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#3 まったく新しい焚き火のゲームはどうやって誕生したのか─「チルっと焚き火ソン」デザイナーノート連載

はじめに

本連載は、Nintendo Switch 2 向けソフト「チルっと焚き火ソン」の制作過程をまとめたインタビュー記事です。2025/8/8から、毎週金曜日公開で連載しています。気になる方はぜひマガジン登録を!


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「チルっと焚き火ソン」について




人物紹介

佐々木 隼 / JUN SASAKI
2010年にオインクゲームズを設立。同社が開発する多くのゲームのディレクション、ゲームデザイン、アートワークを手がける。文中では(佐)と記載。

新藤 愛大 / YOSHIHIRO SHINDO
プログラマー・テクニカルアーティスト。オインクゲームズのビデオゲームのエフェクト、アニメーション、インタラクションなどを手がける。文中では(新)と記載。

きゅぶんず / KYUBUNS
プログラマー。小さくて綺麗なものが作りたい。文中では(きゅ)と記載。

土江 智明 / TOMOAKI TSUCHIE
プログラマー。ややこしいものが好き。文中では(土)と記載。


インタビュー


“ガチ”な焚き火ができる、「チルっと焚き火ソン」


新)このゲーム、雰囲気焚き火ゲームじゃなくて、ガチな焚き火ゲームを目指してるというか……。焚き火をちゃんとやろうっていうゲームなんですよね。
その中で特に特徴的なのが、先ほど挙げた、空気のシミュレーションをちゃんとやってるっていうのと、あと、マキの燃焼段階をちゃんとシミュレーションしてるっていうところです。 

─マキが燃える速度もそのパラメーターによって決まっているということですね?

土)そうですね。このゲーム世界でものが燃えるには3つ必要なことがあります。周りに酸素が十分にあること、熱が十分に高いことと、燃料があること。これは現実と一緒ですね。それらの3つの条件が満たされてるかどうかっていうのをちゃんと判定して、燃えるか消えるかを決めています。 

─ゲームの質問をしているはずなのに、物理を教えてもらってる感じがします(笑)。

新)このゲーム、ゲームのこと聞くと全部普通の焚き火の話が返ってきますよ(笑)。 

きゅ)こんなにもガチガチに焚き火をしているということが、あまりに伝わらなさそうだから、焚き火ガイドがすごい分厚くなっていますね(笑)。 

─マキが多すぎたりすると火が消える、という条件はどのように組み込まれているのでしょうか?

新)難しいですね。 そういう特別なプログラミングがされているわけではなく、結果的にそうなってるって感じですね。 

佐)まずマキ内の燃料が尽きていたら消えるし、酸素の供給量が十分でなくても消えるんですよね。 
このゲームでは、300度でマキが燃焼するようになっています。つまり、300度を下回ると火が消えます。300度を下回る原因としては、酸素が足りなかったり、周りで水が蒸発することにより熱が奪われたりすることなどがあります。
ここに気温などの要素も入ってきます。雪山というステージがあるんですけど、雪山だと気温が低いんで、より熱が奪われていきやすいんですよ。それで、結果、火が消えやすくなってたりしています。

「待つ」がめずらしい、時間の要素があるパズルゲーム


新)基本は、そういう物理的な話に基づいて、全部作っていて、ただ現実よりはだいぶ簡素化はされています。
重要なパラメーターとしては、マキの水分量と温度と酸素があります。これはゲーム中でも「焚き火センサー」で見ることができます。 あと、隠しパラメーターで燃料っていうのがあって、この4つのバランスでいろんなことが決まっているんです。

きゅ)パラメーターにまつわる開発中の大きな変更点として、マキにカーソルを合わせたときに「火がつくまであと何度」というゲージ(マキの状態表示)が表示されるようになったところがありますね。 

佐)そうですね、けっこう大きな変更でした。 

きゅ)初期のバージョンでは、マキの色とかで、どれくらい水分が飛んでるかを判断しないといけないゲームだったんですけど、あまりにわからなさすぎて、さすがに難しすぎるという話になり、ゲージが追加されました。 

