"発酵"のような対話を。Okibiで取り組んだ日本酒メッセージボトル
薪や炭の中心に熱が宿って周囲にじんわりと広がっていくように、静かで強い熱を事業や組織にもたらしていく——そんな“熾火”のような価値提供を目指す「Okibi」。
実際のプロジェクトでは、どのようにサポートしているのか。今回は、種麹の開発・製造・販売を手掛ける日本醸造工業株式会社とともに行った事例を紹介します。
事業変革のタイミングが訪れる中で「会社の覚悟を目に見えるカタチで届けたい」という同社取締役最高執行責任者の松葉聡史さんの想いから始まった今回のプロジェクト。
「工場長が開発した麹菌で醸した贈答用日本酒のラベルデザイン制作」というオーダーは、やがて会社の指針になりうるメッセージの開発に。
米を酒に変え、大豆を醤油や味噌に変える。そんな可能性に満ちた触媒である“麹”の可能性を拓いていく企業へ——そんな覚悟を込めて「麹 × ?」というメッセージを大きく掲げ、その背景にある想いいをラベル全面にしたためた「メッセージボトル」というアイデアに昇華されました。

この過程の中で、どのようにオーダーを問い直し、どのようにプロジェクトが発展したのか。「Okibi」が手がけたオリジナル日本酒ボトルの制作プロセスを振り返ります。
プロフィール

(写真左下)松葉聡史さん(日本醸造工業株式会社/取締役 最高執行責任者)
(写真左上)小川一幸(Okibi/ビジネスプロデューサー・コーチ)
(写真右下)小林誠太(Okibi/デザイナー)
(写真右上)小林拓水(Okibi/コピーライター)
お中元として贈る日本酒が、きっかけに
Okibi・小川一幸(以下、小川):
改めてボトルデザインの制作を依頼いただいてありがとうございました。まずはご依頼いただいた背景から聞かせてもらえますか?
日本醸造工業・松葉聡史さん(以下、松葉さん):
もともとは大学院で小川さんとご一緒させていただいたことがきっかけですよね。そこから、小川さんにコーチングや経営に関する壁打ちをお願いしていた流れで、贈答用の日本酒のラベル制作をお願いしました。
小川::
当時、取引先や関係者に贈るお中元として、オリジナルラベルの日本酒を検討されていたんでしたよね。
松葉さん:
その通りです。簡単に経緯をお話すると、当社が事業変革を進めるなかで、今後注力すべき事業領域を明確にしていく時期にありました。
そうした節目において、日頃からサポートをいただいている株主様や取引先様に、感謝の気持ちをお伝えすると同時に「これからの日本醸造工業の姿勢や方向性」を、何らかの形で示したいと考えていました。
その想いを表現する方法として選んだのが、「工場長が開発した麹で醸した日本酒」でした。
小川:
話を聞いていくと、その日本酒には強い想いがこもっていると感じていました。

