#2 まったく新しい焚き火のゲームはどうやって誕生したのか─「チルっと焚き火ソン」デザイナーノート連載
はじめに
本連載は、Nintendo Switch 2 向けソフト「チルっと焚き火ソン」の制作過程をまとめたインタビュー記事です。2025/8/8から、毎週金曜日公開で連載しています。気になる方はぜひマガジン登録を!
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「チルっと焚き火ソン」について
人物紹介
佐々木 隼 / JUN SASAKI
2010年にオインクゲームズを設立。同社が開発する多くのゲームのディレクション、ゲームデザイン、アートワークを手がける。文中では(佐)と記載。
新藤 愛大 / YOSHIHIRO SHINDO
プログラマー・テクニカルアーティスト。オインクゲームズのビデオゲームのエフェクト、アニメーション、インタラクションなどを手がける。文中では(新)と記載。
きゅぶんず / KYUBUNS
プログラマー。小さくて綺麗なものが作りたい。文中では(きゅ)と記載。
土江 智明 / TOMOAKI TSUCHIE
プログラマー。ややこしいものが好き。文中では(土)と記載。
インタビュー
「隣接」がポイント!6.25センチごとに区切られた空間
─空気の計算はどのくらいの粒度でやってるんですか?
土)空気の計算は、1メートル立方の一辺を16個ずつに分割して計算しています。つまり、6.25センチごとに空間を区切って計算してますね。
新)そこの分割数ってだんだん細かくなっていきましたよね。
佐)最初はもっとね、粒度荒くやってたんですよね。
土)研究で使うようなものはもっともっと細かいんですけど、 「それにどれくらい近づけるか」というチャレンジではありましたね。
佐)この6.25センチの空間に満ちている空気というリソースを、マキが燃焼するときに消費するんですよ。
消費するとどうなるかというと、さらにまた周りから空気が供給されてくるんです。
そこで、「空気の通り道」という概念が欲しかったので、 「空気がどのぐらいの速さでそこに供給されてくるのか」というのも計算する必要がありました。
空気が消費されて、供給されて、また消費されて……というのを、このゲームでは、1秒ごとに計算しています。これが、すべてのマス目で行われていくから大変で。
マキで、ある空間が埋まっているとして、そのマキの部分に空気が接しているんです。何マス分、空気がマキに接してるかで、空気の供給量というのが変わってくる、という概念なんですよね。
この隣接っていうのを考えるために、すごく複雑になっていくんですよ。
─例えば、火の元が2つある時、そのちょうど中間にある空気ってどっちに行くのでしょう?
土)両方が取り合います。
─半分こするんですね。
土)暖かい空気は上に行くだとか、そういう流れの計算もどれだけ再現するか考えました。
リアルに感じてもらうために─現実を78つの要素に分けて定義づけ
─実際どのくらいリアルにやってるんですか?
佐)これはね、実はリアルではないんですよ。そこがすごいところで、いかにリアルに見せるために、どうこれを工夫して簡単にやるかっていうところが大変なんです。
どれだけリアルか、という質問の答えは「嘘」なのですが、 でもそれをなるべくリアルに感じさせるために、設定したパラメータの量は膨大にあります。
土)調整が大変でしたね(笑)。
佐)大変でした(笑)。
例えば、火が燃えるときに酸素っていうのをどの程度消費するとかを、ゲームとしておもしろくなるように調整していかなきゃいけないんです。
その辺はいろいろ調整が必要で、パラメータが膨大にあって大変でした。
─そのパラメータって何個あるんですか?
きゅ)78ですね。
佐)例えば、1平方メートルのマキの表面が燃えているときの秒間酸素消費量が0.012、とか。マキの中に燃える材料がどのぐらいあって、 それが1秒間にどのぐらい消費されていくかっていう数値だったりとか。 あと、水面が蒸発しているときの秒間蒸発量とか。こういうのがいろいろあります。
─それぞれの要素を分解して、このパラメータを用意していったということですよね。
佐)そうです。 パラメータの用意は、土江さんがやりました。
土)やっぱり、世界って複雑だなぁと思いました(笑)。
─このパラメータは何かを参考にしてるんですか?
土)現実です。現実って、いっぱい数値が設定されているので。
─現実を78個に分けて、言語化できるものなのですね……!
佐)調整が大変になるので、パラメータの数は多いのが良いというものではないんですが、ちゃんと焚き火にしようとしたらそうなってしまったんですよね…。あとは、 ゲームだからこそ設定しなきゃいけないものもありました。 例えば、「熱が何マス、どのぐらいの距離まで伝わるか」みたいなのって、 ゲームだから必要な値なんですよね。 現実だったらそれはすごくファジーに決まってるというか、 なんかふわっとしてるものですけれど。
─ゲームとして処理するためには、定義付けをしなきゃいけないんですね。
佐)はい。 すごく複雑なんですよ。 水が蒸発すると周囲から熱を奪うみたいなこともシミュレートしています。
あと、もちろん、木材っていうものが何なのかっていうのも考えなきゃいけない。
パタメータは、実はこれだけじゃないんですよね。この78個のパラメータは、あくまで、ゲーム世界全体の数値なんです。この他に、木材のシミュレートの値とか、天気とか……いろいろとあるんです。
パラメータに影響をもたらし、役割も作り出す「火吹き棒」
─アイテムの中に火吹き棒がありますが、これはどんな作用をもたらすのでしょうか?
土)マキを燃やすのに酸素が必要だから、酸素を供給するというゲーム的な目的がまずあります。あとは、単純に吹くのが楽しい。
佐)先ほど話した、膨大にあるパラメータの中の、「酸素」の量を増やすアイテムなんですよ。
ある一つのマキ表面に対して、酸素量を増やす。 でもその一箇所だけじゃなく、周囲に漏れ出すのもシミュレートしています。
あとは、火吹き棒の役割について、企画の面で言えば、4人とかで焚き火を囲むので、「役割分担がそれなりにできるといいよね」というところからまずスタートしています。 焚き火っていうのはマキを割る人もいるし、マキをくべる人もいるし、マキを拾ってくる人も必要。 あと、火を吹く人もいる。いろいろやることが多岐にわたっているので、それぞれ分担できたらいいなと思っていました。これは、かなり初期からある企画でした。
そこで、「実際にその役割分担をどう入れていくか」という時に、このゲームにおいて、「酸素の供給というものをすごく重要なものとして扱う」という考えが初期段階からあったので、 そのパラメータを強める役割を入れようと思いました。 酸素が不足すると、マキが燃えないんですよ、このゲームは。 なので、火吹き棒の役割は、不足している部分に酸素を供給することです。 具体的に言えば、酸素が供給されることで、より熱を発して、より燃焼度が強くなるっていう感じですね。