─玄人向けすぎますね、それは(笑)。 

佐)「現実がそうなってんだからわかるでしょ」みたいな気持ちでいたんですけれど、 社内のフロンティア(ゲーム未プレイの人)にプレイしてもらうと、全然伝わってなかったんですよね。 
現実世界では、火がつくのに時間がかかるのは当たり前なんですけど、みんなやっぱり、「これはゲームだ」と思うから、「待つ」という行為がゲームでは珍しいので、 「なんで?」ってなるんですよね。結果を早く求めちゃうというか。
火がつくためには、まずマキの温度が上がっていって、マキが100℃に達するとマキから水分が抜けていき、水分が蒸発しきると、またさらに温度がどんどん上がっていって、やっと木が燃えるんです。 
でもそんなこと、みんなわからないから、「火のとこにマキを持ってっているのに燃えない。なんで?」ってなるんですよね。 
マインクラフトだったらね、もうそこでただ燃えるんで。 

新)確かに。3秒ぐらいで燃えますからね。 

佐)そうそう。ただボーって燃えますからね。 
このゲーム世界を構築した後で、それをどう伝えればいいかっていう部分で、また別に苦労しました。ゲームとして遊ぶときにね。 

きゅ)こんなに待つ時間が長いゲームは、なかなか珍しいですもんね。 

佐)そうそう。そこで、やっぱり、人が待つ時にイメージするのってローディングメーターかなぁと思って、ローディングメーターをイメージしてマキの状態表示(マキをポイントするとその下に表示されるメーター)を作りました。 メーターがMAXまで行けば燃えるっていうのを視覚的に分かりやすくしたという感じですね。 

新)このゲーム、焦りすぎると全然うまくいかないっていうのがけっこう特徴的で。 
じっくり待つ必要があるという、珍しいゲームですよね。 

きゅ)「時間の要素があるパズルゲーム」ってどこかで言ってましたよね。 

佐)そうなんですよ。 その表現、いいですよね。
 

わかりやすくするために……した工夫、削った工夫


ープレイする人にとってわかりやすく伝える工夫は、他にもしましたか?

佐)「これが、ゲームだって伝わらないんじゃないか」という恐れが、我々にはすごいありました。 なので、開発終盤まではすごくゲームっぽいUIをあえてたくさん入れてましたね。

─例えば?

新)今の最終的なUIって、かなりシンプルになってて、ほぼ焚火ゲージだけしかないですよね。
しかも、焚火ゲージもレベルが表示されてるだけみたいな感じで。
開発途中のバージョンは、もっと細かく色々な情報が表示されてて、さらに、左下の方にクエスト的な、「次はこうしてみよう」みたいなのが出てきたりしました。試行錯誤の跡がいろいろあって、「こういうふうにしたら、こういうことをするゲームだって伝わるかな」って考えて、いろいろ入れてたんですけど、最終的に全部なくすことにしましたね(笑)。 

佐)まず「このゲーム、焚き火を燃やすゲームだよ」って、ただ言っても全然伝わらないから、伝わるように、「じゃあ焚火レベルというものを上げていきましょう」としたんです。 つまりは、「焚き火台の上の温度の合計をとって、焚き火レベルというふうに表現しよう」というのが、ひとつ伝わりやすく翻訳した部分です。 

新)そうですね、最初は温度のゲージしかなくて、「温度を、何千度までトータルで上げたらクリアです」みたいな感じだったんですけど、 それよりはステップを踏んだ方が、よりゲーム的に伝わりやすくなるっていうことで、まず焚き火レベルというものが導入されました。

佐)「 焚き火レベルを10まで上げよう」って言って、「10まで」っていきなり1本のメーターに見せても遠すぎるから、まず端まで上げればレベルアップするのを分かりやすくドーンって出しました。まずはレベル2に上がって、さらにやっていくとレベル3にドーンって上がって……っていう。レベルアップごとに、どんどん音楽とかも豪華になっていったり、画面も明るくなっていったり、みたいな分かりやすい演出が入っています。もちろん、現実の焚き火ではそんなことはないですよね。レベルなんかもない。
そういうゲームのUIの力を借りて、「これはレベルを上げていけばいいのね」というのを、分かりやすくしました。 
最初は、見せ方や、メーターなども、すごくゲーム然とさせていたんですよ。 
これは新藤さんがたくさん工夫してくれて、演出で分かりやすくしてくれました。 

新)最初の方は、まず目的を伝えることをどうしようか悩んで、いろいろ考えてて、ゲージをとにかく目立たせたり、新捗を分かりやすくするみたいなところを、いろいろいじっていました。