松葉さん:
仰る通りです。工場長が開発してくれた新しい麹を目に見えるカタチで届けたいという思いもありましたし、「これから変革していくぞ」という当社の覚悟を社外、そして社内に示したいという強い想いを持っていました。
そうした想いを表現しようとしたとき、Okibiのみなさんがいたんです。
小川:
他の事業者さんと比較検討することはなかったんですか?
松葉さん:
もちろん、比較はしましたが、皆さんとお話させて頂き「この方たちなら大丈夫だ」と考え、お願いしました。プロジェクトに対する真摯な向き合い方と圧倒的な熱量を感じたんです。
小川:
嬉しい……! 最初に僕ら3人と会ったとき、どんな印象でした?
松葉さん:
正直、誠太さんの印象が非常に強かったです。
Okibi・小林誠太(以下、誠太):
おっ、僕ですか(笑)。
松葉さん:
事前にポートフォリオを拝見したんですが、自分がイメージしていた「理想のプロダクト像」と重なりました。素人の意見で恐縮ですが、無駄がなく、商品そのものの良さを引き出している印象でした。何度もホームページを見返したのを覚えています。
誠太:
実は最初にポートフォリオを共有したとき、お客さんの趣味嗜好と合わない場合もあるんですよ。でも、松葉さんとは好きなデザインのテイストが噛み合った。だから、そもそもやる前からマッチングしていたというか。すごくプロジェクトにも入りやすかったんですよね。
松葉さん:
それから、コピーライターの拓水さんも含めて、みなさん長野県出身という共通点があったのも大きかったですね。
当社の取引先様は長野県が多いんですけど、3人とも地元が長野ということで不思議な縁を感じて、直感で「これは合うかも」と思いました。
「メッセージをラベルにする」という飛躍
小川:
最初は一般的な日本酒ラベルを想定されてたんですよね?
松葉さん:
そうですね。最初にお送りしたアイデアは、いわゆる「ザ・日本酒のラベル」のような、筆字で漢字2文字の案だったと思います。
たしか「飛翔」のようなイメージの言葉を共有した記憶があります。
そこからが始まりですよね。みなさんと熱く議論していく中で、ラベルに直接想いを書き込んだメッセージボトルという斬新なアイデアが出てきたんです。
Okibi・小林拓水(以下、拓水):
単なる“お中元用の”日本酒ではなくて、“日本醸造工業の決意を伝える媒体としての”日本酒にしようと議論したんですよね。
松葉さん
はい。みなさんと話す中で「誰に・どんなメッセージを届けたいのか?」という根本の問いを提示して頂き、議論を重ねていったという流れだったと思います。その中で、メッセージボトルというアイデアに行き着きました。当初、そんなカタチになるとは、全く想像してませんでしたね。みなさんとのやり取りのプロセスそのものが「発酵」のような感覚でした。
Okibi一同:
プロセスが発酵……いいですね!
松葉さん:
メッセージボトルという体裁が決まった後、どんなメッセージを書き込むか、時間をかけて何度も話し、内容を練り続けていきました。その過程で、私が当初つくっていたメッセージがだんだんと見違えるものになっていく感覚がありました。小川さんから「このお酒で何を表現したいんですか?」という、非常に鋭い、キレのある質問を投げかけられ続けたのは、よく覚えています(笑)。実際に最初に書いてみたものは、なんだかしっくりこなかったし、3人にも響いてなかったのがわかりましたね(笑)。
小川:
「果たして松葉さんが一番伝えたいのって本当に『感謝』なんですか?」という視点から始まりましたよね。議論を重ねる中で、本当に松葉さんが伝えたいのは「自分たちの変化に期待してもらいたい」ということだった。

松葉さん:
まさにです。思い返すと、ここは大きなターニングポイントだったと思います。
「感謝」に加えて、何より「これからの日本醸造に期待してもらいたい!」という想いを、小川さん、誠太さん、拓水さんとのコミュニケーションを通して、引き出していただいた。そして、コピーライターの拓水さんが私の文章から意図を汲んで、メッセージをブラッシュアップしてくれました。
その言葉を見たとき、本当に驚きましたね(笑)。「言葉・表現の違いでこうも変わるのか」と。私よりも言いたいことの芯を捉えている。届けたい想いが2乗、3乗になって返ってきた感じがしました。
拓水さんが、言葉に命を吹き込んでくれた、そんな印象でした。
拓水:
いやいや、松葉さんからいただいたテキスト案の時点で、すでに想いが乗っていましたから。その想いをよりよく整えて、発露させてあげるだけだと思っていました。
「もう任せるから」の一歩手前で
松葉さん:
今だから言えますが、正直、プロジェクトの過程で相当、追い込まれていて、実は「もうみなさんに任せるから!」って気持ちになりかけていた時があったんですよね。
小川:
え、そうだったんですか?
松葉さん:
でも、そのとき、誠太さんが『瓶の口元に、こういうデザインができるかもしれません』『アイキャッチとして、こんな字体はどうか?』など、小さなアイデアを、たくさん出してくれた。
誠太:
うるさかったですよね、すみません(笑)。
松葉さん:
いや、むしろそのとき「これじゃいけない」ってハッとしたのを覚えています。自社のプロジェクトに、これだけの熱量を投じてくれている人が目の前にいると気づかせてもらった。会社選定の際に、皆さんへ感じていた「真摯さ」「熱量」を改めて感じ、みなさんにお願いして良かったという想いが一層強まっていました。
誠太:
でも、松葉さんがそこで食らいついてくれたというか、丸投げせずになんとか自分の意思を込めようとしてくれたのがすごくありがたかったなと思ってて。「そちらで決めてください」って言う人もいるし、「これ以上できません」って途中でプロジェクトごと断念しちゃう人もいる。でも松葉さんは、一つひとつに反応して、さらに意見を返してきてくれた。それはすごくいい掛け合いだったなと思います。
松葉さん:
3人のフォロー体制も、非常に特徴的で、Okibiの強みなのかもしれませんね。鋭い問いを提示してくれる小川さん、ゼロベースでアイデアを出してくれる誠太さん、想いを言葉で表現してくれる拓水さん。
3人がそれぞれのキャラクターで、私たちの可能性を引き出そうと、向き合ってくれる。当社にとって、非常に刺激のある時間でしたし、学びの多いプロジェクトでした。
小川:
Okibiの場合、先頭に立つディレクターがいて、手を動かす人に伝言ゲームするというスタンスじゃないんですよね。クライアントと僕らの4人で円になって、言いたいことを言い合いながらかたちにしていくんです。

