見出し画像

エドマンド・バーク Edmund Burke

この一節に出てくるBurke(バーク)とは、18世紀のイギリス(アイルランド出身)の政治家・哲学者であるエドマンド・バーク(Edmund Burke, 1729–1797)のことです。 [1, 2]

背景と解説
 
この文章は、新渡戸稲造の著書『武士道(Bushido: The Soul of Japan)』の冒頭(第1章)の一節です。 [1]

  • 引用の文脈
    新渡戸稲造は、ヨーロッパの「騎士道(Chivalry)」がすでに形としては消滅したものの、今なお人々の心に光を投げかけていることを説明する中で、この記述を用いています。 [1]

  • バークの「哀悼(eulogy)」とは
    エドマンド・バークは、著書『フランス革命の省察(Reflections on the Revolution in France)』の中で、フランス革命によって過酷な運命をたどった王妃マリー・アントワネットの栄華と没落を回想し、「騎士道の時代は去った(The age of chivalry is gone)」と嘆きました。新渡戸はこのバークの高名な言葉(騎士道の終焉を哀悼した表現)を念頭に置いて、「ヨーロッパの騎士道(雛形)の見捨てられた棺(bier)の前で、あの有名な、感動的な哀悼の辞を述べたバーク」と言及しています。 [1, 2, 3]

つまり、「Burkeの言語で(in the language of Burke)」とは、西洋の歴史や教養に通じる人々にとって共通言語である「エドマンド・バークの(騎士道を憂う)言葉を借りて」という意味になります。

『武士道』第1章において、新渡戸稲造が展開した他の表現や、エドマンド・バークの思想との深い結びつきについて解説します。

1. 第1章に見られる象徴的な表現
新渡戸は冒頭から、目に見えないが日本人の心に息づく「武士道」を、非常に詩的かつ西洋人に伝わりやすい比喩で表現しています。

  • 「生ける水(Living water)」
    武士道は過去の遺物ではなく、今も日本人の道徳の根底に流れる「生きた源泉」であると表現しています。

  • 「消え去った星座(An extinguished star)」
    ヨーロッパの騎士道(雛形)は制度としては消滅しましたが、その光が今なお現代の西洋社会を照らしている様子を、すでに消滅した星が地球に光を届け続ける姿に重ねています。

  • 「武士道は封建制の子供(Bushido was the child of feudalism)」
    武士道という道徳体系が、日本の封建社会という固有の土壌から自然に生まれ育ったものであることを示しています。

2. バークの思想と『武士道』のつながり
新渡戸がバークを引き合いに出したのは、単に有名な言葉を引用したかったからではありません。バークの「保守主義哲学」と、新渡戸が描こうとした「武士道の精神」には、思想的に強い共通点があります。

  • 「歴史的伝統」と「有機的成長」の重視

    • バークの思想:社会や道徳は、誰かが頭の中で急に作ったものではなく、何世代もの歴史の中で「自然に育まれてきたもの(有機体)」であると考え、急進的な破壊(フランス革命など)に反対しました。

    • 新渡戸の視点:武士道もまた、法典として成文化されたものではなく、何百年もの歴史の中で日本人の血肉となった「不言の掟」です。新渡戸は、この「歴史が育てた道徳」という共通点においてバークの思想に深く共鳴しています。

  • 「高貴さ(Chivalry)」への哀愁と継承

    • バークはフランス革命によって「騎士道の精神(名誉、義務、弱者への憐れみ)」が失われ、計算高くて無機質な「商業主義の時代」が到来することを憂いました。

    • 新渡戸も同様に、明治維新によって日本の封建制(武士の時代)が終わり、近代化(資本主義化)が進む中で、武士道という美しい倫理観が失われてしまうのではないかという危機感(哀愁)を持っていました。しかし、形(制度)は滅びてもその精神(光)は残ると信じて、本書を執筆したのです。

新渡戸はバークの言葉を借りることで、「西洋人がかつて持っていて失いつつある尊い精神(騎士道)が、実は形を変えて日本(武士道)に今も生きているのだ」と伝えたかったと言えます。

関連記事:武士道 第1章 #4



いいなと思ったら応援しよう!

橋本 このたびはご評価をいただきありがとございます。また、チップまで下さるとは私にとって大変な喜びです。さらに英文訓読の役を進め、アップさせていきたいと思います。