制し、自然退職が続けば、3年後には自動的に適正化しているかもしれません。
であれば、無理に削減する必要はありません。
一方で、いまは小さく見えるギャップでも、放置すると深刻になるものがあります。
例えば、変革を推進できる人材、事業開発ができる人材、AIを活用して業務を再設計できる人材などです。
こうした人材は、自然には増えません。意図的に手を打たなければ、事業成長の制約になっていきます。
つまり、経営が本当に介入すべきなのは、自然に縮まないギャップです。成り行きシナリオを見る意味は、ここを見極めることにあります。
ギャップは4種類に分けて考える
成り行きシナリオとあるべき姿を比べると、ギャップの性質が見えてきます。大きく4種類に分けると、打つべき施策も明確になります。
①自然に縮むギャップ
自然退職や採用抑制によって、数年後には適正化していくギャップです。この領域では、強い介入は不要です。自然減を管理しながら、段階的な役割転換を進めればよいと考えます。
②放置すると広がるギャップ
事業成長や技術変化によって、将来的に不足が拡大するギャップです。DX推進、事業開発、マネジメントなどが典型です。この領域では早期の介入が必要です。採用だけでなく、育成・抜擢・配置転換を組み合わせる必要があると考えます。
③採用だけでは埋まらないギャップ
市場に人材が少ない、または自社理解が必要なため、外部採用だけでは解決しにくいギャップです。この場合は、内部人材を変革推進や業務再設計の役割へ転換する設計が必要になります。
④制度を変えないと埋まらないギャップ
必要な人材を採用できても、等級・報酬・評価制度が合っていなければ定着しません。この場合は、人事制度の改定も見据えた準備が必要になると考えます。
ギャップは、単なる人数不足ではありません。
場合によっては、人事制度そのものの限界を示すサインでもあると考えます。
数字は議論の土台であって、正解ではない
ところで、成り行きシナリオを試算しようとすると、必ずデータの精度問題にぶつかります。
例えば、
・スキルデータは最新なのか。
・兼務者はどう扱うのか。
・将来の生産性をどう置くのか。
こうした論点は避けられません。
しかし、ここで完璧な数字を求めてしまうと、分析は止まってしまいます。
重要なのは、最初から精緻な数字を出すことではなく、シンプルな前提を置いて試算し、その数字をもとに、経営・事業・人事が同じテーブルで議論することです*1。
数字から立てるべき問いは、次のようなものです。
・このギャップは本当に問題なのか。
・自然に解消するのか、放置すると広がるのか。
・採用で解くべきか、育成で解くべきか。
・そもそも業務を変えるべきではないか。
この議論が起きて初めて、人材ポートフォリオは経営判断に使えるものになると考えます。
最後に:人材ポートフォリオは、未来への介入計画である
人材ポートフォリオの策定において大事なのは、足りない人数を埋めることではないと考えます。
むしろ、未来の事業成長を制約するギャップを見極め、どこに、どの順番で、どの手段を講じるかを決めることにあると考えます。
そのためには、現状ギャップを見るだけでは不十分です。
現状では大きく見えるギャップでも、時間の経過とともに自然に縮むものがあります。一方で、いまは小さく見えても、放置すれば将来の成長を妨げる大きな制約になるものもあります。
だからこそ、人材ポートフォリオでは「いま何人足りないか」だけではなく、「このまま進むと、将来どのギャップが残るのか」を見なければなりません。
参考文献
*1 吉永裕助「企業変革を実現する人材ポートフォリオ・マネジメント戦略 - 第3回 人材ポートフォリオの策定方法」WEB労政時報、2024年5月23日掲載
— 太田 昂志|Ota Takashi (@oh1ta) May 6, 2026