松葉さん
たしかに。プロジェクトを進めていく過程で、みなさんが「対話」を、非常に大事にされているな、という印象を受けていました。
誠太:
プロジェクトも終盤に行くにつれて、松葉さんからもアイデアがどんどん出てきましたよね。最初の頃はちょっとどこか探り探りだった感じだったのが、デザインやメッセージが出てきた段階で、『これはどうですかね』『あれはどうですかね』って、意見が湧き出てきた。
松葉さん:
みなさんの「言い合う雰囲気」に触発されたのかもしれませんね(笑)
それから、常に刺激をいただいていた、というのも関係していると思います。
「ラベルをメッセージにしちゃえばいい」というクリエイティブジャンプに出会った瞬間も大事な分岐点でした。一気に景色が変わって、自分もこれまでの枠から出てみようと思えたんです。
拓水:
アウトプットそのものが松葉さんへの問いになってたこともあるかもしれないですね。ビジュアルやメッセージを見て、「そうじゃない」「もっとこうしたい」が触発されていたというか。
松葉さん:
まさにそうですね。アウトプットが見えるたび、このチームだったら何かできるという期待を感じられたし、もっといいものが作れるという手応えが積み重なっていった印象です。
会社が変わるきっかけの「1本」に
小川:
今回のボトルによって、会社全体にどんな影響がありましたか?
松葉さん:
目に見えるカタチで『当社はこういう未来を進んでいくんだ』という軸を提示できたこと、これは非常に大きかったですね。
社内変革のメッセージをスタッフに伝えるときの説得力が高まりましたし、みんな驚いてくれた。既存の枠を超えて「うちの会社はこんなことできるんだ」という期待感を抱いてもらえるプロジェクトになったと思います。
小川:
社員さんの反応はいかがでした?
松葉さん
「あの方に送りたいです!」「この取引先にも送っていいですか?」って伝えてくれるスタッフが多かったんですよ。
それから、パートさんも含めてスタッフ全員に配って一人ずつ面談したんですけど、みんな、これからの当社に対する期待感や麹の新しい可能性について、どんどんアイデアを出してくれた。これは本当に嬉しかったですね。
今回ラベルに掲げた「麹×?」に「新しい掛け合わせを探そう」という想いが表れているから、みんな話しやすかったのだと思います。
みんな高い温度感で、想いを語ってくれて、感動しました。
拓水:
社長のメッセージを社内に伝える媒体って、手紙とか映像とか声とか色々あると思うんですけど、それが今回「日本酒と、そのラベル」だった。まさに日本醸造工業でしかできない媒体だと思います。
松葉さん:
そうなんです。工場長が新しい麹を作ってくれて、それを当社の大事なパートナー会社様に仕込んでいただき、さらに我々の想いを込めたラベルを作って……という具合に、全てのストーリーが重なった。
みんなの想いを乗せたお酒がつくれた結果、ポジティブな反応を起こせたのだと思います。
小川:
今後、このボトルやメッセージをどう発展させていきたいですか?
松葉さん:
仰る通り、これからどう発展させていくかが非常に重要だと考えていますし、これは、スタッフみんなと共に、熱く議論していきたいと思っています。
このプロジェクト、そして「麹 ×?」という言葉を通して、自社商品への想いや自社への期待感を醸成する一歩を踏み出すことができたと思います。
日本醸造工業の将来像、なりたい姿を描く為の布石は打てたので、これをベースに、社内の想い、アイデアを発酵させていきたいと思っています。

誠太:
その活動や姿勢を、どうやって表出させていくかも一緒に考えていきたいですね。
松葉さん:
当社は、2027年に110周年を迎えます。
この変革の流れ、灯った熱を、新たな100年を切り開く力へと変えていきたいと思っています。
大切な一歩を共に刻んでいただき、本当にありがとうございました。
Okibi一同:こちらこそ、ありがとうございました!
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執筆:小林拓水
