ギボンとハラム・・・武士道 14章 #77の背景

エドワード・ギボン(Edward Gibbon, 1737–1794)は、18世紀イギリスの歴史家であり、近代歴史学の先駆者の一人と見なされています。
主な特徴と功績は以下の通りです。
1. 主著『ローマ帝国衰亡史』
ギボンの代名詞とも言える著作で、1776年から1788年にかけて全6巻で刊行されました。
範囲: 2世紀のネルウァ帝・トラヤヌス帝時代(ローマ帝国の絶頂期)から、1453年のコンスタンティノープル陥落による東ローマ帝国滅亡まで、約1300年間にわたる壮大な歴史を記述しています。
文体: 秀逸で格調高い文体と、鋭い皮肉(アイロニー)を交えた叙述が特徴で、英文学の古典としても高く評価されています。
2. 近代歴史学への貢献
当時の歴史家としては珍しく、一次史料(同時代の記録や証言)を徹底的に博捜し、批判的に検証する手法を確立しました。この客観的なアプローチにより、「最初の近代的な歴史家」とも称されます。

1777 - 1859
19世紀のイギリスの歴史家ヘンリー・ハラム(Henry Hallam)は、その著書『中世ヨーロッパ社会の国家の状態(View of the State of Europe during the Middle Ages)』(1818年)の中で、騎士道に対してかなり批判的な分析を行っています。
ご質問にある「騎士道=粗野、洗練された振る舞い=不道徳な愛」という見方は、ハラムが騎士道精神の理想と現実のギャップを鋭く指摘したものです。具体的なポイントは以下の通りです。
1. 騎士道の道徳は「粗野(Coarse)」
ハラムは、騎士道が語る「勇気」や「名誉」といった高尚な理念は、本質的には暴力的な戦士階級の倫理に過ぎなかったと見なしています。
粗野である理由: 騎士は戦うことが仕事であり、彼らの道徳は敵や弱者に対する慈悲(mercy)ではなく、暴力や復讐、強欲に基づいていることが多い。
理想とのギャップ: 「弱者を守る」という騎士道物語の理想は現実にはほとんど適用されず、実際には支配階級としての権力を維持するための規範であった、とハラムは指摘します。
2. 「洗練された振る舞い(Gallantry)」は「不道徳な愛(Illicit Love)」
騎士道には「courtly love(宮廷風恋愛)」という、高貴な女性へ愛を捧げるという風習がありますが、ハラムはこれを否定的に評価しました。
貴婦人への礼賛の裏側: 騎士が洗練された振る舞い(Gallantry)を見せる対象は、しばしば主君の妻や、自分とは結婚できない高貴な女性でした。
不道徳な愛(Adultery): 騎士が結婚指輪や結婚の絆を無視し、既婚の貴婦人に熱烈な崇拝を捧げる行為は、キリスト教的な倫理観に反する「不倫(illicit love/adultery)」であり、騎士道の洗練さは「不誠実な不倫」を隠蔽するための化粧に過ぎないと断じました。
3. 歴史的背景と評価
ハラムのこのような批判は、騎士道をロマンチックに描写したロマン主義や中世主義への対抗的な視点です。
ハラムは騎士道を「真の文明(文明化)」をもたらす道徳とは見なさず、野蛮な時代の中の「虚飾」や「偽りの礼儀」と捉えました。
この視点は、騎士道が軍事的な必要性から生じたものであり、倫理的な動機からではないという構造的批判に基づいています。
要するに、ハラムによれば、騎士道は「荒くれ者」が「高貴なふり」をしただけであり、その裏側にあるのは暴力と不倫の社会であったということです。
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