佐)レベル1はメーターが青で、上がるにつれてオレンジになり、赤になっていくようになってますよね。はじめはここにさらに数字で温度を表示したりしてたし、もっと数字も全面に出してましたよね。 

新)そうですね。

佐)温度が上がった下がったみたいなのも、時間経過でグラフみたいにして見せてましたね。温度変化の全部に音を入れて、フィードバックして伝わるようにやってたんですけど、最後の方になって、一気にそれが全部削られていくっていうのはありましたね(笑)。 

新)まあ、結局全部盛りにした結果、「これだけあればいいや」っていうのが分かったんですよね。 

きゅ)意外とゲームっぽくなったということですね。

佐)そう、最終的には「なんか伝わるね」ってなったんです。 
レベルという要素は重要だったので最後まで残ったし、そのレベルっていうのさえ、シンプルに伝わればよかったから、左上の方の簡単なメーター表示だけになりましたね。 色も単色で。 
「焚き火を魅力的に見せるために、メーターなどのUIは、あんまり見えない方が逆にいいんじゃない?」っていうことになって、すごくシンプルになりました。
あとはさっきの「マキナビ」もやっぱり必要だったので、表示するようにしました。 
これだけにしてしまってもかなり、やるべきことが分かったんですよね。
その中でも、画面上でマキに火がついた時に、エフェクトと音で演出しようっていうのは最後まで残りましたね。 画面上のものはすごく減ったけど、演出としては、温度が300度に達して、今マキに火がつきましたっていう瞬間だけは分かりやすく音とエフェクトで見せてます。 
レベルが下がった時とかの演出もけっこう派手に入れてたけど、そういうのはなくなっていきましたね。 

めずらしいルールを啓蒙するために生まれた「焚き火のひとりごと」


─「焚き火のひとりごと」は、どのようにして生まれたのでしょうか?

新)「マキの状態表示」が入る前に、「この焚き火の訳のわからなさをどう伝えていくか?」っていうところで生まれました。 

きゅ)昔の方がもっと喋ってましたよね、製品版は最初だけアドバイスしてくれます。 

新)これ焚き火ガチゲーなので、ほとんどの焚き火をやったことがない人には全然伝わらないなと思ったんです。 
「マキの量が大事」とか「太さが大事」とかっていうところが、普通にプレイしてるだけだとなかなか伝わらないなってなって、 「じゃあ画面に出すのはどうですか」というアイディアで入れました。
「とりあえずの最初のサポートとしてはいいんじゃない?」みたいな感じになって、今でも残っています。

佐)いろんな人に遊んでもらってみて、それを観察してると、大体の人がマキを割るのがすごく楽しくなっちゃって、すごくマキを細かくするんですよ。 で、その細かくしたマキをとにかく全部火に入れちゃうんですよね。 これは、ゲームに対する普通の行いなんですよ。
でもこのゲームは、マキを入れすぎてもダメ、少なすぎてもダメだし、マキの太さも、細すぎてもダメ、太すぎてもダメなんですよ。 
それがゲーム上だと、みんなに伝わらなかった。 
だから、マキをたくさん入れすぎた時とかに、「これだと多すぎるよ」っていう一言を表示してあげないといけないんじゃないかっていう気づきがあったんです。 言ってあげないと、そりゃ分からんわなって。 
「じっくり待ってみよう」みたいな一言がないと、このゲーム、他に似てるゲームがないから、「ゲーム文脈でそんなのわかるでしょ」っていうのは無理だったんですよね。いや、「わかるでしょ」とも思ってなかったけど(笑)。 
このゲームのルールっていうのを、もうちょっとしっかり啓蒙していかないと、焚き火っていう見た目だけでは、みんなが「期待するものは違った」ってなるというか……。
それだけでは伝わらないんですよねっていう感じですよね。 

新)自分もこの焚き火のゲームを作るまで、「マキがどういう段階を経て燃え始めるのか」とか全然意識したことなかったですね。 

佐)そうですよね。 この辺は歩み寄りっていうか、まあ、頑張って伝えていくところですよね。


8/29(金)更新予定の「チルっと焚き火ソン」デザイナーノート連載#4に続きます。
次回は「トークテーマの設定」「ステージが生まれた経緯」について迫ります。

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