─吹いてる長さによってパラメータへの影響度は変わりますか?吹けば吹くほどよく燃える、みたいな。
佐)その辺はちょっとゲーム的にしています。たくさん吹きすぎると息切れが起こるっていうようにしてあるんです。ずっと吹き続けることはできないようにしました。
たしかに、吹けば吹くほど火は強くなるんですけど、みんな、そんなに息が続かないと思うので。 息を吹き続けすぎると息切れを起こして一定時間吹けなくなるっていうふうにしました。吹いた分はやっぱり息を吸わないとね。
その部分はインターバルで、ちょっとしたタイミングゲームみたいな要素が入ってるっていう感じです。
火吹き棒に関しては、土江さんが大変な思いをしていましたね。
土)そうですね。 基本的に、普通のゲームって空気というものを意識しないじゃないですか。空気がプレイに関わることがないから。なので、「空気という概念がないゲーム空間のすべてに、空気を存在させるには、どうシミュレーションしたらいいのか」というのは、課題でした。どれぐらいちゃんと計算すべきなのか……と。
きゅ)この点は、Nintendo Switch 2 のスペックのおかげで計算できる量が増えたので実現できた企画でしたね。
土)火吹き棒でいうと、空気って目に見えないものだから、火吹き棒で吹いたときに酸素が増えてよく燃え上がるっていう見た目を分かりやすくする、というところは新藤さんがやってくれました。空気とか燃え上がり具合みたいなところって、工夫したところはありますか?
新)みんながイメージする、火吹き棒を吹いた時の感じを再現しました。 なので、全然リアルではなく、ここは手応えとか気持ちよさを優先してます。
佐)現実では、火吹き棒でマキを吹くと、反応が返ってこない場合も実はすごく多いんですよね。 現実でそれが起こる分には、みんな納得するけれど、ゲーム空間の中で反応が起こらないってなると、なんかね、今ひとつなんですよ。ゲームは、やっぱり、何かやったことに対して、必ず反応が欲しくなるんですよね。
そこで、嘘をつくというか、現実ではそういうことはないんだけど、もっとグッと燃え上がるようにしてみたりしました。 普通そんなに酸素は供給されないけど、大幅にその値が上がるようにしたんです。
それと同列に、新藤さんの方で、見た目的にわかりやすいように、火の粉がフワーって舞い上がったりとかするようにしてもらいました。わざわざ、より光るようにしたり。
実はちょっと機能的!早くマキが割れる「マキ割り台」
きゅ)役割分担に話を戻すと、マキ割り台も「役割分担ができるように」という意図で配置してあります。マキを拾った人はマキ割り台に持ってきて、マキ割り台の近くにいる人がマキを割る。と自然に役割分担されるかなと。

─マキ割り台を使うと、ちょっとマキを割るのが早くなるんですよね?
土)そうです。 その仕様は、実は開発の最終盤で追加されました。
佐)本当は、最初、マキ割り台の上じゃないと割れなかったんですよ。
きゅ)最初はマキ割り台の上でしか割れなかったのが、いろいろな過程を経て、どこでも割れるけれど、マキ割り台の上だと割るのが早くなるという最終的な仕様になりましたね。
佐)最初は、「技術的な制約がどこまであるか」みたいなのも大きくあって、「果たしてどの場所でも割れていいのか」みたいな葛藤がありましたね。 この、リアルにいろいろシミュレートしなきゃいけない環境の中で、どういうふうにマキというものを扱うかっていうのもあったんですよ。
マキが割れるということ自体はシンプルなことですけど、この空間の中でそれが、どこでも行える、ということが、いろんな問題をはらみそうでもあったんで、 「じゃあもうマキ割り台の上だけで割れるようにしよう」としていたんです。
でも進んでいった結果、どこでも割ることができそうになって、「それならどの場所でも割れるようにしていいかも」となりました。
このゲーム自体が、ひとりでやってもおもしろいゲームになっていって、「役割分担要素をそこまで厳密にしなくてもいいんじゃないか」というふうに変わっていったんですよね。
きゅ)一時期マキ割り台なくなってましたもんね。
佐)でも、やっぱり「マキ割り台で割りたい」「マキ割り台の存在意義を大事にしたい」という気持ちもあって。
マキ割り台があったほうが雰囲気も出てよかったので、「じゃあマキ割り台で割ったらちょっと早くなるようにしますか」となりました。

8/22(金)更新予定の「チルっと焚き火ソン」デザイナーノート連載#3に続きます。
次回は「プレイする人にとってわかりやすく伝える工夫」について迫ります。
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