「教室に戻す」より「安心できる居場所を作る」──不登校・適応困難な子のための学校支援の発想転換
こんな日々、続いていませんか
学校に行けなくなって、半年・1年が経つ
「いつになったら教室に戻れるのか」が、家族の最大の関心事になっている
学校から「明日は来られそう?」と毎日電話が入る
教室復帰のたびに、また崩れる
「支援級に移った方がいい」と言われたが、決断できない
周りからは「家に置いておいて甘やかしてるだけ」と言われる
本人は「自分はダメな人間だ」と泣いている
「学校に戻すのが正解、なんだろうか」
「支援級に行ったら、もう普通の進路は無理になる?」
「無理させたら悪化するし、休ませても何も進まない」
「いつまでこの状態が続くのか、見通しが立たない」
──そう感じている保護者の方は、決して少なくありません。
私の診察室にも、「もう疲れました」と泣きながらいらっしゃるお母さん・お父さんが、毎週のように来られます。
そして、ご本人と話してみると、こんな声が返ってきます。
「学校に行けない自分が嫌」
「親に申し訳ない」
「みんな普通に行ってるのに、自分はおかしい」
「教室に戻りたい気持ちはあるけど、戻ったらまた崩れるのが分かってる」
このnoteでお伝えしたいのは、「教室に戻すこと」を一旦、ゴールから外すという発想です。
ゴールから外す、というのは「諦める」とは違います。「最終ゴールを変える」のではなく、「目の前の優先順位を変える」ということ。
「いきなり教室に戻すより、まず安心できる居場所を確保すること」
これだけで、子どもの回復のスピードも、家庭の空気も、本当に変わります。
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「先生に伝わってない」と感じたら──医師・保護者・学校が同じテーブルにつく「ケース会議」という選択肢 ── 居場所を学校と相談するときの具体的な進め方を書いた記事です
「お腹が痛い」「頭が痛い」が毎朝続くとき──ストレスが体に出る子どもの仕組み ── 不登校の背景にある身体症状について書いた記事です
「気合いと根性で何とかなる」と思っていたけど──ADHDは「脳のプリセット」だと知ったとき変わること ── 不登校の背景にあることが多い発達特性の理解を書いた記事です
※本記事は児童精神科医の臨床経験に基づく一般的な情報提供であり、個別の症例について断定するものではありません。お子さんの診断・治療・支援については、必ずかかりつけ医・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター等の専門職にご相談ください。
この記事の内容は、執筆者である児童精神科医が日々の診察で実際に保護者・本人に伝えている内容を、個人情報を完全に取り除いた上で再構成したものです。
1. 「戻す」を急ぐと、なぜ崩れるのか
教室は、想像以上に「高刺激」
不登校から教室に戻ろうとした子が、また数日で崩れてしまう。これを見て「やっぱりダメだったか」と落ち込む保護者は本当に多いです。
でも、これは本人の意志の弱さでも、努力不足でもありません。
教室というのは、私たち大人が思っている以上に情報量が多い空間です:
30人前後の人間の気配
同時に進む授業
黒板の情報
先生の声
友達同士の小さなやりとり
給食、掃除、移動教室の段取り
体育、行事、部活
特性のある子・繊細な子・心身がまだ整っていない子にとって、ここに6時間いるだけでフルマラソンを走り切るのと同じくらいのエネルギー消費になります。
体力が落ちている時期に、いきなりフルマラソンを走らせる──これがどれだけ無理筋か、考えると分かります。戻ったら崩れるのは、本人の問題ではなく、量の問題なのです。
「家に閉じ込めるしかない」も違う
一方で、「だから家にずっといていい」というわけでもありません。家にだけ閉じこもると、別の問題が出てきます:
体力がさらに落ちる
生活リズムが乱れる
社会との接点が切れて、戻りにくくなる
家族と本人の関係がギスギスする
「自分は社会から外れてしまった」という感覚が強まる
「戻すか/休ませるか」の二択ではない。これが、私が診察でよくお伝えする話です。
第三の道──「居場所を作る」
「戻す」でも「家に閉じ込める」でもなく、「学校の中に、安心して過ごせる場所を作る」。これが、私が一番大事にしているアプローチです。
具体的には:
別室登校(保健室、相談室、サポートルーム)
支援級
通級指導教室
フリースクール
適応指導教室
放課後等デイサービス
