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武士道 第14章 #77 欧州騎士道に対する、ギボン、ハラムの辛辣な指摘

#77  We hear much of the outward respect  European knights paid to "God and the ladies,” — the incongruity of the two terms making, Gibbon blush ;  we are also told by Hallam  that the morality of chivalry was coarse,  that gallantry implied illicit love .


私の訳:
私たちは、ヨーロッパの騎士たちが「神と貴婦人たち」に払った表向きの敬意についてよく耳にする。その二つの言葉の不調和はギボンを赤面させるほどであり、また、ハラムによれば、騎士道の道徳は粗野であり、ギャラントリー(騎士道的な慇懃さ)は不義の恋を意味していたとも言われている。




ご提示いただいた英文は、歴史学者のギボン(Gibbon)やハラム(Hallam)を引用しながら、中世ヨーロッパの「騎士道(chivalry)」が抱えていた矛盾や実態を鋭く指摘した一節ですね。

文脈を理解する上で重要となる主要な英単語を詳しく解説します。

1. Incongruity /ˌɪnkəŋˈɡruːəti/

  • 意味: 不調和、矛盾、ちぐはぐなこと。

  • ここでの使われ方: 騎士が「神(God)」という神聖な存在と、「貴婦人(the ladies)」という世俗的・肉体的な存在の双方に対して、同じように「外向きの敬意(outward respect)」を払っていることの矛盾を指しています。

2. Blush /blʌʃ/

  • 意味: 顔を赤らめる、恥じる。

  • ここでの使われ方: 歴史家ギボンが、神への信仰と女性への崇拝が同列に語られる騎士道の奇妙さに(皮肉や当惑を込めて)赤面する、という意味です。

3. Coarse /kɔːrs/

  • 意味: 粗野な、下品な、きめの粗い。

  • ここでの使われ方: 騎士道の道徳観(morality)が、洗練された理想とは裏腹に、実際には粗野で洗練を欠いたものであったことを示しています。

4. Gallantry /ˈɡæləntri/

  • 意味: 勇猛さ、女性に対する親切・丁重な振る舞い(騎士道精神)。

  • ここでの使われ方: 本来は「婦人への礼節」を意味しますが、ここでは当時の実態として、それが不倫や不適切な関係に繋がっていたことを示唆しています。

5. Illicit /ɪˈlɪsɪt/

  • 意味: 不法な、禁じられた、不道徳な。

  • ここでの使われ方: illicit love で「不倫」や「禁じられた恋」を指します。当時の騎士道物語に見られる「貴婦人への愛」が、しばしば道徳的に許されない関係を伴っていたことをハラムが指摘している場面です。

文の要約

「ヨーロッパの騎士は神と貴婦人の両方に敬意を払っていたが、その組み合わせのちぐはぐさ(incongruity)にはギボンも赤面する(blush)ほどだった。またハラムによれば、騎士道の道徳は粗野(coarse)であり、洗練された振る舞い(gallantry)といっても、実際には不道徳な愛(illicit love)を意味していたという。」

ご提示いただいた英文が示唆する「ねじれ」とは、キリスト教的な禁欲主義・神への献身と、世俗的な愛(特に既婚女性への恋)や暴力という、相反する価値観が「騎士道」という一つの枠組みに同居していた矛盾を指しています。
具体的な「ねじれ」のポイントは以下の通りです。

1. 「神」か「婦人」か(二重の忠誠)
本来、キリスト教の理想は神への絶対的な帰依ですが、騎士道では「愛する貴婦人のために戦うこと」が美徳とされました。 

  • ねじれ: 騎士は戦場に向かう際、神の加護を祈ると同時に、懐に忍ばせた婦人の形見(スカーフなど)に誓いを立てました。ギボンが「不調和(incongruity)」と呼んだのは、神聖な信仰と人間的な情愛が同格に扱われていた点です。

2. 「宮廷風恋愛」と「不倫」の隣り合わせ
英文にある "gallantry implied illicit love"(騎士の礼節は不道徳な愛を意味した)がこの核心です。

  • 理想: 騎士が身分の高い貴婦人に無償の奉仕を捧げる「宮廷風恋愛(Courtly Love)」は、精神を高める崇高なものとされました。

  • 現実: 騎士が仕える対象の多くは主君の妻(既婚者)であり、その情熱はしばしばキリスト教が禁じる「姦淫(不倫)」へと向かいました。ランスロットとギネヴィア王妃の悲恋などはその典型的な象徴です。 

3. 「平和の宗教」と「暴力の肯定」
キリスト教は本来平和を説きますが、教会は騎士の暴力を制御するために「聖戦(十字軍)」や「異教徒討伐」という名目を与え、騎士の武力を宗教的に正当化しました。 

  • ねじれ: 殺生を禁じる教義を持ちながら、騎士は「神のために敵を殺すこと」で救済されるという論理が成立していました。ハラムが道徳を「粗野(coarse)」と評したのは、高い理想を掲げつつも、その実態が血生臭い暴力や略奪と切り離せなかったためです。 

このように、中世の騎士道は「天上の神への義務」と「地上の情欲・野心」を無理やり統合しようとしたシステムであったため、歴史家たちの目には奇妙な矛盾(ねじれ)として映ったのです。




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橋本 このたびはご評価をいただきありがとございます。また、チップまで下さるとは私にとって大変な喜びです。さらに英文訓読の役を進め、アップさせていきたいと思います。