教室には戻らないけれど、「学校との接点」「安心できる人や場所」は確保する。これだけで、子どもの内側で「自分は社会から切れていない」という感覚が保たれます。
2. 子どもの心と体で起きていること
「学校に行けない」の正体
不登校の背景にあるのは、ひとつの理由ではありません。多くは複数の要因が重なっています:
ASD・ADHD等の発達特性による疲弊
起立性調節障害など身体の問題(参考:別記事【子どもが朝起きられないとき──「怠け」に見えていたものの正体は、自律神経のサインかもしれません】)
ストレスの身体化(参考:別記事【「お腹が痛い」「頭が痛い」が毎朝続くとき──ストレスが体に出る子どもの仕組み】)
対人関係のストレス(同級生・先生)
過剰適応(外で頑張りすぎて家で崩れる)
学習面の困難
家庭のストレス
学級の環境(学級崩壊・管理型の指導)
「子どもが学校に行けない」のは、単純な原因では説明できません。だから、原因を1つ突き止めて解決しよう、という発想ではうまくいかない。今ある状態を一度受け止めて、そこから何ができるかを考えるほうが、現実的です。
「逃げ」ではなく「限界のサイン」
「不登校は『問題行動』ではなく『限界のサイン』です」
これは、私が保護者によく伝える言葉です。
子どもが不登校になるのは、「もう無理だ」という体と心からの正直な信号です。これを「問題行動」として直そうとすれば、信号は出せなくなり、もっと深いところで壊れていきます。
「不登校=失敗」ではなく、「いまの環境では持たない」というアセスメント結果。そう捉え直すと、対応の方向が変わります。
「サードプレイス」の効果
学校でも家庭でもない、第三の居場所(サードプレイス)を持つ子は、不登校からの回復が早いことが知られています。
習い事
塾
放課後デイ
趣味のコミュニティ
祖父母の家
フリースクール
「ここでは自分は大丈夫」という場所があると、本人の自尊心が削れにくい。逆に、学校で叱られて、家で叱られて、どこにも安心できる場所がない子どもは、立て直しがとても難しくなります。
ここまでは、「教室に戻すこと」を急がない理由と、子どもの中で起きていることの見取り図でした。次の章からは、では実際に診察室でどう「居場所」を本人と保護者と一緒に組み立てているのか、その具体的な進め方をお伝えしていきます。
出典・参考情報
文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(令和元年10月25日)(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155.htm)
文部科学省「特別支援教育」(https://www.mext.go.jp/a_menu/01_m.htm)
厚生労働省「発達障害者支援施策の概要」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hattatsu/gaiyo.html)
国立教育政策研究所(https://www.nier.go.jp/)
発達障害ナビポータル(https://hattatsu.go.jp/)
3. 診察室で私がしていること
ここまで読んで、「『戻す』を急がないという方針はわかった。でも、じゃあ家でずっといるしかないのか、学校とどう関わり続けたらいいのか」と感じた方も多いのではないでしょうか。「別室登校から教室復帰までを、どんなペースで進めればいいのか」「支援級を勧められたとき、それを諦めではなく前進として受け取れるか」「担任との相性が悪いとき、どう伝えれば動いてもらえるのか」──不登校は「日々のさじ加減」の連続です。
私はこういう子の診察で、「居場所のステップアップ表」を本人と保護者と一緒に作ります。
完全に休む段階から、学校との接点を細く保つ段階、別室で過ごす段階、そして部分的に教室に戻る段階まで──その階段を、進んだら1〜2ヶ月は止まって維持するというルールを添えて使います。本人がコントロールできている感覚を守ること、形だけでも「学校所属」を維持しておくこと、必要なら支援級や通級を「諦めではなく道具」として選び直すこと、担任の相性が決定的なときは医療側から学校に動きかけること──そういう実務的な動かし方を、毎回少しずつ調整しています。
ご家族で「うちの子の今、次の一歩をどう置こうか」と話し合うときの、診察室の側からの下敷きとして読んでもらえたらと思います。
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